第130話 類……天才だよ!!
「エイプリルフールのネタ……?」
更に俺の頭には疑問が浮かぶ。そんな俺に向かって、彩花は解説をして。
「あれ、もしかして知らない? ほら、4月1日になると色んな企業さんが嘘の発表したり、ゲームとかで変わったイベントが行われたりするの」
「いやまぁ、それは知ってるけど……」
一応ゲーム好きだから、そういったイベントが各ゲームで行われるのは知っていた。例を挙げるなら、ネタ武器が最強武器に変わってたり、急に外伝として音ゲーやオートチェスゲーがリリースされたり……。
でも大体のゲームは、一日限りのイベントなんだよな。そんな凝ったことするのなら、何日間かやって欲しいんだけど……ってこれ、完全にプレイヤー目線の話だな。
「知ってるなら話は早いよ! VTuberでもそういうのが恒例行事になっていてね、性転換したり、ロリ化ショタ化したり、動物になったり、実写化したり……」
「基本的に変身するのか?」
「そのパターンが多いけど、ライバーの物語とかを進めていく人もいるよ。普段使えない設定とか、別人とかを出しやすい日だしねー」
「へぇー」
確かに何でもない日に、別の姿になってたらびっくりするもんな。そういった特殊な格好を発表するのに、エイプリルフールは丁度いい日なのだろう……。
「ちなみに他のライバーに話を聞いてみたけど、カレンちゃんは架空の恋人エピソード配信の時に送った『犬光シャイニー』になるんだって!」
「久々に聞いたわ、シャイニー……」
「いぶっきーはこの日に『萌え声ASMR』配信やるらしいよ!」
「ええ、ホントかなぁ……? 『エイプリルフールです、釣られましたね?』みたいなこと言ってきそうだ」
ちゃんと罰ゲームを消化するのは流石だが……絶対になんか用意してそうだ。いぶっきーがこういうことを素直にやるとは思えないもん。
「それでね……私は入れ替わりネタをやりたいなーって思ってね。色々考えたけど、やっぱり相手は類が良いかなって!」
「……俺を選んだ理由は?」
「面白そうだから!」
「あ、そう……」
彩花は期待してるようだが、どうしようか……まぁエイプリルフールネタなんか考えてなかったから、この企画に乗れば俺もネタに参加することができるし。彩花が俺とやりたいと言うのなら、協力するのも悪くないのか……?
思った俺はこう尋ねていて。
「じゃあ……俺がレイで、彩花がルイで配信するってこと?」
「そう! やってくれる?」
「まぁ、良いけどさ……」
「やったー!」
まぁ俺らはVTuberだし、入れ替わるの自体は簡単だろうけど……って、ちょっと待て。
「……てか入れ替わるのなら、相手の真似をするのが正しいんじゃないのか?」
「えっ?」
「だから……レイの中身が俺だとしても、声はレイじゃなきゃおかしいだろ?」
「…………」
そのことに気付いた俺はそう指摘していた。だが、俺の言葉が半分くらいしか伝わらなかったのだろう……彩花はポカーンと口を開いた後、俺にこう提案してきて。
「……なんかややこしいから、声帯も一緒に変わったことにしよっか!」
「あ、そう……」
まぁ……そっちの方が面白いか。結局それだと中身も変わらないし、俺がレイの喋り方を真似し続けるのも地獄だし……リアリティよりも、面白さにこだわった方が良いもんな。……当の本人は絶対そこまで考えてないけど。
「それで……入れ替わってどうするんだ? ただ入れ替わるだけじゃ面白くないだろ?」
「大丈夫、その辺は考えてるよ!」
そう言って彩花はスマホを取り出し、メモ帳か何かに書いていた文章を読み上げていった。
「まず何らかの出来事があって、私達は入れ替わることになる……そして二人用のゲームをクリアすると元に戻るって説明をして、無事クリアしてエンディング……どう、面白そうでしょ!」
「……」
……大体の流れは分かったけれど。
「何らかの出来事ってなんだよ? ……ってか他にもふわふわしてるから、ちゃんと設定を固めないと」
まぁエイプリルフールだから、で全部片付きそうな話ではあるが……彩花はこういった設定とか大事にするのを知っていたから、あえて俺は突っ込んだ。そしたら意外にも彩花はちょっと嬉しそうな顔を見せながら、こう返事をしてきて。
「まぁー案は考えてるんだけどね? ぶつかって入れ替わるとか、安藤先生に入れ替わる薬を作ってもらうとか」
「理科教師をマッドサイエンティストか何かだと思ってる?」
安藤先生は善良な教師だから、そういったネタには巻き込みづらいんだって……でも入れ替わりネタといえば、怪しい薬を飲むのは鉄板か? ……いや待てよ。ここは俺らの設定を活かしたものを使うべきじゃないか……?
「じゃあ……俺ら魔法使いだし、そういう禁術書みたいなものを見つけたってことにしないか? それを触ってしまって、俺らが入れ替わっちゃった、みたいな……」
そこまで言った所で、彩花は俺の肩を掴んで……大きな声で。
「類……天才だよ!!」
「あ、どうも」
褒められてちょっと嬉しくなってしまう。俺も単純なヤツだ。
「ただその導入を説明するのも難しいってか、ちょっと面倒か……?」
「じゃあオープニングを作ろう!」
「えっ? オープニング?」
予想もしなかった返答に俺は驚く……だけど彩花はノリノリで。
「だから、ゆるゆるーっとした一枚絵みたいなのを何枚か描いていって、紙芝居みたいにして……その禁断の書を見つけて、入れ替わったことを説明するんだよ! ……あ、それならエンディングも作ろうかな?」
「面白いかもしれないが……大変じゃない? 誰かに依頼するのか?」
「私が描くつもりだけど……あ、ナレーションは他の人に頼もうかな?」
「誰にだ?」
「うーん……良い声してる人?」
良い声してる人は、ライバーにも沢山いるけど。強いて挙げるのなら……。
「カレンさんとかリリィとか……七海さんとかか? カレンさんはアニメ声だし、リリィは声デカいし、七海さんに至っては本物の声優らしいからな」
俺は声のお仕事に向いてそうな、三人の名前を挙げてみた。だけど彩花のお眼鏡には叶わなかったようで……。
「もちろん三人とも個性的で良いかもだけど……紙芝居だし、絵本の読み聞かせみたいな、優しい感じの声の人が良いかなって思ってねー」
「なるほど、優しい声か……」
優しい声……聞いてて心地の良い、癒やされる素敵な声のライバーと言えば……。
「あ」「あっ」
俺らは顔を合わせる。どうやら同じ顔が浮かんでいたようで……また俺らは同時に言葉を発していた。
「いなりさんだ!」「いなりんだ!」
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