第128話 こんなアホみたいな終わり方も悪くない

 ──


 しばらく俺はレイを乗せたまま、無言で空を飛んでいた。どうやら授賞式の間も時間は進んでいたようで、夕日も落ちて空は暗くなっていた……まぁ花火は打ち上がっているから、そんなに何も見えない訳じゃないんだけどね。


『もう夜だな』

『この二人には闇が似合うよ』

『一応闇属性魔法使いだったっけw』

『夜間飛行ですか』

『ちゃんとライト点灯しろ』

『何でなんも喋んないんですか?』


 飛行しながら横目でコメントを見る……別に気まずい訳じゃないんだけど、改めて二人きりで喋ることも特に無いんだよな……思いつつ、グルっと一回転してみる。


「……んぎゃあーーーッ!! 落ちるーーッ!!!!」


「あははっ。お前、意外と良い声で鳴くんだな?」


「…………類の変態」


「何で!?」


『草』

『草』

『当たり判定がデカすぎる』

『いや、さっきの言葉はえどい』

『頭の中ピンクなレイちゃんかわいい』

『エ駄死』

 

 何をどう勘違いしたのか分からないが、まぁそれは置いといて……俺はまた飛行の体勢を取って飛び続ける。続けてレイは、こんなことを聞いてきて。


「それでさ……どうして類は、あの中から私を選んだの?」


「え? 何となくだよ。一々意味とか求めんなって……」


 ……まぁ。レイがめちゃくちゃ飛びたそうな顔してこっち見てたからとか、視聴者は最後にルイレイを期待してただろうから、とか選んだ要因は色々あったけど……わざわざそれを口にする必要も無いだろう。恥ずかしいし。


『レイが良かったからだろ?』

『レイちゃんが輝いて見えたんでしょ』

『んんwwwレイしかありえないwww』

『まぁ実質三択みたいな所ではあった』

『いぶっきーの可能性0で草』


 ま、言わなかったら言わなかったで、コメ欄は騒がしくなるんだけどな……もうルイ民からのイジりにも慣れてきたぞ。それで……レイは俺が照れ隠しで言ってると思ったのか、少しだけ嬉しそうに声を弾ませて。


「ふふっ、そっか……それじゃあ類! せっかくなら近くで花火見ようよ!」


「ああ、良いぞ」


 そしてレイの要望通り、俺は少し上昇して……丁度花火が破裂する位置までやって来た。再び花火が打ち上がるのを待っていると……その時は急に訪れて。


「……わっ!」


 ヒュー……バァンと大きく音を鳴らし、俺らの眼の前で花火は破裂した。いつも下から眺める花火とは違って、眼の前で光る花火はとても神秘的で……その光景に俺は目を離すことが出来なかった。


『きれー』

『すげぇ視点だ』

『特等席だな!』

『ゲームならではだなこの光景は』

『花火に攻撃判定無くて良かったw』

『きれぇな花火だ』

『偽物のベジータもいます』


「わぁー……! 類、とっても綺麗だねっ!」


「ああ、そうだな」


 しばらく俺らはその光景を眺めていた。別にゲームの終了時間まで、この場にいても良かったのだが……レイは途中で口を開いて。


「……ね、せっかくだから限界まで上に行ってみない?」


「上って……もっと高度上げろってこと?」


「うん! どこまで上に行けるかなーって思って。ひょっとしたら宇宙まで行けるかもよ!」


「……面白そうだしチャレンジしてみるか」


 流石に宇宙まで行けるとは思えないが……俺もどこまで作り込まれているかには興味があった。賛成した俺は更に高度を上げて、花火が打ち上がる場所よりももっと上を目指して、数分間羽を羽ばたかせた。


『はっや』

『やっぱこの羽すげぇな』

『下見るとブルっちまうよ……』

『最後にやることそれかよww』

『確かに面白そうだな』


 そのまま俺らは上へと向かい、雲を突き抜けると……幻想的な雲海の姿が見えてきた。遥か上空から見る、雲と夜景の姿は更に美しくて。このゲームでこの光景が見れるのは俺とレイだけってことを思うと……ちょっとだけニヤついてしまう。


「わぁ、凄いね……! この景色、私と類しか見れないんだよ!」


「……そうだな」


 同じことを考えていたのに気づいた俺は、途端に恥ずかしくなってしまった。それを隠すように、俺は更に高度を上げていった。一体どこまで作り込まれてるんだ……まさか本当に宇宙マップまで作られてるんじゃないか…………とか思っていた刹那。


「……あ」「……えっ?」


『あ』

『あ』

『まずい』

『草』

『オワタ』

『もう助からないゾ♡』


 一定のラインを超えた所で、急に羽は動かなくなってしまった。もちろん羽の力でレイを背負っていたので……羽が使えなくなるという事は、レイが背中から放り出されるということである。


「わーーーっ!!!!」


「レイ!!」


 俺も一時的に羽が使えなくなって、落下するが……とある位置を下回った辺りから、また羽が使えるようになっていた。俺は急いで加速して、落下している最中のレイに手を伸ばした。


「おい、レイっ! 掴まれ……ッ!!」


「……!」


 お互いに手を伸ばし、空中で何回か触れ合った所で……俺らはガッシリと手を繋ぐことに成功した。


『うおおおおおおおおおお』

『きたああああああああああああああ!!!!』

『映画の予告かよww』

『アニメOPで見たことあるやつ』

『ボカロPVみたいになってるって』


 俺もこの光景はどっかで見たことあるが……まさか自分がその立場になるとは思わなかった。手を繋いだ先のレイの顔を見ると、彼女は笑っていて。


「……あははっ! 落ちてるね!」


「何で楽しそうなんだよ……?」


 まぁもうゲーム終わるし、ダウンしようが関係ないからお気楽でいるんだろうけど……なら何で俺は必死で、レイの手を掴もうとしたんだ?


「……つーか、どんだけ飛んだんだ俺ら……全然地面見えねぇんだけど」


 下を見ると、まだ雲の上を落下している最中であった。マジで落ちながらこのゲームを終えることになるんじゃないか……? あとどれくらい時間残ってるんだろう……と、俺が時計を確認するためにメニューを開こうとすると。


「……ね、類。こっち向いてよ」


「え?」


 レイに止められてしまった。見ると彼女は特に話すことも無く……ただ笑って。


「ふふっ」


「……何だよ?」


「いや。なんか……この時間がずっと続けば良いなーって思って」


「ずっとは…………ヤダな」


『草』

『草』

『おい』

『ノンデリ』

『それはそう』

『おい!!! これもう告白だろ!!!!?』

『マジでそろそろ終わりそうだぞ』

『本当にこいつら落下しながら終わるのかwww』


「ま、でも……こんなアホみたいな終わり方も悪くない」


「ふふっ!」


 そしてそのまま雲を突き抜け、更に俺らは落ちていく。羽を使えば、少なくとも俺は無傷で終えることは出来るだろうが……流石にそんなことはしなかった。このままレイと二人で落ちた方が面白いと思ったからな。


 落下中、レイは俺に話しかけてきて。


「……ね、類」


「何だ?」


「…………」


「何だよ?」


 聞き返すがレイは反応を示さず、何も言わなかった。何だ? まさか……終わるタイミングを見計らってるのか? だとしたら、最後に何を言うつもりなんだ……? 落下しながら、俺はレイの言葉を待った…………。


「…………類。一週間、本当に楽しかったよ。ありがとう」


「ん、ああ。俺もとっても楽しかった──」 











「────だよ」


「……えっ?」


 ────言ったのと同時に、俺の視界は一瞬で暗闇に包まれて。次に光が戻った時には…………もうそこにはクラスト・オンラインのタイトル画面が表示されているだけだった。ゲームが終了したからか、自動的に配信は終わったらしく、コメントも流れてこなかった。


「……………………」


 俺は呆然として……しばらく動けなかった。最後にレイは……彩花は。何て言ったんだろうか。というかどのタイミングで配信は終わったんだろうか。はっきりと言葉を聞けた人はいるのだろうか。


 思い浮かぶことは山程あるが……俺はゆっくりとヘッドセットを外して。こう呟くのが精一杯だったんだ……。










「……喪失感エグぅっ」


 ──

 ──

 4章 クラスト・オンライン編 おわり

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