第132話 ……動物に餌やってるみたいだ
「んふふー。私、ちゃんと類の歌配信、録画してたからねー?」
彩花はニヤニヤしながら俺の方を見てくる……コイツ、俺が歌配信のアーカイブ消すことを知っていたから、保存していたんだ!! しかも拡散する為じゃなく、ただ個人で楽しむ為に……それはそれで恐ろしいんだって!
「最悪だ……早くそれ止めろ!!」
「じゃあ今、歌ってよー。『お前が元気になるなら、いくらでも歌ってやる……』って、前に言ってたじゃん」
「……」
彩花は当時を再現してるのか、俺の台詞部分をカッコつけるようにして言った。確かに歌枠の後、そんなことを言ったような気もするが……。
「あれは……あの時はお前の誕生日で、喜ばせたかったから……ってか早く止めろって言ってんだろ!?」
「えー? 類、こんなに素敵な声してるのにー?」
「今回ばかりは皮肉だろそれ!!」
聴くのも地獄、かと言って歌うのも地獄……こんな状況だと当然、作業にも集中出来ない訳で。俺は椅子から立って、その場から離れることにした……そんな俺の背後に向かって、彩花はちょっと焦ったように。
「あー逃げないでってー! じゃあこれ終わったら、私の歌も流すから!」
「じゃあの意味が分かんねぇよ!」
別にお前上手いから良いだろ! 何なら聴かせたい側だろ! 歌ってみた動画、ミリオン再生何個かあんだろ!!
……それで彩花はちょっとやり過ぎたと思ったのか、音量を小さくした。その気遣いが出来るのなら、止めることも出来ると思うんですけど……。
「はぁ……」
……まぁ。別に俺も本気で怒ってる訳でも無いので。俺はキッチンから適当にお菓子とジュース持って、作業机へと戻ってきた。
「あっ、帰ってきた」
「とりあえずこれでも食って、作業続けよう……それ止めなかったら、お前には何もやらんけどな」
スピーカーを指しながら俺は言う。流石に彩花もお菓子の魔力には抗えなかったようで……ちょっと名残惜しそうにしながらも。
「んー。分かったよ」
そう言って音楽を止めた。それを確認した俺は、じゃがりご(チーズ味)の蓋を開けて二人で食べることにした。だが彩花はそれに手を付けること無く、ただあーっと口を開くだけで……。
「……何してんだ?」
「あーんしてよ。私、手を汚したくないからさー」
「いや、やらねぇって……馬鹿なこと言ってないで作業しろ」
適当にあしらって、俺はじゃがりごを口に含む。そしてモニターへと視線を戻して作業を続けるが……どうやら彩花はそれが面白くなかったらしく、俺とモニターの間を遮るように顔を近づけてきて。
「どうして? あーんってするだけだよ? 恥ずかしいの?」
ちょっと煽るようにして俺に言ってきた。別にそんな分かりやすい挑発に乗る意味も無いのだが……。
「……あーそっか、類には刺激が強すぎるもんね! ごめんごめん!」
「…………」
……もうこれ『やって欲しい』って遠回しに言ってるようなものだよな。素直じゃないのはどっちだって話だよ……。
「はぁ……」
ため息を吐きながら、俺はじゃがりごを手に取り……それを彩花の前に近づけた。
「……オラ、あーってしろ」
「口の悪い歯医者さん? ……あー」
ツッコみながらも彩花は口を開く。その口に向かって、俺はじゃがりごを入れていった。彩花はバリボリと音を鳴らして噛み砕いた後、また口を開いて次のじゃがりごを待っていて……同じように俺はじゃがりごを手にして、彩花の口に入れていった。
「…………」「……バリボリ」
その作業を何回か続けていった……うん。なんかこれ……。
「……動物に餌やってるみたいだ」
「ドキドキは?」
「不思議なことに全くしない」
──
それから数時間経って、外も暗くなった頃……なんとか脚本を書き上げた俺は、伸びをしながら呟いた。
「ふーっ……終わったぁ……」
「えっ、もう完成したの!? 見せて見せて!」
食い気味に彩花は言って、俺に寄りかかりながら画面を見ようとしてくる……なんか彩花から女の子のいい匂いがして、一瞬だけドキッとした自分が情けなくなってしまった。さっきまで色気ゼロの餌やり体験会してたからな……。
「まぁ、細かい手直しは必要かもしれないけど……」
「いいからいいから!」
そして彩花は、俺の書いた文章を読んでいくのだった……。
──
──
穏やかな陽気に包まれる、とある春の日。魔法学校オーウェンに通ってるルイくんとレイちゃんの二人は、先生から図書館の大掃除を頼まれました。
レイちゃんはウキウキで魔導書の整頓をしますが、本の並びはめちゃくちゃで、喋る魔導書から苦言を呈されたり、空飛ぶ魔導書に翻弄されていました。
ルイくんは気だるそうにしながらも、魔法を使ってほうきを掃き……『これ全部自動でやってくれるやつあったら売れるんじゃねぇかな』と時代が時代なら天下を取っていたであろう発想をしながら、掃除に勤しんでいました。
ですが、レイちゃんが魔導書を追いかけている最中、本棚にぶつかってしまい、レイちゃんは転んでしまいます。呆れながらもルイくんは手を貸すために近づくと……本棚に小さく、暗号化された魔法の呪文が書かれていることに気が付きました。
高度な暗号化された魔法の呪文……普通の生徒なら解読出来る訳もありませんが、天才魔道士のルイくんにはなんのその。おやつ感覚で魔法を唱えると、突如本棚が動き……地下へと続く階段が現れたのでした。
明らかにヤバい階段が現れたことにルイくんは焦り、見なかったことにしようとしますが……レイちゃんは目を光らせて「ねぇねぇ、これやばい部屋繋がってるよ! 行こう!」とルイくんを誘うのでした。
ルイくんは「止めとけ、絶対に面倒なことになる」とレイちゃんを止めようとしますが、レイちゃんは「何で! 行こうよ!」とお互い一歩も引かず……言い争いをしている時、二人は先生が見回りに来たことに気が付きました。
この地下の階段がバレて怒られると直感した二人は、勢いで階段の方へと駆け込み、転がり落ちるのでした。「ぎゃー!!」「わぁー!!」←ここ俺らの叫び。
二人が転がり落ちた先には、小さなドアがあり……開くと、そこには怪しい魔導書が床に落ちていました。見たことのない背表紙にルイくんは興味を持ち、手に取ると……それは突如として光り輝くのでした。「ぎゃー!!」「わぁー!!」←ここも叫ぶ。
徐々に光が収まると……そこにいたのは自分の姿。そう、ルイくんとレイちゃんは入れ替わっていたのです! 「なんで俺が……!?」「私が目の前に……!?」
突然のことに動転する二人……そこで魔導書は喋りました。「私は禁断の魔導書……永きに渡る封印を解いてくれたことに感謝する。礼に貴様らのお互いの姿、声帯を入れ替えてやった」
「わっ、私がルイの体に……!?」 ←困惑するルイ、中身はレイ。
「ふざけんな、早く戻せコラァ!!」←ブチギレレイ、中身はルイ。
「戻して欲しくば、私を楽しませてみせろ!」
そう言って禁断の魔導書は、召喚魔法を唱え……現れたのは、二つのモニター。二つのコントローラー。そして……某人気ゲーム機に似た、赤色と青色の機械でした。
──
──
「……みたいな感じ。どうかな?」
「類…………作家の才能あるんじゃない?」
「えっ、ホント?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます