第143話 俺より目立つ気満々じゃねぇか

 そして俺らはリハーサルを行うことになった。最初に俺らは身体の隅々にマーカーが付けられたスーツを着用し、専用の手袋や靴を装備するよう指示された。もちろんこれらはキャプチャするために必要なものらしい。


 着替え終わった俺は、両腕を伸ばしながら言う。


「おお、なんか……改造人間になったみたいだ」


「フフ、我も最初は相当興奮したな。お披露目配信では、とにかく出来る動き全てしたと言っても過言ではない」


「見た見た。ロビンこんな動くんだって思ったもん」


「元々バンドをやっていたからな。ステージ上でのパフォーマンスはお手の物だ」


「ははっ。ならお前の動きも勉強させてもらおうかな」


 そんな会話をしつつ、スタッフさんに案内され、モーションスタジオに入る。そこには……いかにも高そうなカメラが、あちらこちらに設置されていて。そしてスタジオの端には、ゲーセンで見たことのある『ダンスダッシュ』の筐体が置かれていた。


「マジで借りられたんだな……でっけぇ」


「おおっ、凄いなルイボーイ! これがあれば、タダで遊び放題だぞ!」


「興奮するとこそこかよ」


 こいつがこんな素を出して喜んでるの久々に見たな……そんなやり取りをしてると、スーツ姿の彩花とカレンさんもスタジオに入ってきて。


「おおー、遂に類もその格好になるとはね?」


「来たかレイ……こうやってみんな並ぶとシュールだな」


「ふふっ、でも笑ったりしちゃダメだよ? 私じゃなくて、VTuberのレイとして接しなきゃダメなんだからね?」


 そう言いながら彩花は正面のモニターを指す。そのモニターには、俺らVTuberのキャラクターの姿が映し出されていた。なるほど、ここで配信上でどんな風に見えているか、リアルタイムで確認することが出来るのか。


「はい、それでは只今からリハーサルを行わせていただきます」


 そしてスタッフさんの声掛けにより、リハーサルが始まることになった。俺らは黙って説明を聞いていく。


「まずは流れを確認していきますが……最初にルイさんが登場してから挨拶をして、服装を見せ、表情差分を見せていきます。それからスクショタイムとして、色々とポージングをしてもらいます。ここまでで15分くらいが目安ですね」


「は、はい」


 もちろん事前に流れも決めて練習していたが、いざ口頭で言われるとパニクってしまうな。俺に時間配分とか、きっちり出来るだろうか……?


「その次にダンスゲームをやってもらいます。このタイミングで、他のオーウェン組の皆さんも登場してもらう形になりますね。そしてルイさんともう一名がプレイして、スコアを競う展開にしようと思いますが……そのもう一人が決まっていないので、今決めちゃいましょうか。ダンスゲームやりたい方、いますか?」


 すると三人は目を見合わせた後……さっきからソワソワしていた男が、手を上げながら一歩前に出て来て。


「我がやろう」


「お前得意そうだもんな……」


 ……というわけで、ダンスゲームの対戦相手はロビンに決まった。まぁ彩花とカレンさんは後々出番があるから、丁度いい配役かもしれない。


 そしてロビンは俺に耳打ちするように、俺に近づいてきて。


「ルイボーイ……我は忖度などは一切しない。ガチで勝ちに行くからな?」


「ああ。そうしてくれると助かる」


 そこでスタッフさんが話に入ってきて。


「じゃあ時間ありますし、一回ちょっとやってみますか?」


「えっ、いいんですか?」


「構いませんよ」


 そして案内されるまま、俺は筐体のステージの上に立った。このゲームは流れてくる譜面に足でリズムを取るという音楽ゲームで、言ってしまえばダンス要素は意外とそこまで無い。ただもちろん足だけよりも、踊りながら判定を取った方が見栄えは良くて。そのダンス姿を映したプレイ動画なんかは、結構人気があったりするのだ。


 ……ま、俺はそこまでの技術は持ち合わせていないんですけどね。


「曲はコラボ曲で追加された、ロビンさんの『ソラに届くまで』でお願いします」


「了解です……お前、音ゲーにまで曲入ってんのか」


「フフ、羨ましいだろ?」


「いやまぁ、凄いなとは思うよ」


 言いながら俺は曲を選択して、ゲームを開始させた……そしたらロビンの歌声と共に流れてくるは譜面ノーツ。画面に目を向けながら、俺は必死に右足、左足を出して判定を取り続けた。もちろんそんなんだから、動きはぎこちなくて。


「類ー! もっと全身を動かさなきゃ!」


 後ろから彩花の声が聞こえてくるが、そんな余裕は当然無く……。


「そうは言っても、無理、無理なんだって……!」


 言いつつ俺はステップを踏んで踏んで、ジャンプして、スライドスライド……ジャンプジャンプ……ジャンプジャンプ……おい、この譜面考えたやつ出てこい……!!


『ゲームクリアー!』


「…………ハァッ……ハァァッ……!!!」


 プレイ終了後、俺は筐体から離れ、転がるように仰向けになった。はぁっ……マジでキツイって……体力の無い俺には厳しいって……。


「お疲れ様、類」


「ァッ…………!!!」


「喋るのも限界っぽい感じですね……?」


「よーし、次は我の番だな!」


 言いながらロビンは意気揚々と筐体に近づいて、プレイを開始させた。ロビンはステップを踏みながら、オリジナルの振り付けを取り入れ……器用に判定を取りつつ、腕を振ってカッコつけてみせた。


「おお、ロビンさん、なんだかアイドルみたいです!」


「というかライブでやってた振り付けだねー、あれは……」


 女子二人の視線を奪いつつ、最後に指を天に上げて決めポーズを取った。


「決まったッ……!」


 言いながらロビンはそのままスコアを確認した……俺も後ろから覗いてみたが、普通に俺のスコアよりも上回っていた。俺は彼に近づいて、こう問い詰める……。


「おいロビン……絶対やりこんでただろ、このゲーム」


「フッ……バレたか?」


「バレバレだ。もう俺より目立つ気満々じゃねぇか」


「フフフ……扇風機を独り占めにしながら、練習した甲斐があったな」


「マナーわる……」


 あの音ゲーのコーナーにある扇風機な……そんなことしたら、普通に怒られそうなもんだけど……。


「人のいない平日の早朝にやってたから大丈夫だ」


「それはそれで怖えんだって」


 ド平日の朝から扇風機独占しながら練習してるのは、傍から見たら怖いんだってば……そしてロビンは俺に拳を突き出してきて。


「ではルイボーイ……決勝で会おう」


「トーナメントじゃねぇんだよ」

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