第2話 追放白魔道士、面倒を嫌う


「お前に、新人パーティーの教育係を任せたい。」


真剣な面持ちで、俺の顔をのぞき込みながら、言い放つギルマス。


「は?」


あまりに予想していなかった頼みに、呆ける俺。


「……お前に、」


「あーいや違う。聞こえなかったわけじゃねぇよ。」


もう一度言おうとしたギルマスを止めて、理由を聞く。


「なんで俺?他にも適任者はいるでしょ。」


そう訪ねる俺に、ギルマスは


「いや、お前しかいない。お前にしか、託せないんだ。頼む、この通りだ!」


200近い背丈のスキンヘッドの男に、頭を下げられ懇願される。


傍から見たら恐怖しか感じないだろう。なんせ俺もちょっと怖い。チビりそう。


……真剣に頭を下げ、頼み込む友人ギルマスの姿を見て、俺は口を開く。


「断る!」


勢いよく、考える余地もないと告げるように叫ぶ。


「そうか、引き受けて……え?」


途中で気づき、疑問を見せるギルマス。


「断る!」


俺はもう一度、はっきりと聞こえるように言い切る。


「お……お前、親友がこんなに真剣に頭を下げてまで懇願してんのに、断るってのか!?鬼か貴様っ!?」


「なんとでもいえ。お前こそ、それで俺が毎回聞いてやるはずもないだろう。このやり取り何回目だよ、学べよ。」


そう、この男ギルマスこうやって面倒事を毎回俺に引受させようとしてくるのだ。


俺が様々なことに手を出していることを知っているため、便利屋の如く俺を使おうとしてくるのだ。


全く、油断も隙もありゃしねぇ。


「そ、そんな事を言わないでくれよ。今回はほんとにお前しか適任が居ないんだよぉっ!!」


「その言葉も何回も聞いた。つーか、昨日の依頼でも言われたばっかだろーが。」


煙草をふかし、ギルマスの目を見る。


「俺の事をなんだと思ってんの、ギルマス。酒飲むのも付き合うし、愚痴ぐらいなら聞いてやるけど、わざわざ面倒事を引き受けてやる義理はねぇよ?」


そう言うと、少し困ったような表情を見せ、項垂れるギルマス。


そして、いきなり語りだした。


「……今回、お前に受けてもらいたい依頼は、さっきも言った通り、教育係だ。新人のな。ただ、普通の新人なら、ギルドのルールで、適当な奴を選ぶだけだ。規定では、Cランク以上になってるから、その中から性格がマシなやつを選ぶんだが、今回はそうはいかないんだ。」


……ふざけた奴だが、くだらない嘘は言わない奴だ。今回のことも、ある程度は本気なのだろう。


「大抵の新人は、強くてもDランクレベルで、Cランクのやつでも抑えが効く。ほとんどは素人だから、職業が違おうが教えられることは多いし、冒険者の心得を教えるだけでも問題はない。教育係ってのは、そういうもんだからだ。」


……確かに、教育係がやることはそこまで多くない。冒険者としての在り方や、必要なら魔法や戦い方に関する助言をする程度。あとは、稼ぎが出るまでの面倒を見てやるだけだ。


、俺である必要はない。


「だが、今回依頼したい奴らは、それじゃダメなんだ。」


えらく勿体ぶった言い方だな。


「それで?」


俺は少し急かす。


「今回の教育対象は、全員がSランクになり得る才能を持っているんだ。」


……なるほど。その才能が惜しいと。


確かに、生半可な奴が教育係をやれば、その子たちの才能を潰してしまいかねないだろう。こいつが、気に病むのも理解はできる。


しかし、


「尚更、俺である必要が分からないな。何故そこまでして俺に、教育係をやらせたいんだ?」


やはり、俺である必要性を感じない。何を思って、このバカは俺を推薦しているのだろうか。


「……今回の新人パーティーは3人だ。まぁ、ギルドが、その3人を集めるように誘導したんだが……。それはまぁいい。問題は、3人ともが別々の天賦を持っている事だ。」


天賦……それは、八歳になると神から与えられる、魔物に抗うための力と言われている。


最近になって、色々新しい発見もあったのだが、今は置いておこう。


天賦は、冒険者の間では職業と呼ばれており、最初に与えられる天賦、初期職業ファーストジョブは、3種類。


回復や味方の強化を覚える白魔法を得意とする【白魔術師】。


攻撃魔法を主として覚える黒魔法を得意とする【黒魔術師】。


白魔法も黒魔法も覚えることが出来る器用貧乏な【赤魔術師】。


教育係をつける新人パーティーには、それぞれの天賦を持つ3人のパーティーなのだろう。


そして、それぞれが才能の塊であり、全員の才能を伸ばすことが出来る教育係がいないということだろう。


「だから、全ての魔法を高水準で扱える、お前に教育係を頼みたいんだ。」


……俺は確かに、全ての魔法を扱える。誰かに教えるのだって、天才肌ではない俺なら1から理論だてて教えることも出来るだろう。


「俺は、才能がない。だから、その子達の才能を伸ばしてやることができない。つーか、一人一人に同じ職業系列の冒険者を雇えよ。その方が絶対いいじゃん。」


「……まともな冒険者は少ない。更に言えば、まともに教育係ができる冒険者も少ない。お前も知ってるだろ?」


……まぁ、基本冒険者は荒事専門だからな。それに、就職できない一般人が最後に行き着く職種でもある。


まともなやつの方が少ないか。


「……はぁ。とりあえず、その新人見てからだ。」


「いいのか?」


頼んでおいて、いいのかもクソもないだろうに。


「見るだけだぞ?受けるとはまだ言ってないからな。」


……こいつには世話になってるしな。恩を仇で返すのは、気が引ける。


「にやにやするな。受けねぇぞ。」


「よし、新人のとこに案内するから着いてこい!」


誤魔化すならもうちょい上手くやれよ……。

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