第144話 我の口は堅いことで有名だぞ?

 そんなやり取りを終えた俺らは、続きの流れをスタッフさんから聞いていった。


「その次はレイさんとカレンさん、そして料理家の方を加えて、格付けチェックを行います。どれがプロの料理か当てるやつですね。その場で料理すると時間が掛かってしまいますので、この後お二人は調理場に移動して、料理を作っていただきます」


 ああ、事前に作っておくってことか……ってかここに調理場とかあったんだな。それなら他の料理企画とかも3D配信でやれるかもだ。青春お弁当選手権を開催するのも夢じゃないかもしれない……。


 そんなことを思いながら、俺はスタッフさんに質問する。


「誰の料理か当てる時って、目隠しとかするんですか?」


「いえ、そのままやってもらおうと思ってます」


「あっ、はい。分かりました」


 本家同様のルールでやると思っていたが、どうやらそこまで一緒ってわけではないらしい……と、そこで彩花が会話に割り込んできて。


「あれ、もしかして類、私らのこと舐めてる? 一発で当てられると思ってる?」


「そりゃまぁ……プロと比べたら、流石に分かるだろ」


 何の料理を作るか知らないが、「分からないかも」なんて言ったらプロに失礼だろう……ただ、その言葉は二人の方には失礼だったみたいで。


「言いましたねー? 私達、結構料理出来るんですよ?」


「うんうん、そうだよ? それに私、類の好きな味付け分かってるし…………」


「……」「……」「……ん?」


 ……彩花の言葉により、辺りは一瞬にして変な空気に変わる……おい、ここにはロビン達だけじゃなくて、スタッフさんもいるんだぞ……!?


「えっと…………なんでもないよ?」


 彩花は別に変なこと言ってませんけど? みたいな感じで平静を装っているが……その様子が更に怪しく見えていた。はぁ……日頃から油断するなって言ってるのに……まぁでも配信中じゃなかっただけマシか?


 それでこの辺は流石と言ったところか……スタッフさんは何も聞いていなかったかのように、さっきまでの口調で淡々と説明を続けて。


「その後、皆さんで一曲歌ってエンディングとなります。配信は一時間前後を予定してますので、スムーズに進行出来るよう協力お願いいたしますね」


「はい、もちろんです」


「ありがとうございます。では、レイさんとカレンさんは今から調理場に向かいましょうか。ルイさんロビンさんは、時間までゲームの練習をしていても構いませんよ」


「はい、ありがとうございます」


 そして二人はスタッフさんの後を追って、この場から離れていった……俺は言われた通りダンスの練習しようと、また筐体のステージの上に立とうとした……その時。


「なぁルイボーイ……この際だから聞いておきたいんだが。ルイボーイは、レイ嬢とどんな関係なんだ?」


 ロビンがそんなことを聞いてきたのだ。思わず俺は振り返って、誤解を解こうと……というか誤魔化そうとしていた。最悪カレンさんにはバレてもなんとかなるだろうが、コイツに知られるのだけはマズイ……!


「えっ……? い、いや、別に? レイはそう、仲の良い友人でだな……」


「好きなのか?」


「はっ……はぁ!? 別にぃ!? なに言ってんだよお前!! 変なこと言うなってば!! もー! やだなーもー!!」


「……こんな分かりやすい反応するやついるか?」


 俺が変に焦り過ぎていたもんだから、若干ロビンは困惑していた……でも急にそんなこと言われて、どうやって返したらいいか分からなかったんだもん!!


 そんな顔を赤くしている俺へと、ロビンは近づき……肩に手を回して。


「まぁまぁ。せっかく二人きりなんだし、たまには男の会話でもしようではないか」


「ヤダぁ!! だってお前、絶対口軽いじゃん!」


「心外だな。我の口は堅いことで有名だぞ? それはもう……◯指定の韻並に」


「ガッチガチじゃねぇか!」


 この世で一番固いもの出されたんだけど。ここで単純な物の固さを出してこない辺り、流石と言うか……いや別にロビンのことを信用したわけじゃないけど……。


 そしてロビンはポンポンと、俺の肩を叩いて。


「まぁまぁ、我も話すから良いではないか?」


「ロビンも……? お前、恋愛とか全く興味なさそうなんだけど」


 半年近くロビンとは絡んできたが、彼が恋バナや好みのタイプなんかを話している場面は一度も見たことなかった。だからてっきり興味ないものかと思っていたんだけど……でも話そうとしてるってことは、何かしらあるんだろうな……?


 それでロビンは天井を見上げて……何かを思い出すように呟いて。


「まぁ……そうだな。ある人と出会うまではな」


「あっ、もしかして…………ある人って。引退したっていう……」


 心当たりが合った俺は、そこまで口にすると……ロビンは俺に視線を向けて。頷きながら、こう言ったのだった。


「そうだ。我が好きだった人物は……伝説のVTuber。スカイサンライバー第一期生の音崎ソラシだ」

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