5章

第129話 あの時、なんて言ってたんだ?

 ──


 クラスト・オンラインが終了してから数日後。俺の家に遊びに来ていた彩花は、机に置いていた『クラドラくんぬいぐるみ(ゴールド)』を見つけたようで……それを抱きかかえるように手に取って、嬉しそうな声を発した。


「おお、もう景品届いたんだ! かわいいー!」 


「既にぬいぐるみは事務所に送られていたらしいからな。結構すぐに届いたぞ……ってか、机もだいぶ賑やかになってきたなぁ……」


 しみじみと俺は呟く。俺の机にはクラドラくんぬいぐるみの他に、レイやいぶっきーのフィギュア。ルイのアクリルスタンドに、ロビンのキーホルダーが飾られていた……VTuberの活動をする前じゃ、考えられなかった光景だな。

 

「賑やかなのは良いことじゃん。もっとグッズ増やそうよ!」


「増やすって……例えばどんなのを?」


「うーん……レイの特大タペストリーとか?」


「それ、お前の部屋じゃねぇか」

  

 すかさず俺がツッコむと、彩花は笑って机にクラドラくんぬいぐるみを戻した……まぁ、確かに壁とかにもグッズ飾ったら、ちょっと面白いかもな。そうなるといよいよ、家に呼べる人が彩花だけになってしまいそうだが……。


 …………別に問題無いか?


「というか、ホントにクラオン楽しかったね! 私まだロスだよー」


「そうだなぁ……俺もまた空飛んだりしたいよ」


 言いながら俺は、クラスト・オンラインをプレイしていた時を思い出していた……あの一週間は、家に帰ってきてからすぐにログインして、配信モードにして、レイからのメッセージを確認するのがルーティンになってたからなぁ……。


 そろそろ振り返り雑談配信でもやろうかな、とか考えていると……ふと、最終日の出来事を俺は思い出していて。


「そういやさ、彩花。最終日の一番最後、一緒に落ちてる時あったじゃん」


「うん」


「あの時、なんて言ってたんだ?」


 俺は気になっていたことを彩花に聞いてみた。そしたらちょっと恥ずかしそうに、ほっぺたをポリポリと掻きながら。


「……あー、やっぱり聞こえてなかったんだ?」


「ああ。教えてくれないのか?」


 言うと、彩花は更にモジモジして……頬を赤らめながら、俺にこう言った。


「えっとね…………『好きだよ』って言ったよ?」


「…………え?」


 ……え、いや、ちょ…………ええっ? そりゃ彩花から好きって言われるのは、とても嬉しいことだけど……。 


「…………お前。それはマジでヤバイって。結構ヤバいって!!」


 配信上で言ったのは、かなーりマズイって!! しかもあのタイミングで言うのは、何かガチ感があるから勘違いしちゃう人も出そうだし……いやまぁそれ、勘違いじゃないんですけど!! 


 それで一応彩花は反省しているのか、気まずそうに俺に謝ってきて。 


「まぁ……配信上でそういうこと言わないって約束したのに、言っちゃったのはごめんね? あの時はちょっと……エモくなりすぎちゃって」


「どんな言い訳だよ」


 テンションが上がっちゃって、とかならまだ分かるけど……なんだエモくなりすぎたって。便利な言葉過ぎるだろ、エモ。 


「でも、誰も聞こえてなかったみたいだよ? 私も一応エゴサとかしたけど、そういうこと言ってる人は見つからなかったよ……まぁ、最後にレイちゃんはなんて言ったのかー、みたいな考察してる人は何人か見たけど」


「そんな人いるんだ……」


「うん。でも流石に当たってる人はいなかったよ」


「そりゃ良かったけど」


 ひとまずは安心したが……あまり油断は出来ないなぁ。これからは似たようなことが起きないように、ちゃんと注意してもらうか……とか考えていると、続けて彩花はこんなことを言ってきて。


「でもさ。ゲーム内であれだけ一緒に行動して、同じ家に住んで、お買い物デートして、おんぶして……類から指輪まで貰ったのに。誰も怒ってなかったからさ。もう公表しても良いんじゃないかな、って私は思ってるんだよ?」


「公表って……この俺らの関係を?」


「うん! 企業勢初のカップルVTuberなんて、絶対に話題になるよ!」


「そりゃまぁ、話題にはなるだろうなぁ……」


 遠い目をしながら俺は言う……それ絶対、嫌な話題のされ方だろうけど。……ってかやっぱ、公表するメリットが全く思い浮かばないんだよなぁ。言ったことによって、レイの人気が下がったりしても嫌だし……。


 思った俺は、こう口にしていて。


「やっぱリスクの方が大きいと思うから、今の所は止めておこう。それに……公式が明言しない方が、視聴者だって盛り上がると思うし」


「どういうこと?」


「まぁ……色々曖昧な設定の方が、二次創作が盛り上がったりするってことだ」


 そう言うと、彩花はニマーっと微笑んで。


「ふふっ、やっぱり類はオタクだねぇ」


「あんま伝わってないなこれ」


「まぁいいよ。どうせ駄目だって言われると思ってたし」


「じゃあ言うなよ」


 そして彩花はパンと手を叩き、俺に視線を合わせて。


「それでね、類! 今日遊びに来たのはちゃんと理由があってね……」


「なんか前にあった流れだな」


「うん、もう少しでエイプリルフールじゃん? 類は何やるか決めてる?」


「えっ?」


 何やるかってどういうことだ……? どんな嘘つくか考えてるってこと? そんな疑問が浮かんでいる俺に向かって……続けて彩花はこう言うのだった。 


「ね、もし良かったら、私と一緒にエイプリルフールのネタやらない?」

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