第134話 そういうゲームじゃねぇだろこれ

 そして俺らはゲームを開始させた。今回プレイするのは『キミはボクのために、ボクはキミのために』という二人専用のアクションゲームだ。彩花が用意したこともあって、俺はゲームの中身は全く知らないが……評価はかなり高いらしい。


 YooTubeでも他のライバーがプレイしているサムネは見たことあったし、スカサン内でもそれなりに流行ってはいたのだろう。まぁ……男女コンビでやってた人は、多分いなかった気がするけど。


「類、起動した?」


「ああ」


 俺はタイトル画面から『オンラインで遊ぶ』を選択肢し、彩花のアカウントと接続した。そしたらムービーでも始まるのかと思ったら……いきなり『あなたのことを教えて下さい!』と、プロフィールを入力する画面が出てきた。


「……なんかいきなりプロフィール書けって出たんだけど」


「私も出たよ。とりあえず入力してみよっか?」


「ああ……」


『おっ、出た』

『いつもの』

『最初にみんなやるやつ』

『ここだけ集めた切り抜き集とかあったなw』

『ちゃんと答えろよー?』

『これでルイのwikiが潤うな』


 コメントを見るに、どうやらこれもゲームに関わる大事な要素らしい……そういうことなら、素直に入力していくか。


「えーっと、名前はルイ。歳は16……そういやお前最近誕生日だったけど、年齢ってどうなるんだ?」


 このタイミングで俺は、気になっていたことを彩花に尋ねてみた。そしたら彩花は全く動揺する素振りも見せず、きっぱりと。


「16だよ?」


「じゃあ誕生日の前は何歳だったんだ?」


「16だよ?」


「…………」


『ん?』

『あ』

『あれ?』

『それ以上はいけない』

『そこに気付くと消されるぞ!!』


 ……なんとなく察していたことだが、VTuberは誕生日を迎えても年齢が上がることは無いらしい。お祝いはするけど、歳はそのまま……きっとアニメキャラと似た立ち位置なのだろう。そう納得していると、追加で彩花が話をしてくれて。


「……ま、メタい話すると年齢が変わらない人もいるし、ちゃんと歳を取る人もいるよ。数年に一度だけ歳を取るなんて子もいるね?」


「へー、そうなのか。俺もワールドカップが開催される年だけ歳取ろうかな」


『草』

『なんでだよwww』

『ややこしいわ』

『お前らは魔法でどうにでもなるからなぁw』

『基本的にみんな歳取らないけどね』

『安藤先生とかは毎年ちゃんと歳取ってるぞ?』

『いなりんに至っては303歳とかだしなww』


 まぁ年齢にも個性が出るのだろう。永遠に幼いままでいることも出来るし、みんなと同じように歳を取ることだって可能って考えたら、結構面白いよな。どっちの選択肢も選べるのが、VTuberの面白い所でもあるのかもな……。


 そんなことを思ってると、彩花は「はっ!」っと大きな声を出して。 


「私、一瞬だけ黒魔術で意識を乗っ取られてたよ! 変なこと言わなかった?」


「ああ。言ってないから安心しろ」


「そっか、良かった~」


 そうやって彩花は安堵するように言うのだった。まさかこいつのロールプレイに感心する日が来るとは思わなかったな。


『草』

『便利だな~黒魔術w』

『レイちゃんは永遠の16歳だから!!!!』

『やっぱルイの身体って黒魔術効きやすいんですか?』

『そうだよ』

『えっど』

『クックックッ……黒魔術』


「で、性別は男……今更だけどこれ、俺の情報入れてるけど良いんだよな?」


「うん、私も私のこと書いてるよ」


「なら良いか。誕生日はルイの日で、好きな色は黒。好きな言葉は…………替え玉無料」


『草』

『草』

『いいね』

『俺も好き』

『やっとラーメンキャラが板についてきたな』

『レイちゃんの身体で言うなやwww』

『最強魔道士の答えがこれでええんか?』


 いや、急に好きな言葉とか聞かれても、良いの思い付かなかったんだって。いきなり聞かれても困るし、今のうちに座右の銘とかもちゃんと考えとくべきだろうか……? 思いつつ俺は入力を続ける。 


「趣味は配信とゲーム、好きな食べ物はラーメン……」


 ……と書いてる途中、俺は手を止めてしまった。最後にとんでもない質問が待ち構えていたのに気付いたからだ。


「…………えっ? 最後に『好きな人』って書いてるんだけど……なんでゲームでそんなこと発表しなきゃいけないんだよ」


『草』

『あ』

『うおおおおおおおおおおおお!!!』

『きたあああああああああああ!!!!』

『オラ、早くレイって書け』

『さーて、素直になれるのか』


 …………この状況。俺が『レイ』と入力することに期待しているのは、誰の目から見ても明らかで……でも普通にヤダよ!! てぇてぇ要素はもうクラスト・オンラインで十分堪能しただろ!? もうお腹いっぱいだろ!?


「…………なぁ。レイは好きな人の所、なんて書いた?」


 ここで俺は彩花に誰を書いたのかを聞いてみた。ここで彩花が他の人書いていたら、俺も変に悩むことなく書けると思っていたのだが……。


「えー? 内緒」


 普通に教えてくれなかった。じゃあどうしようかと俺が更に悩んでいると……続けて彩花はこう言って。


「でも、類が想像できる人にしたよ。だから類も私の分かる人書いてね?」


「…………」


『あ』

『あっ』

『もしかして……?』

『両思いきたあああああああああ!!!』

『おめでとう! お幸せに!』

『待て、これは罠だ!!』

『どっちだ……?』

『いーや、レイちゃんは仕掛けてくるね』

『レイはこういう時にぶちかますの俺は知ってるよ』


 ……なんでゲーム開始前から、こんなお互い探り合ってんだよ。そういうゲームじゃねぇだろ、これ。


「…………はぁ」


 ……ま、ここで時間掛けても仕方ない。早く俺も素直になって、好きな人の名前を書こう。別に良いじゃないか、コメントからイジられたって。俺は仏のような気持ちで、好きな人の名前を入力していくのだった…………。












『安藤先生』


「……っと。よし」


『は?』

『は?』

『おい』

『草』

『よしじゃないが』

『先生!?』

『安藤先生はみんな好きだろww』

『ここで同性書くのはズルいぞ』

『逃げるな卑怯者!!!!!!!!!』

『レイって書けうんこ』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る