元白魔術師のオールラウンダー、少女パーティーの教育係に任命される
碧海
第一章 追放と悪報
第1話 追放白魔道士、冷静に受け止める
「パーティーを追放って、本当にあるんだなぁ。」
煙草をふかしながらそんな事をつぶやく中年。
身長は180cmに届かない程度だろうか、鍛えられている体には似つかわしくない白魔道士用のローブに身を包み、草臥れた雰囲気の男だ。
目に光はなく、無精髭を生やしたこの男は、先刻のことを思い出しながら歩いていた。
――――
「ローワン、今日をもってお前を追放する。」
そう言葉を発したのは、【竜の牙】のパーティーリーダー、レオナルド。
金髪で、勇者然とした鎧を身に纏う魔法戦士だ。
「ローワンさんにはお世話になりましたけど、白魔道士は二人もいりませんし、もうお年でしょう?」
そう言外に邪魔だと告げているのは、白魔道士のミカエラ。
いかにも清楚という言葉が似合う女の子で、ローワンに師事していた一人だ。
「……。」
言葉を発さず、こちらを見ている巨漢はドラギヌス。
このパーティーのタンクであり、無口な武人肌の男だ。
「あの、えと……、」
こちらを心配そうにみながらも、戸惑った様子の子はフェリスリージャ。
黒魔道士としての才能はピカイチなのだが、コミュニケーションが苦手で、あまり人と話さない女の子だ。
「俺たちは、ようやくパーティーランクがAに届くほどに成長した。だが、お前という足枷をつけたままでは、これ以上成長できない。」
「いつまでも、私達のパーティーにしがみついていられては迷惑なんですよ。」
レオナルドとミカエラは、続けてそう言葉を続ける。
ドラギヌスとフェリスリージャは、何かを考えるように、動きを止めている。
「そうか。それで?」
俺ことローワンは、煙草をふかし、あくまで冷静に、相手の要求を聞く。
「今すぐ、荷物を纏めて、パーティーハウスから出ていけ。さもなくば……!」
そう言って、剣の柄に手を伸ばすレオナルド。
俺はそれを冷めた目で見ながら、
「分かった。」
とだけ言い残し、荷物を纏めて部屋を出る。
「二度とここに入ることを許さん。わかったな!」
返事をするのも面倒なので、手を振って答える。
最後まで、ドラギヌスとフェリスリージャが心配そうにこちらを見ていた。
――――
そんな事があり、俺はソロの冒険者として活動することを余儀なくされた。
まぁ、白魔道士とは言え元から色んなものに手を出していたから、特に困ることは無かった。
一番困ったことといえば、パーティーから追放されたことを馴染みの受付嬢に告げた時だろうか。
あの時は大変だった。
パーティーを追放されたことを話した途端に、受付嬢が叫んでしまったのだから。
そんな事をすれば当然、他の冒険者にも聞かれることになり、顔の広かった俺は一斉に近づいてくる冒険者共を相手するのに、大変な労力を使った。
「まぁ、レオラちゃんも謝ってくれたし、いいんだけどね。心配されること自体は、悪い気はしないしな。」
レオラというのは、件の受付嬢の名前だ。
何故だか、以来の報告をする時は、毎回彼女が担当なのだが、どういうことだろう……。
まぁ、それは置いておいて。
長らくパーティー行動をしていた事もあり、ソロでの依頼は新鮮に感じたものだ。
全てを自分でやる必要があるので、大変ではあるがパーティーにいた時のように、レオナルドやミカエラの我儘を聞く必要も無くなったので気楽にはなったな。
なんせあいつら、冒険者のくせに野営用のテントや飯にまで文句をつけるからな。
やれテントが狭いだの、やれ飯が味気ないだの、冒険者やる気あんのかと問いたくなるようなことを毎度の如く言ってくるのだ。
それに対応しなけりゃならん俺の身にもなってくれ。あれのせいで、どれだけ無駄に魔力を使ったか。
テントが狭いと言われれば、魔法で即席の家を作り……。飯が味気ないと言われれば、適当に狩った魔物と香草で料理を作り……。
だけども、彼等は途轍もない才を秘めていた。
レオナルドは、まるでおとぎ話の勇者の様に、ミカエラは、まるで空想の聖女のように。
他の2人だって、凄まじかった。魔法の才能が乏しいながらも、恵まれた肉体と絶妙なポジショニングで最高峰のタンクとなったドラギヌスも、圧倒的な才能を持ちながらも努力を怠らずメキメキと頭角を表して言ったフェリスリージャも。
才能に乏しい、俺とは正反対だった。
まぁ、俺は俺で手数の多さや取れる手段の多さは、あの中でも1番だと自負している。
だからこそ、俺はソロで冒険者をやれているわけだしな。
そんなこんなで、依頼をこなしているうちに、俺はBランクの冒険者になっていたり、変な二つ名がついていたりと色々あった。
そして、……10年の月日が過ぎた頃。
俺が所属する冒険者ギルドのギルドマスターから、呼び出しを受けた。
俺とギルマスの関係はそこそこ深く、一緒に飲みに出かけるほどには仲がいい。
だから、俺はいつものように何も気負わず、ギルマスがいる部屋に入っていった。
ガチャリ
「よぉ、俺に何の用だ?」
扉を開け、すぐに要件を聞く俺に、呆れ顔をしながらもしっかりと答えてくれるギルマス。
この適当さが、俺たちの関係が続く秘訣だな。
「お前に、頼みたいことがある。」
ギルマスが、俺にこんなことを言うのも珍しい。
何か、重要な案件でも転がってきたのだろうか?
「言うだけならタダだ。聞くかどうかは知らんが。」
煙草をふかしながら、そんな適当なことを言う俺に、真剣な面持ちでギルマスは告げる。
「お前に、新人パーティーの教育係を任せたい。」
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