第140話 ルイ、3D化始動

 ──


 エイプリルフールから何日か経ったある日。とある嬉しいお知らせが、俺の元へと舞い込んできた。電話口のネモさんは、声を弾ませて言う。


『ルイさん……遂に、ルイ・アスティカの3D化の企画の話が来ました!』


「ええっ、本当ですか!?」


 3D化とは……文字通りVTuberの身体が立体的になることである。3Dになると全身を映して身体を動かすことが出来るので、ライブや身体を使ったゲームなど、やれる配信の幅がグッと広がるのだ。


 もちろん3D化には相当な費用が掛かるらしいので、誰でも簡単になれるわけではない。それなりの人気と実力が無いとなれない……って前に彩花が言ってた気がする。でも俺にその話が来たってことは、そういうことだよな……?


『ええ、本当ですよ。いやぁ……ここまでよく頑張りましたね、ルイさん』


 ネモさんはしみじみとそう口にする。きっと最初期の頃を思い出してるのだろう……でも俺って活動してから、まだ半年ちょっとしか経ってないんだよな。この早さでの3D化は、彩花が聞いたら驚くんじゃないか?


「いやいやそんな……ネモさんがいなかったらここまで来れませんでしたよ。いつも本当にありがとうございます」


 俺は謙遜しつつネモさんにお礼を言う。そしたら彼女は少し恥ずかしそうにしながらも、ちょっとだけ嬉しそうに。


『そんな褒めても何も出ませんよ? ……それで、3Dお披露目配信はルイ君の誕生日、六月一日にやりたいと思ってますので、予定を空けてもらえると助かります』


「分かりました」


『そして今日はですね、その配信の内容を考えようと思います。みんなに衣装を見せるとか、決めポーズとかやってほしいことは幾つかありますが……基本的には演者さんのやりたいことをやってもらう感じですね』


「なるほど」


 お披露目配信は、比較的自由にやらせてくれるんだな……そしてネモさんは続けて。


『ルイさんは3D化配信でやりたいことって何かあります?』


 やりたいことかぁ……出来ることの幅が広がったから、何か面白いことに挑戦してみたいとは思うけど。でもやっぱり最初は。


「そうですねぇ……まぁ。ここまで来れたのは応援してくれたみんなのお陰だと思ってますから。ファンのみんなに還元出来るようなことがやれたらなとは思いますね」


 そう言うとネモさんは「おお」と驚いたような声を上げて。


『意外ですね。もっと突飛なこと言うかと思ってました。バンジージャンプとか』


「いやいや、やりませんよ……怖いし」


『でもやりたがってる人は結構いますけどね? 動画出してる人もいますし』


「えぇ……」


 最近のVTuberってすげぇんだな……でもまぁ彩花とかがバンジーしてるとこは、ちょっと見てみたいかも。きっと良い声で叫んでくれるんだろうなぁ……。

 

『話が逸れましたが。きっとルイ民の皆さんは、ルイ君がやりたいことをやっているところを見たいと思ってますよ。だからやりたいこと、言ってみてくださいよ?』


「俺のやりたいこと…………ゲームとかですかね?」


 別にやりたいことが無いわけじゃないけど。パッと「こういうことがしたい」と自信を持って言えるようなものは思い浮かばなかったのだ。そのことを察してくれたのか、ネモさんはこう言ってくれて。


『なるほど。まぁ今日中に全部決めなきゃいけないわけじゃありませんから、しばらくゆっくり考えてみてください……あ、でも呼びたい方いたら早めに教えてくださいね? 来てくれるかもしれませんから』


 ああ、3D配信にゲストも呼ぶことが出来るのか。まぁ……誰が来てほしいかという問いに、真っ先に思い浮かぶのはアイツなんだよなぁ……でも言うの恥ずかしいな。


「……」


 俺はわざとらしく考える素振りを見せた後、こうやって発して。


「えーっと……そうだ。レイとかはどうですかね?」


『ああ、もちろんレイさんはもう予定抑えてありますよ。安心してください』


「……助かります」


 ……めっちゃ恥ずかしいんだけど。俺の思考、完全に先読みされてるじゃん。えーっと、じゃあ他にレイ以外に呼びたい人は……。


「あとはそうですね……オーウェン組で集まれたらって思うから、ロビンとカレンさんも呼べるなら呼びたいですね」


『なるほどなるほどオッケーです……あと最後に。ルイさんって毎週決まった時間を確保することって可能ですかね? 毎週三、四時間くらい』


「えっ? まぁ大丈夫だと思いますけど」


 最近はあまりバイトも出なくなったし、そんなアテにされなくなったからな。それにありがたいことに、VTuber活動でもお金を稼げるようになったし……でもネモさんは俺に何をさせる気なんだろうな?


『なるほど、ありがとうございます。ではまた数日後ご連絡するので、それまでに3D配信でやりたいことを考えておいてください』


「あっ、はい。分かりました、ありがとうございます」


 そうして通話は切れるのだった。少し気になることはあるけれど……とりあえず3Dお披露目配信で何をやるか考えなくちゃな。そう思った俺は、先輩ライバーの3D化配信のアーカイブを見ながら、やりたいことを書き出していくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る