第141話 六月に何があるか知ってるか?

 それから数日が経った。お披露目配信の傾向としては、各々ライバーが得意なことを3Dの身体を使って披露していくという感じらしい……ちなみにレイの3Dお披露目配信は、半分以上歌と踊りで形成されていた。


 あいつは自分の売り方を分かってるからなぁ。こうやって自分のやりたいこと、求められてることに全力で応えられるってところは、ちょっと尊敬している。


 でも俺の得意なことってなんだろうな……やっぱりゲームか? でも3D配信でパッドとかキーマウ操作を見せるのは地味かなぁ。ならいっそのこと体感ゲームを用意してもらって、それを見てもらう方が面白いかも……。


「……あっ」


 そういや前に彩花が、みんなでゲーセン行ってみたいとか言ってたことあったっけ。配信スタジオにゲーセンに置いてある音ゲーとか持ってこれたら、面白いことになるかもしれない。


 それで言ったら、カレンさんは料理がしたいみたいなこと言ってたから……料理企画も入れてみてもいいかもな。俺が前に考案した、青春お弁当選手権は流石に難しいかもしれないけど……テレビ番組をパロった企画、格付けチェックみたいなものをやっても面白いかもだ。3Dだとリアクションも見られるし。


 ……で、最後に歌とか歌ってみたりして。でも俺の下手な歌でズコーってなって終わるのは避けたいから、ロビンとかに協力してもらいたいかもな。


「……ふぅ」


 こんなもんか。結局オーウェン組みんなのやりたいことリストみたいな感じになったけど……それも悪くないだろう。俺も本気でやりたいって思ったからな。


 というわけで。大体やりたいことが決まった俺は、文章にまとめてネモさんにリストを送ったのだった。


 ──


 それから更に数週間経って。ルイ・アスティカの3D化計画は着々と進んでいた。もちろんその間、俺は通常の配信も行っていて。


「ういーす。こんルイ。世間はゴールデンウィークという連休で賑わっているらしいけど、いかがお過ごしだルイ民のみんな」


 連休中に俺は雑談配信の枠を取っていた。そこには暇を持て余したルイ民が、二千人近く集まっていて。


『こんルイ』

『連休……知らない子ですね』

『ずっと家にいるおー?』

『久々にルイ民ってワード聞いたな』

『俺は毎日がゴールデンウィークみたいなもんだよ!!!!』

『おはニート』

『GWにルイの配信見てる時点でお察しだも』


「ゴールデンウィークに見てる時点でお察しって……なんかクリスマスの時にも見たな、そのコメント。でも別にゴールデンウィークは良いだろ? どこ行っても混んでるし……渋滞のニュース見ながら、俺の配信見てたほうが幸せだろ?」


『いや?』

『そうでもないよ』

『性格悪いなぁお前w』

『諸説ある』

『しゃーなしで来てあげたんだからね!』


 相変わらずコメントはツンデレばっかりだった。コメント欄は配信者の鏡、なんてことはよく言われているが……流石にそれは嘘であると信じたい。


「まぁ、それよりもみんな。来月にあるイベント知ってるか?」


『イベント?』

『知らないなぁ』

『なんかあんの?』

『来月は六月だっけ』


「そうそう、六月。六月に何があるか分かるか?」


 ここで俺は来月、俺の誕生日であることをみんなに思い出してもらおうとしていた。ただその答えは中々出なくて……。


『わかんにゃい』

『六月か……梅雨だな』

『祝日が無い絶望の月だよ』

『祝日無いのやめてね📮👍️』

『ジメジメしてるからそんな好きじゃない』


「おいおい、察しが悪いぜお前ら?」


『は?』

『は?』

『おまいう』

『まさかお前に言われるとは』

『本日のお前が言うなスレはここですか?』

『鈍感系主人公に言われたくないですねぇ……』


 そう言うと一気にコメントが流れてきた。流石にもう鈍感系キャラは無くなったと思ってたんだけどなぁ……とか思ってると、また一つのコメントを皮切りに、コメントの勢いは増して。


『もしかして……結婚か?』

『あっ』

『あ』

『とうとう(正解)出たね……』

『ジューンブライドってやつですか』

『おめでとう! レイちゃんとお幸せに!』


「いや、なんでそうなるんだよ!! ……ってかもしそうだったとしても、祝福するのおかしいだろお前ら!! ちゃんと怒れよ!!!!」


『草』

『草』

『いやもう公認カップルみたいなもんだろ』

『逆に結婚してないことに俺らはキレてるよ』

『会場には俺らも呼んでくれよな?』

『結婚式配信期待してます!!!!』


 このままだともう本当の正解が出ないと悟った俺は……もう自分から誕生日のことを口にするのだった。


「はぁ……もうお前らが意地悪だから言いますけど、来月は俺の誕生日です。ライバーになって初めて迎える誕生日だね。まだ詳しいことは言えないけど、誕生日に凄いことやるから楽しみにしておいてくれよ」


 そう言うと『おめw』みたいな完全に祝う気0のコメントの他に、どんな配信が行われるかの予想が始まっていた。もちろんその中には『3D化するんじゃないか』と当たっているものもあったが……それを拾うことは出来なかった。


「まぁ俺の口からはこれ以上、何も言えないから……とりあえず今日は、フィット×フィットで体力を付けようかな」


 そして俺は雑談配信から画面を切り替え、スニャッチの電源を入れるのだった。


『お』

『うおおおおおおおおおおお!!!』

『ルイの運動きたあああああああああ』

『体力系の配信やるつもりか……?』

『ってか配信で運動するの初めてじゃね?』

『これは期待』


 ──


 十分後。俺は横たわったまま、声にならない声を上げていた。


「あうッ……おおッ……あっ………………おぇぇっ……」


『死にかけの声で草』

『即落ち二コマやめろ』

『普通に心配が勝つ』

『エッチな声出すなって早く言わせてくれよ』

『オホ声出してんじゃん』

『【速報】最強魔道士さん、体力0』

『レイ:ほら足止まってるよ、ルイちゃん』

『嫁も見てます』

『ちゃんとスパルタで草』


 ──

 ──

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