第131話 何か音楽とか流してくれないか?
候補が出た俺らは早速、いなりさんへと連絡を取ろうとしていた。彩花が電話を掛けると、すぐに彼女は応答してくれて……。
『もっ、もしもし、いなりです!』
ゲーム内でよく聞いた、可愛らしい声が俺の耳にも届いてきた。
「久しぶりだねー、いなりん! こうやって話すの、クラオン以来だよね?」
『あっ、そうですね……! いなり、まだ熱が冷めてませんよ。ふとした時にお二人のことを思い返しては……ニヤニヤしてますもん』
「ふふっ! そっか、嬉しいなー。私、いなりんが楽しそうに振り返り雑談配信してたの見てたよ!」
『えっ……み、見てたんですか? ちょっと恥ずかしいです……』
いなりさんの声は徐々に小さくなっていく。反応が可愛かったので、後で俺もその配信を見ようと心に決めたのであった……で、早速彩花は本題に入っていって。
「それでね、いなりん。ちょっとお願いしたいことがあるんだけど……」
そして彩花はいなりさんに、エイプリルフールのネタをルイとやろうとしてること、そのナレーションをいなりさんにやって欲しいということを伝えていった……それを聞いたいなりさんは、嬉しそうに二つ返事で。
『もちろんです。お二人の力になれるのなら、何だってお手伝いしますよ!』
そうやって言ってくれたんだ。絶対にいなりさんも忙しいだろうに、こんな即決してくれるのはとてもありがたいよ。
「ありがとう! じゃあ類にもお礼言わせるね!」
「オカンかお前は」
そして彩花は本当に、俺にスマホを渡してきた。まぁ断る理由も無いので、俺はそれを受け取り……いなりさんにお礼の言葉を伝えていった。
「あっ、もしもしいなりさん。急にこんなこと頼んじゃってごめんね?」
『いえいえ、大丈夫ですよ。というかそれよりルイさん……レイちゃんと一緒にいたんですね?』
「まぁ、たまたまね……?」
既にいなりさんには、この関係のこと完全にバレてそうだが……形だけでも誤魔化しておいた。なんか恥ずかしいからね。
「えっと、じゃあ……なるべく早く原稿渡すから、その時にまたお願いするよ。本当にありがとね、いなりさん!」
『はい、楽しみにしてます!』
そして電話は切れるのであった。彩花は俺からスマホを受け取り、そのまま机の前に座って……。
「じゃあ早速作業に取り掛かろっか! 類はナレーション用の原稿をお願いね!」
「えっ、俺? ってか今から作業するの?」
「うん、時間あるし! 私は絵を描くの頑張るから! それとも類が描いてみる?」
「俺が全く描けないの分かってて言ってるよなぁ……」
──
それから俺らは流れで、エイプリルフールの配信準備に取り掛かることになった。彩花は絵を描く用のタブレット(液タブって言うの?)を持ってきていたようで、それを使ってラフ画のような物を描いていた。
後ろから覗いていた俺は感心しつつ、こんなことを聞いて。
「彩花って、どうして絵が上手いんだ?」
「んー、普通に描くのが好きだったからかな? 漫画とかも好きだったし、『メモうご』とかやってたし」
「懐かしいな……俺も棒人間バトルとか見てたよ」
「ふふっ、男の子ってそういうの好きだよね?」
「まぁな」
同意しつつ、俺は彩花の隣に座った。俺がサブのボロボロの椅子で、彩花が俺の愛用してるゲーミングチェアに座ってるのが、なんか納得いかなかったが……特にゴネることもなく、俺もパソコンを使って原稿を書いていた。
作業中はちょくちょくお互い進捗を確認しながらも、全く関係の無い雑談も挟んでいて……手を動かしながら俺は、彩花に喋りかけていた。
「これ書いててなんだけど、他に案とか思い付かなかったのか?」
「エイプリルフールの?」
「うん」
「うーん……まぁ『私達、結婚します!』みたいなネタも考えてはいたんだけど……それだと類、やってくれなかったでしょ?」
「よく分かってるじゃないか……」
確かにそれをやろうって誘われてたら、俺は絶対断っていただろうからな。エイプリルフールに嘘か本当か分からない嘘をつくのは、マジで悪手だと思ってるし……そもそも『結婚します』宣言で、ガチだと思われる俺らが一番おかしいんだけどな?
「……ねぇねぇ、類は最近何やってる?」
彩花も俺に話しかけてきたので、作業しながら適当に答えてみる。
「別にいつも通りかな。バイトか配信かどっちか……気になってるゲームとかも全部配信でやっちゃうから、結果的にゲームの時間が配信に加わったって感じだな」
「あー分かる分かる。何かやるなら配信付けたいなって思うよね。私もハンバーガーとか食べる時、配信付けちゃうもん」
「確かにそれはあるな。俺も配信中にラーメン食うし……新発売のラーメン出たら、早く配信で食えってみんなに言われるよ」
「あははっ、信頼されてるんじゃない?」
彩花は楽しそうに笑って言う。別に信頼されてる訳じゃなくて、単に俺にラーメン食わせたいだけなんだと思うけど……まぁ美味いからなんだって良いんだけどな。
「……」
「……」
そしてまたお互い作業に入る……作業する時、無音よりちょっとくらい雑音がある方が丁度良い俺は、この静かな空間が気になってしまって。手を止める回数が多くなった俺は、彩花にこんなお願いをしていた。
「彩花、何か音楽とか流してくれないか?」
「ん、いいよ!」
彩花はスマホを手に取り……慣れた手つきで俺の家にあるスピーカーに接続して(教えてないのに何で分かるんだ?)、音楽を流していった。
「……おっ」
流れてきたのはロビンのオリジナル曲だった。これ良い曲だよな……俺もロビンと何回も練習したっけなぁと思い返していると……次に聞こえてきたのは、ロビンの歌声ではなく。聴くに耐えない、ふにゃふにゃで音の外れた歌声で…………。
「……ってそれ、俺の歌ってみたじゃねぇか!!!!!」
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