第146話 私も類のことは好きだよ

 ……やべぇ。やっべぇ……!! つーか、なんでこのタイミングで帰ってくるんだよ!! もしかしてロビンが調整してたのか……!? いや、俺が話すもっと前から帰ってきていた可能性もある……と、とにかく! ここは騒ぎを起こさないよう、平穏に終わらさなければ……!!


「え、えっと……あ、れ、レイ。これはその……なんだ。ロビンが変なこと聞いてきてさ。どうしてもそういうことを言わせたがってて……それで……!」


「……」


「……レイ?」


 すると彩花は優しく微笑んだ後、俺に近づいてきて。


「ありがとね。私も類のことは好きだよ」


 余裕っぽく、そう言うのだった……もしかして。ここで照れたりしたら、変な空気になることが分かっているから、平静を装ってくれてるのか!? ありがてぇ……ありがてぇけど……耳、真っ赤にしてるんですけど!? 大丈夫か、保てるか!?


「え、えっと……そろそろ始まるので、私達は控室に行きましょうか?」


「ああ、そうだな」


 それで空気を読んでか知らないが、カレンさんはロビンを連れて控室へと帰って行くのだった……ねぇ、ちょっと! 戻るなら彩花も一緒に連れってってやってよ!!


「……」「……」


 そして取り残された俺ら二人……なんだこれ。誰も幸せにならない時間だって。


「えっと……その、レイ。説教は終わってから幾らでも聞くから……だから今は何も言わないでくれるか?」


「……分かった。でも、これだけ言わせて」


「なんだ?」


 それで彩花は恥ずかしそうに、手で口元を隠しながら。


「……私。今、ニヤけるの必死に我慢してるんだよ?」


「えっ、それって……?」


 俺の続きの言葉を聞くまでもなく、彩花はその場から去っていった。ニヤけるのを我慢って……それって嬉しいからってことか? なんだ。アイツも可愛いところあるじゃんか……ってなんか無性に暑くなってきたな。俺まで照れなくていいってのに。


 ──


 ……それで。しばらくしてから、スタッフさんもスタジオに戻ってきて。俺は通しのリハーサルを行って、お披露目配信の時間になるまで待機していた。


 その間俺を気遣ってか、俺に話しかけてくる人はいなかった。それならと俺は、配信が始まるまで、頭の中で流れをシミュレーションしていた。


 そして本番開始直前。


「…………」


 ……俺はめっちゃ緊張していた。なんでだよ! あれだけ練習したのに!! どうして俺の足は震えてるんだよ!! おっ、おちおち、落ち着け俺……!


「……類」


「あ、レイ……」


 顔を上げるとそこには彩花の姿があった。恥ずかしい話だけど……彩花を見るだけで、俺の心は少し落ち着きを取り戻していた。やっぱり彼女が近くにいるってだけで、安心できるのかもしれない。


 そして彩花は俺が緊張していることを分かっていたのか、一度深く頷いた後。


「類はいつも通りやったら大丈夫だよ。絶対に上手くいくから」


 そう言葉を掛けてくれたんだ。


「……ありがとう。なんか初配信の時を思い出したよ」


「ふふっ。あの時も類、私に電話してきたよね?」


「そうだったな……なんか俺、お前に迷惑掛けてばかりだな」


「ううん、そんなことないよ。私だっていつも類に助けてもらってる」


 言うほど助けたことないけどな……? とか思ってると、俺の脳内を察したのか。彩花は具体例を挙げてってくれて。


「この前やったエイプリルフールの企画だったり、クラストオンラインで一緒に行動してくれたことだったり。凸待ち配信にも来てくれたじゃん。どれも全部、類がいなかったら成立しなかったんだよ?」


「いや、そんなことはないと思うけどな……? それに全部楽しそうと思ったから、俺は協力しただけだし……」


 そこまで言ったところで、彩花は優しく微笑んでくれて。


「私も同じ。今日も楽しそうって思ったから来たし、上手くいくって信じてるから『大丈夫だよ』って声を掛けただけ。深い意味なんてないんだよ」


「そっか……ありがとな」


「ルイさん、準備の方お願いしますー」


 このタイミングで、スタッフさんが俺のことを呼びに来た。彩花達の出番は後からなので……最初は俺一人で、配信を進めていく必要があるのだ。


「はーい。……呼ばれたから行ってくるよ」


「うん、頑張ってね、類!」


 その一言で全身の震えが止まってしまう俺は、本当に単純なヤツなのだろう。


「よし。行ってこい、ルイボーイ」


「ファイトです、ルイさん!」


「ありがとう! 行ってくる!」


 そしてロビンとカレンさんからも激励の言葉を貰って、俺は控室を出た。そして配信スタジオに入り、待機して……配信開始時間になった後、事前に作ってもらっていた数十秒のムービーが流れ出した。


 それは俺の後ろ姿を映した映像で。そのルイが目の前にある大きな扉を開いた後、画面は真っ白に包まれて……次に映し出されたのは、魔法学校の背景と3Dの『ルイ・アスティカ』の姿だった。


 リハーサル通り、俺は一歩前に踏み出して……手を顔に近づけ。決めポーズをしながら、こう言った。


「……ふーっ。初めましての方は初めまして……スカイサンライバー所属、最強魔道士でお馴染みのルイ・アスティカだ」


『うおおおおおおおおおお!!!!!!』

『きたあああああああああああああああ!!!!』

『ルイ3Dおめでとう!!!!!!』

『草』

『想像してたよりもちっこいなwwww』

『初期ルイの挨拶で草』

『幻の挨拶じゃねぇか』

『言うほどお馴染みか?』

『ルイが生きてる!! 歩いてる!!』 

『待ってたぜぇ、この日をよォ!!』

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