第5話 追放白魔道士、さり気なく高等テクニックを披露する


「ひやぁぁぁっ!」


「うわぁぁぁ!」


「……んっ……ふっ……!」


ゴーレムが攻撃を始めて、1分ほどが経った。


まだ三人とも耐えてはいるが、危ない場面も増えてきた。


まぁ、十歳の子供だということを考えればよく避けていると言えるだろう。


そんなことを考えていると、後ろから誰かが近づいてきた。


「よぉ、相変わらず器用だな。」


言いながら、近づいて来たのは、このギルドのギルドマスター、通称ギルマスだ。


「……何がだ。」


「何って、お前あれ自動オートじゃ無くて手動マニュアルだろ?」


そう言ってゴーレムを指すギルマス。


「……なんでわかった?バレないように隠してたつもりなんだが。」


「まぁ、いくらお前でも魔力線を消しきることは出来ねぇってこった。」


……俺からゴーレムに繋がる魔力線を感じ取ったのか。


Aランクの奴にも隠し通せたんだけどなぁ……。


「三体のゴーレムの手動操作ってだけでも難しいのに、あの子たちに怪我をさせないように完璧に制御しつつ、俺との会話も問題ないとか。人間業じゃねぇよ……。」


ゴーレムは本来、命令を与えれば自動で動く兵士のようなものだ。


戦場で兵力を傘増しするために使われたり、冒険者が盾として使うぐらいしか使い道がない不遇な魔法だが、使い手しだいでこの魔法の厄介さは大きく変わる。


ゴーレムは魔力により形作られた土人形で、魔法発動の際に命令を入力する必要がある。


しかし、命令を入力せず発動することで手動操作が可能になり、使用者の思うがままに動かすことが出来るのだ。


そうすると、使用者の熟練度次第ではただでさえ絶大なパワーを誇るゴーレムが、人間の思考で動くようになりとてつもなく厄介な魔法になる。


まぁ、俺が知る限りこの魔法を好んで使うやつは片手の指で事足りるがな……。


「にしても、厳しいな、ローワン。」


そう問いかけてくるギルマスに、俺は端的に返す。


「甘くすれば、死ぬのはガキどもだ。」


冒険者は楽な稼業じゃない。隣で笑いあっていた友人が、次の日には冷たい骸と化していたなんて、よくある話だ。


彼女達がそうならないために、俺は嫌われてでも厳しく当たらなければならない。


それが、「教育係」が負うべき責任だ。


「なるほど、確かにな。やっぱり、お前に任せてよかったよ。」


言葉を返さず、煙草をふかす。


そんなことを話しているうちに、エルシャが脱落した。


体力が限界だったのだろう。足がもつれ倒れてしまったところで、ゴーレムでエルシャを俺の側まで運ぶ。


「おつかれさん、よく頑張ったな。」


褒めておくことも忘れない。倒れるまでゴーレムから避け続けたのだ。課題をクリアできずとも、死ぬ訳では無い。ゆっくり進んでいけばいいさ。


まぁ、そのままにしておくのも体に悪い。


とりあえず、疲労を回復する魔法をかけて横に寝かせる。地面に毛布を置いて、その上にだ。


そうしていると、今度はミュリネが限界を迎えた。


ミュリネもエルシャ同様、倒れてしまったのでゴーレムで回収して、エルシャの横に寝かせる。疲労回復の魔法も忘れない。


最後は、マティナだが、思いのほかよくもちこたえている。


ギリギリを見極めて、全てを紙一重で躱し、体力を温存している。


いくらゴーレムが鈍重とはいえ、もう3分は過ぎている。加えて、新人である彼女よりは俺のゴーレムは格上だ。


そんな相手の攻撃を避け続けているのに、まるで集中が途切れる気配がない。


並外れた集中力に、動体視力もいい。あの回避を支えているのは、集中力だけでなく、あの目もだろう。


しかし……


「体力は、年相応だな。」


ミュリネとエルシャ同様、体力の限界を迎え、体が倒れる。直前までの攻撃モーションから、マティナを受け止めるように操作し、こちらまで運ぶ。


マティナを二人の横に寝かせ、疲労回復の魔法を掛ける。


やることは終えたので、あとは彼女たちが目を覚ますのを待つだけだ。




煙草をふかしながら、彼女たちが起きるのを待つ。


そんな時間が数分過ぎた頃、エルシャが目を覚ました。


「んみゅ……ん……?」


「おはよう。」


俺の顔を見て思い出したのか、沈痛な表情を浮かべるエルシャ。


どうしたのかと思っていると、エルシャが口を開く。


「あ、あの!さっきのは上手く出来ませんでしたけど……が、頑張りますから!だから……だから……っ!」


あー、なんか勘違いしてんのかな?俺が教育係を辞めるとか思ってる感じ?なんで?


「ん?今回のは君らの現状を図るためのもんだよ?なんか勘違いしてる?」


エルシャは驚いた様子で


「あの、避けきれなかったら辞めるってわけじゃないんですか?」


「何でそう思ったの?」


「その、あまり教育係をすることに乗り気じゃなかったので……。」


はぁん、適当に理由つけて俺が辞めようとしてるって思ったってことね。あの場でやるって言ったのに、そんなわけなくね?……でも、子供だからな。そういうところは、まだわからんのかもな。


或いは、子供は大人の感情に敏感だって言うから、俺が面倒臭がってるってことに過剰に反応したのかもな。


どっちにしろ、説明してなかった俺の責任か……。


「……俺は一度引受けるといった依頼を投げたことは無い。最後までやりきるさ、君らが逃げなければ、だがね。」


そういうと、エルシャは俺をしっかりその目で捉えて、


「お願いします……っ!」


頭を下げた。

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