第135話 ソースはギャルゲー

 そして今度こそ本当にゲームが始まった。どうやらオープニングを見るに、大きな穴に落ちて不思議な世界に迷い込んだ二人の少年と少女が、現実世界への帰還を目指すというゲームになっているようだ。


 ……で、この二人のキャラは友達や恋人などの関係ではなく、偶然一緒に異世界へと迷い込んだ二人という関係らしい。ちょっと珍しい設定だが、そういった所が逆にウケてるのかもしれないな。


 だってこの二人がカップルとかだったら、配信者同士でやるのはちょっとハードル上がるもんな……別にそんなことない? 俺の考え過ぎ?


 そしてキャラクターがお互いに自己紹介するタイミングで、操作キャラを選択する画面が出てきた。順当に行けば、俺が男キャラで彩花が女キャラを選択する場面だろうが……。


「類、どっち使いたい?」


「いや、どっちでも良いけど……」


『ここは女キャラだろ』

『せっかく入れ替わってるし』

『女の子の気持ちになるですよ!』

『ルイちゃんでいこうや』


 ……こんな状況だし、たまには入れ替えてみるのも悪くないかもな。思った俺は、こう提案していて。


「今入れ替わってるし、ここはお互いの性別を入れ替えてみないか?」


「おお、良いねー!」


 同意を得たところで、俺は女の子のキャラにカーソルを合わせて選択する。彩花も男の子のキャラクターを選択しながら、こう口にしていて。


「じゃあルイちゃんとレイくんってことだねー?」


「まぁ……俺らの名前って、どっちの性別でも使えそうだよな」


『確かに』

『せやな』

『なんならルイ君よりルイちゃんの方がよく見かけるぞ』

『レイ君ってかっこいいな』

『来年はルイちゃんの姿、期待しています!!』


「じゃあ今日だけルイちゃんって呼ぶね! 類も私のことレイくんって呼んでね?」


「別にお前が男だろうと、呼び捨てするんだけどなぁ……」


 そんなことを言いつつゲーム開始。見た感じ3Dのアクションゲームで(スーパーマリモ64みたいな)前に進んでいけば、物語も進んでいくという非常に分かりやすいルールをしていた。


 ただ、あの有名配管工並のジャンプ力は持ち合わせていないようで……。


「あれ、段差があって登れないね?」


 途中、とある壁に阻まれて進めなくなってしまった。でもまぁ……あからさまに四角い石が近くに配置されていたので。俺は操作している女の子キャラ(以下ルイちゃん)を動かして、石を引きずり、壁の前まで持ってきた。


「この石を段差にすれば、登れるんじゃないか?」


「おおー、ルイちゃんってば天才!」


 そう言って先にレイくんは石を使って、壁をよじ登っていった。


「やったー! 登れた!」


 まだチュートリアルの一環だと言うのに、大げさに喜んでいる彩花がおかしくて、ちょっと笑ってしまう。


「おいおい、先行くなって。レディーファーストだろ?」


「えっ? でもルイちゃん、私にそんなのしたことないじゃん」


「…………」


『あ』

『あっ』

『草』

『カウンター食らってて草』

『ルイちゃんさぁ……』

『それ女の子側が言うもんじゃないんだぞ、ルイちゃん』


 いや、ゲームの中で急に現実の話されても困るって……確かにそんなの彩花にしたことないけどさ。サラッと流してくれよそこは。


 そして俺も壁を登って、先の道を進んでいくと……そこには、大きな赤いボタンが地面に設置してあった。更に奥にはゲートのようなものがあって……。


「で、次のギミックが……一人がボタン踏んで、もう一人が先に進むやつかな。どっちが行く?」


「ルイちゃん行ってきてよ。レディーファーストなんでしょ?」


「早速イジってきやがったコイツ」


『草』

『草』

『盾役で草』

『楽な方選ばれてて草』


 そしてレイくんがボタンを踏んだことで『ゴゴゴゴ』と、ゲートが上がる音が聞こえてくるが……どうもそのゲートは、数十センチしか上がっていないようだった。


「ええ、しゃがんで行けってことか……?」


 俺はしゃがみボタンを押して、スティックを右に倒す……そしたらルイちゃんはハイハイのモーションを取って、前へと進むのだった。


「おっ」


 これならゲートを潜れそうだ…………ここで一つボケてみたくなった俺は、後ろでボタンを踏んで立っているレイくんに向かって……ハイハイしながらこう言って。


「後ろ覗いたら、許さないんだからねっ」


「……」


「スカートの中、覗いたら許さないんだからねっ!」


「……いや、聞こえなかった訳じゃないって。ルイちゃんに引いてるんだよ」


『草』

『草』

『俺らの気持ち代弁してくれてありがとう』

『ルイさん、キモいです』


 そんな彩花の返答に俺は足を(というかハイハイを)止めて、そのままバックしながら叫ぶ。


「なっ……なんでだよ! 普通、女の子こういう状況になったら言うじゃん!!」


「いや言わないって……もしかして、情報元はギャルゲーとか言うつもり?」


「…………」


『あっ』

『草』

『図星かぁ……』

『ルイちゃん、俺悔しいよ』

『ルイ「ソースはギャルゲー」』

『やめたれw』


「……ぐすっ……だ、だって……ギャルゲーで見たんだもん。近道しようとしてるヒロインがね、抜け道を潜ろうとしたら、おしりが挟まって……それで……」


「…………」


『レイくん無言で草』

『何この地獄の時間』

『もういい……もういいんだルイ』

『一回ボケただけでこんなダメージ食らって草』

『レイちゃんの姿でおしりとか言わないでください』


 そんな俺に向かって……彩花は諭すように一言。


「……ルイちゃん。それは男の人が考えた、男の人が喜ぶ女の子の言葉だよ?」


「うっ、うわぁ~~~ん!!!」


『草』

『草』

『草』

『火の玉ストレート165キロきた』

『本物の涙目敗走ってのを初めて見た』

『ガチ効く! ガチ効く!』


 俺は泣きながら逃げるように、高速でハイハイしながらゲートを潜っていった……そして進んだ先には、一つの宝箱と看板が設置されていた。


「宝箱……?」


 宝箱は持ち上げることは出来そうに無かった。それならばと看板を見ると、そこにはこう書かれていて。


【相方の好きな食べ物を入力せよ】


「ほーん……ここで最初のプロフィール要素が出てくる訳か」


『おっ』

『きたきた』

『クイズか!』

『レイのクイズなんて朝飯前だろ?』

『相手のことを知れる面白いゲームだな』


 なるほど……こういったクイズでお互いのことを知っていって、仲良くなれると。確かに配信者同士でやるのはオススメなゲームかもな。コミュニケーションも大事だし……ただ。俺は彩花の好物くらいは知ってる訳で……。


「この答えは……これだ」


 俺は宝箱に『オムライス』と入力したところ、カチャッと鍵の開く音がした。


『!?』

『うおおおおおおおお!!!!!』

『すっご』

『一発かよ』

『ノーヒントで!?』

『さっすがルイちゃん、詳しいねぇ』

『(レイのことなら任せろって……w)』

『「答えはこれだ……」←かっこいい』


 そして一気に賑やかになるコメント……もうこの流れも慣れてきたわ。


「さて、中身は……」


 言いながら宝箱を開けると、中には光り輝くダイヤモンドが入っていた。


「……𝓓𝓲𝓪𝓶𝓸𝓷𝓭?」


『草』

『草』

『ええて』

『初歩的なボケやめろ』


 それを入手した俺はまたハイハイをして、レイくんの元へと帰って行った。


「おかえりールイちゃん、どうだった?」


「ああ。なんか簡単な問題があって、それを解いたらこれが手に入った」


『簡単……?』

『(ルイからすればそら)簡単よ』

『普通に俺知らなかったぞ』

『レイは好きな食べ物いっぱいあるからな』

『そらお前、好きな人の好きなもんくらい知ってるだろ』


 そして俺はダイヤモンドを取り出して、レイくんへと見せる。


「おおーすごい! ちなみに問題ってどんなのがあったの?」


「まぁ……料理問題、みたいな感じかな」


『え?』

『おい』

『隠すな』

『料理問題といえば料理問題だけどさぁw』

『照れんなってー』


 なんとなくクイズの内容は隠しておいた。コメントからイジられるより、彩花から「私の好きな食べ物、覚えてたんだー? 可愛いねぇー?」みたいに言われる方が普通に嫌だったからな。


「へぇー、ルイちゃんにそんな知識あったんだ?」


「まぁな……」


「それで……このダイヤモンドをスイッチの上に置けば、ゲートが上がったままになるから、二人で進めるってこと?」


「なんかもったいない気もするけど、それが正解だろうな」


 そしてその入手したダイヤモンドをスイッチの上に置くと、思った通りゲートは上がって。俺らはハイハイしながらゲートを潜り、更に先の道を進むのだった…………。









「……ルイちゃん。後ろ、覗かないでね?」


「お前はズボンだろうが」

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