第127話 今の気持ちはどうドラか?

 ──


 そして映像が終わった後、クラドラはモニターの前に突っ立って、MVPの結果発表を行おうとしていた。クラドラはみんな方を向いて、スピーカーから声を発す。


「集計が終わったドラ! 早速発表するドラよー!」


『ワクワク』

『一体誰やろうなぁ』

『ルイ視点しか見てないから予想が付かないな』

『大穴でルイに賭けます』

『やっぱり魔王城攻略組から選ばれるんじゃないか?』

『もう全員って言われても納得するよ』


 確かに予想は付かないな。きっと俺が見ていない所でも、多くのドラマがあっただろうし……終わった後、他配信者のクリップを漁るのも悪くないかもな。そんなことを思いながら、クラドラの次の言葉を待った。


「今回、一番票数を集めたプレイヤーは……なんと。なんと……!! なんと!!」


『はよ』

『はよしろ』

『溜めるなぁw』

『引き伸ばすなwww』

『焼き鳥にすんぞ』







「ルイ・アスティカくんだドラ!!!」


『あ』

『あっ』

『マジかwwww』

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおお』

『きたあああああああああああ!!!!』

『やっぱりな』

『おめでとう!! ルイ!!!』

『贔屓目無しでもお前だと思ったよ』

『俺はまぁ……知ってたけどね?』


「…………えっ、俺っ!!??」


 まさか自分が呼ばれるとは思わず、何秒か反応が遅れてしまった……って、いや、本当に俺!? 俺がMVPなの!? 良いの!?


「類ー、やったじゃん!」


「凄いですよルイさん、MVPですよ!!」


 近くにいるレイといなりさんが喜んでくれるが、俺はまだ選ばれた実感が無くて反応に困っていた……そんな俺など見えていないのか、クラドラは続けて。


「やっぱり魔王城攻略のリーダー的役割を担った所が大きかったみたいドラね! そんなMVPに選ばれたルイくんに、一言貰いたいと思うドラ!」


「えっ!?」


 そんなんさっきまで無かったじゃん! 一言とか何も考えてないって!!


「えーと、ルイくんはどこにいるドラか? 出てきてもらえると助かるドラ」


 そしてクラドラはどれどれと、俺を探すような動きを見せる……。


「い、いや……恥ずかしいんだけど……」


「ほらほら、類。早く行ってきなって」


「わっ……!」


 レイから背中を押され、俺はステージ前の人混みまで押し込まれる。そしたらみんな俺に気が付いたのか、歓声や指笛を鳴らして盛り上げてくれた。俺は半笑いで、その人混みを通り抜ける……。


「あ、あはは、どうも……」


 さっきのカジノの時とは違って、全く予想していなかったことだから、上手く反応に応えられなかったのだ。……そしてステージに上がるなり、クラドラは俺に感想を聞いてきた。


「あ、ルイくん来てくれたドラ! 今の気持ちはどうドラか?」


「え、えーっと……」


 正面を見ると、何十人ものライバーが俺に視線を向けていて。頭が真っ白になりそうになるが……何とか俺は言葉を紡いでいった。


「あの、その……本当に俺で良いのかって思いもありますけど。でも、みんなの投票のお陰でこんな賞を頂けて、とっても光栄です。本当にありがとう!」


 言い終わるとみんなは拍手をしてくれて……そしてドォンと花火が上がる音が聞こえてきた。俺を含め、みんなは一斉に上空に視線を向ける。


「わっ、すっげぇ……!」


『綺麗だなー』

『たまや~』

『素敵だね』

『バーチャル花火大会やれそうだなw』

『花火デートもできるのか』

『すげぇエモじゃん』


 ゲーム内とは思えない程、光も音も壮大で……その光景に俺らは心を奪われていた。そんな俺らを見て、クラドラはちょっと嬉しそうに。


「ふふ、おめでとうドラ! MVPのルイくんには金のクラドラくんぬいぐるみと……金のエンジェルウィングをプレゼントするドラ!」


「わっ!?」


 そして突然、俺の背中に金色の羽が生やされた。どうやらクラドラからのプレゼントのようだが……。


「この羽は普通のエンジェルウィングと違って、風に煽られたりすることも、高度に制限も、重量制限も無いドラ。残り時間は少ないけど、それを使って自由に空を飛んでみて欲しいドラ!」


「ほぇー……」


 まぁMVPということで、特別なアイテムを俺にくれたのだろう。それならありがたく使わせてもらおうかな。


「それじゃあ、これにて授賞式は終了ドラ! 残りの時間は自由に過ごして良いドラよー!」


 そしてクラドラが閉会宣言した所で、各々雑談する者や配信を終える者。はたまた海に飛び込む者も多数いた。一方、俺はいつもの仲の良いメンバーに囲まれていて。


「類、おめでとー!」


「おめでとうございます、ルイさん!」


「ルイー! MVPってよく分かんないけどおめでとー!!」


「良いもの貰いましたねルイさん。ちょっとジャンプしてくださいよ?」


 レイやいなりさん、リリィやいぶっきーも俺の近くに集まってくれた。俺は笑いながらお礼を言う。


「みんなありがとう! いぶっきーに関しては、完全にヤンキーの脅しなんだけど……」


「いや、羽で飛ばないんですかってことですよ」


「あ、そういうこと……ってか、また語尾忘れてません?」


「……」


 そう指摘すると、いぶっきーは黙って俺を睨みつけるのだった……まぁ語尾のことはもう忘れてあげよう。エンディングだしね……。


「……それじゃあ飛んでみようか」


 そして俺はエンジェルウィングの要領で、金色の羽を羽ばたかせてみた。宙に浮いた瞬間……その安定性に驚いてしまう。


「おおっ……!」


 そのまま俺は飛行体勢を取り、ビューンと船の周辺を飛んでみた。初速も加速も曲がりやすさも、全てエンジェルウィングより圧倒的に上回っていて……まさにチートアイテムと言っても過言では無かった。 


「あははっ! すげぇ、めちゃくちゃ楽しいや!」


 言いながらくるくる回って、俺は飛び続ける……。


『はえーっ!』

『スーパーマンみたいだな』

『これ使えたらマジで最強装備だなw』

『みんなにくれたら良かったのにな』

『ソラの参戦PVみたい』

『ソラの参戦映像で草』


 船の周りを何周か飛んだ後、俺は元の場所へと戻っていた。どうやら俺の飛行を見てくれたようで、リリィは興奮気味に。


「すっげー早いなルイ! 誰かおんぶすれば、もう一人飛べるんじゃないか?」


「ああ……なるほど」


 確かにおぶればもう一人飛べるかもな。重量制限無いってクラドラ言ってたし。でも……この中から誰か一人を選ぶなんて、俺にそんな真似が出来る訳が……。


「……」


「……」


『あ』

『あ』

『飛びたそうな人がいるねぇ』

『目を逸らすな!』

『リュウ!?』


 ……レイと目が合ってしまった。なんだよ、飛びたいのかよ、お前!! ……ここは提案してきたリリィを誘うのが、自然な流れだと思うんだけど…………まぁ。視聴者はきっとルイレイを期待してるだろうしなぁ……。


「……じゃ、レイ来いよ。一緒に飛ぼうぜ?」


 俺がそう言うと、レイはちょっと驚いたような反応を見せて。


「え、私で良いの?」


「嫌なら別の人乗せるけど……」


「……じゃあ行く」


 そう言って、レイは俺の背中に飛び乗ってきた。いくらゲーム内とは言え、この姿を他の人に見られて……俺はちょっと恥ずかしくなってしまう。


『ぴょん』

『かわいい』

『兄妹か?』

『お兄ちゃんみたいだな』

『夫婦だったり兄妹だったり忙しいなお前ら』

『こいつらだから出来ることだよなぁw』


「……ちゃんと掴まってろよ?」


「うん」


 そして俺は再び羽ばたき、逃げるように船から飛び立つのであった。


 ──

 ──

 ──船エリア、定点カメラ配信──


「……良かったんですか、リリィさん。リリィさんもルイさんの背中に乗りたかったんじゃないですか?」


「んー。まぁ、あたしも飛んでみたかったけど。空気を読むってことも覚えたからな!」


「空気ですか?」


「ああ! 最後は、ルイとレイの二人きりでエンディング迎えた方が良いと思ったからな! だから譲ったんだ!」


『そうだったのか……!』

『気を遣える女、リリィ』

『リリィちゃんは優しいねぇ』

『今頃アイツらはお空でイチャついてるよ』

『でもいぶっきーは不満そうだなw』


「そうだったんですか。素晴らしいですね……いなりさん。今なら飛んでるルイさん達を狙撃して、撃ち落とすことも可能じゃないですか?」


「えっ、ええっ!? や、やりませんからね!?」


『草』

『草』

『草』

『草』

『もうルイレイアンチだろこいつwww』

『撃ち落としたら伝説になりそう』

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