第133話 ルイレイON!

 それから俺らは、何日間か掛けて作業を続けて……エイプリルフールの前日に、なんとか全ての準備を終わらせた。


 俺が無駄に凝った設定にしたから、彩花の描くイラストの量がとんでもないことになっていたのだ。だからこんなに時間が掛かってしまった訳で……ちょっと悪いことしちゃったかな。でもまぁ、終始楽しそうだったし良いか。


 それで……いなりさんが読んでくれた台本の音声ファイルも送られてきていて。彩花と一緒に聞いたけど、その出来は想像以上に素晴らしい物だった。やっぱいなりさんの優しい声は需要あるよ。ボイスとか出してくれないかな。


 ──


 そんな訳でエイプリルフール当日。特別企画ってことで、俺はレイ、彩花はルイのアバターを使って配信を行うことになった。VTuberの中身が変わるのは、基本的にご法度とされているが……まぁ今日くらいは、中身が俺でも許してくれるだろう。


 一応ネモさんとレイのマネージャーにも許可は取っているから、その辺は安心して大丈夫だと思う。まぁそれに相手はレイだし……多少変なことやっても、燃えたりはしないだろうな。多分。


 ちなみに配信は俺とレイの二つのチャンネルで行うことにした。「このゲーム、お互いの視点とか違ったりするから、二画面あった方が面白いよね!」との彩花の提案により、俺も配信をすることになったのだ。


 それゆえ、彩花との配信は対面ではなくオンラインでのコラボという形になった。ま、今日はどうせ夜遅くまで配信することになるし、丁度良かったのかもな……別に寂しいとかそんなん全然無いからな。うん。いやマジで。


 それで、配信開始時刻になった瞬間……彩花はオープニング映像を流していった。画面共有してもらってるので、その映像は俺の配信にも流れていて……彩花の描いたデフォルメチックなイラストを背景に、いなりさんの声が流れてくるのだった。


『きた!!』

『こんルイ』

『エイプリルフールも一緒なのかよこいつらwww』

『仲良いね~w』

『もしかして入れ替わるのか?』

『神回確定じゃねぇか』


【穏やかな陽気に包まれる、とある春の日。魔法学校オーウェンに通ってるルイくんとレイちゃんの二人は、先生から図書館の大掃除を頼まれました】


『!?』

『なんだこれ』

『プロローグ!?』

『この声いなりんじゃん!!』

『なんかいきなりアニメ始まって草』

『このイラストレイちゃんだろww』


 初っ端からコメントは勢い良く流れてくる……よしよし、掴みは完璧か。ニヤニヤしながら、俺はコメント欄と映像を交互に眺めていった。


【レイちゃんはウキウキで魔導書の整頓をしますが、本の並びはめちゃくちゃで、喋る魔導書から苦言を呈されたり、空飛ぶ魔導書に翻弄されていました】


『草』

『かわいい』

『ドジっ子か?』

『魔導書って喋るの?』

『そりゃ喋るだろ。魔法図書館行ったことないの?』

『オーウェン卒もいます』

『オウェ卒は草』


【ルイくんは気だるそうにしながらも、魔法を使ってほうきを掃き……『これ全部自動でやってくれるやつあったら売れるんじゃねぇかな』と時代が時代なら天下を取っていたであろう発想をしながら、掃除に勤しんでいました】


『草』

『草』

『魔法学校にロボット掃除機は無いのか……』

『ちゃんと掃除しろ』

『お前には雑巾がけが似合う』


 背景にはレイが魔導書を追いかけてる姿と、俺が適当に魔法でほうきを掃くイラストが描かれていた。やっぱ上手いな……彩花、普通にマンガ動画とかもやれるんじゃないか? 今ショート動画とか人気だし、そっち方面でも人気出そうだ。


【ですが、レイちゃんが魔導書を追いかけている最中、本棚にぶつかってしまい、レイちゃんは転んでしまいます。呆れながらもルイくんは手を貸すために近づくと……本棚に小さく、暗号化された魔法の呪文が書かれていることに気が付きました】


『ルイやさしい』

『ツンデレルイ助かる』

『ん?』

『おっ、これは……』

『秘密の部屋だ!!』


【高度な暗号化された魔法の呪文……普通の生徒なら解読出来る訳もありませんが、天才魔道士のルイくんにはなんのその。おやつ感覚で魔法を唱えると、突如本棚が動き……地下へと続く階段が現れたのでした】


『おお!』

『隠し部屋きたあああああああああ!!』

『貴重なルイくんの活躍シーン』

『久々に有能じゃん』

『これルイが脚本考えてるだろw』


 ルイの活躍により、コメントは無駄に盛り上がる……ってか脚本書いたのバレてるし。良いだろ、たまには強キャラ設定活かしたって!


【明らかにヤバい階段が現れたことにルイくんは焦り、見なかったことにしようとしますが……レイちゃんは目を光らせて「ねぇねぇ、これやばい部屋繋がってるよ! 行こう!」とルイくんを誘うのでした】


『草』

『いいね』

『レイちゃんは冒険家だから』

『ちゃんと性格出てるなぁww』

『構わん、行け』


【ルイくんは「やめとけ、絶対に面倒なことになる」とレイちゃんを止めようとしますが、レイちゃんは「何で! 行こうよ!」とお互い一歩も引かず……言い争いをしている時、二人は先生が見回りに来たことに気が付きました】


『あ』

『あ』

『まずい』

『やばい!!!!!』

『押せー!!! 押し倒せー!!!』


【この地下の階段がバレて怒られると直感した二人は、勢いで階段の方へと駆け込み、転がり落ちるのでした】


 そして事前に録音していた俺らの叫び声と一緒に、ゴロゴロどーんと階段から転がり落ちる効果音が流れていった。もちろんそのシーンの反応は最高で。


『草』

『草』

『wwwwwwwwwwwww』

『叫びが迫真過ぎる』

『お前ら声優もいけるのか?』

『これ先生に声聞こえてんだろwwww』


 大量の草が流れてくるのだった……良かった。これ何テイクも撮ったから、ちゃんとウケてくれて安心したわ。


【二人が転がり落ちた先には、小さなドアがあり……開くと、そこには怪しい魔導書が床に落ちていました。見たことのない背表紙にルイくんは興味を持ち、手に取ると……それは突如として光り輝くのでした】


『あ』

『あっ』

『(アカン)』

『無能』

『お前こういう時は警戒しないのかよ』

『うおっまぶしっ』


【徐々に光が収まると……そこにいたのは自分の姿。そう、ルイくんとレイちゃんは入れ替わっていたのです! 「なんで俺が……!?」「私が目の前に……!?」】


 そして俺達が入れ替わった瞬間、コメントは今日一の盛り上がりを見せて。


『きたああああああああああああああ!!!』

『レイちゃんうおおおおおおおおおおお!!!』

『エッッッっっっっっっ!!!!』

『もしかして……』

『入れ替わってる!?』

『♪前世世世』


【突然のことに動転する二人……そこで魔導書は喋りました。「私は禁断の魔導書……永きに渡る封印を解いてくれたことに感謝する。礼に貴様らのお互いの姿、声帯を入れ替えてやった」】


 そして背景には困惑しているルイと魔導書にブチギレているレイが描かれていた。もちろん中身は入れ替わっているので、キレている方がルイである。


【「戻して欲しくば、私を楽しませてみせろ!」そう言って禁断の魔導書は、召喚魔法を唱え……現れたのは、二つのモニター。二つのコントローラー。そして……某人気ゲーム機に似た、赤色と青色の機械でした】


『?』

『草』

『なんでだよ』

『どんな導入だよwwwwww』

『これ完全にスニャッチ……』

『魔導書さんいい趣味してらっしゃる』


 ──

 

 そしてオープニングが終わったので、俺は配信画面を用意した。もちろんそこに立っているのはルイ・アスティカではなく……レイ・アズリルちゃんで。


『あ』

『あっ』

『レイちゃん!!!???』

『かわいいいいいいいいいいいいい!!!!』

『お、俺はどうすればいいんだ……!?』

『アカン、好きになっちゃう』

『騙されるな!!!!!!!!!!!』


 急にレイが現れたことにより、コメントは今までに見たことのないパニックに陥っていた。せっかくレイになったんだから、可愛い動きでもしてオタクの心を弄んでやろうかなとか思ってると……その前にルイ(彩花)が喋ってきて。


「……ってことがあったから、早速ゲームをクリアしていこうと思うよ!」


「何でもう順応してんだよお前は!」


『あ、ルイだ』

『いつもの』

『レイからルイの声が聞こえてくるの草』

『違和感あり過ぎる』

『やっぱお前はレイちゃんじゃない!!』

『レイを返せー!』

『……意外とアリか?』


 まぁ声を聞いたら当然、目が覚める人が多数だったが……なんか新たな道を開いてる人もいた。なんか悪いことしたかも……で。早速彩花は本題に入っていって。


「今回魔導書が提示してきたゲームはこれ……『キミはボクのために、ボクはキミのために』だよ。このゲームは協力要素が沢山あって、ちゃんと力を合わせないとクリア出来ないらしいよ!」


「やけに詳しいなお前……ってかこれ、日付変わる前にクリア出来なかったらどうなるんだ?」


「その場合は……一生入れ替わったまま、過ごすことになるかもね?」


「ふざけんな」


『草』

『草』

『俺は一生このままでもいいよ?』

『うん』

『むしろこっちがいい』

『俺らは許してもレイボーイ達が許さないだろwww』

『それはそう』


 まぁもちろん、入れ替わったままってのは冗談だろうが……本当にそういう気持ちで望んでいこうか。その方がヒリつくだろうからな。


「じゃあ早速やるよ! オーウェン学園CX……! ルイレイON!」


「ネタが古いんよ」


『草』

『草』

『草』

『それレトロゲーでやるやつだろww』

『カチョーON!?』

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