第126話 MVPを決めるドラ!

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 そんな楽しい時間もあっという間に過ぎ去って……クラスト・オンラインが終了する時間は、刻々と迫っていた。俺らチームの三人はカジノの端っこにある椅子に座って、最後の雑談をしていた。


「……あー。もう終わるんだなー」


「終わりだね。色んなことあったけど、本当に楽しかったなー」


「いなりもです。このゲームを通じて、お二人に出会えて……本当に良かったです! 最高の思い出ができました!」


『ああ……マジで終わっちゃうんだな』

『いなりんの言葉に泣いちゃうよぉ』

『最終日も最後までたっぷり面白かったな』

『問題も多々あったけど、それを加味しても面白かったわ』

『クラストの面白クリップめちゃくちゃありそうだw』

『魔王城の所は映画に出来るレベルだった』


 コメントを見て、俺もこの一週間の出来事を思い返していた……スタートダッシュに失敗したかと思えば、偶然レイと出会って。そこからチームを組んで、いなりさんを仲間にして。羽を手にして、魔王城を見つけて、囚われたみんなを救い出して。


 本当に勇者になったような、慌ただしい一週間だったな……まぁそれを言うと、お前は毎日魔道士になりきってるだろ、ってツッコミが入りそうだけど。


「それで……どうやってゲームは終わるんだろうね? 日付が変わった瞬間に、サーバーが落ちちゃうのかな?」


「あっ。どうやら終了30分前になるとログインしてる人はみんな、強制的に移動させられるみたいですよ」


「移動?」


「はい。どうやら『クラストシップ』って言う船の上に飛ばされるみたいです。運営からのお知らせメールに書いてました。多分ですけど、ここで閉会式が行われるんじゃないでしょうか?」


「なるほど。そこでみんな集まって、お開きってことかな」


『新マップきたあああああああああ!』

『遂に全員集合か』

『粋なエンディングだねぇ』

『延長して欲しいなぁ……』

『ここで表彰式もすんのかな?』


 ああ、確かに表彰とかもあるのかもな。結局俺らは賞も何にも狙わず、ただゲームを楽しんでいただけだけど……それも一つの楽しみ方として、悪くない選択だったと思うよ。


「あと何分で移動なのかな?」


「えっと……あっ。今、丁度30分前になった所です」


「えっ?」


 そして俺が声を上げたのと同時に……俺ら全員の身体は透けていった。俺らは当然のこと、まだ一攫千金を狙おうとギャンブルに勤しんでいるギャンブラー達の、悲痛な叫び声も同時に聞こえてきた。


「おわっ……!? これがワープの合図ってことか……!?」


「わーっ、スケスケだ!」


「こ、こんな演出あったんですね……!」


「わっ、我はまだ消えたくない!! どうかあと3分だけ、この台を打たせてくれないだろうか!!!!」


『草』

『草』

『ロビン惨めで草』

『まだスロットやってんのかアイツは……』

『ギャンブルENDにならないだけ有り難く思って』


 ──


 そして俺らの身体は完全に消え……一回ロードを挟んで画面が暗転すると、俺は船のデッキの上に移動していた。辺りには同じようにワープさせられたプレイヤーが立っていて、もちろんそこにはレイといなりさんの姿もあった。


「……わぁー! 見て、海だよ類!」


 その光景を見たレイはテンションを上げ、手すりに身体を預けて海を指差した。綺麗な海と夕日をバックに、微笑んでいるメイドのレイの姿は……何だかちょっとグッと来るものがあった。


「ああ。良い眺めだな」


『かわいい』

『次は船デートですか』

『エモいな……!』

『この船クソでけぇな!?』

『ざわざわしてて声聞こえねぇwww』


 確かにちょっと声が聞き取りずらくなっているな。さっきの話の通り、ログインしているプレイヤーはみんなここに移動させられたのなら、そうなるのも無理は無いか……俺は辺りを見回す。


 どうやら船は豪華船のようで、俺の周辺には寝っ転がれそうなベンチが並んでいた。そして中央に設営された小さなステージには、巨大なモニターと赤いドラゴンのマスコットキャラの着ぐるみが置かれていた……。


「……なんだあのドラゴン?」


「きっとあれは『クラドラくん』ですよ。チュートリアルの時に色々教えてくれたドラゴンがいたじゃないですか」


「ああー、そんなのいたね……」


 いなりさんの解説で、存在を思い出す。チュートリアル以降姿を見なかったから、ただのモブキャラかと思ってたけど……ちゃんと看板キャラクターだったんだな。


 そしてそのドラゴン……クラドラを眺めていると、それは突然動き出して。スピーカーを使って、プレイヤーのみんなに向かって話しかけてくるのだった。


「みんなー! まずは一週間、本当にお疲れ様だったドラ!」


「しゃべった!?」


『ギャアアアアアアア!!!』

『シャベッタァ!!!』

『全く、変な語尾ルイね?』

『キャラ付けが必死だルイ』

『アレ誰が動かしてるんだ?』

『運営でしょ』

『運営もこの世界うろついてたんかなw』


 まぁあんな着ぐるみ装備は見たこと無いし、運営が動かしてると思って良いだろう……そして全員の注目を集めたクラドラは、モニターの電源を入れて、授賞式の開会宣言を行うのだった。


「早速だけど、授賞式を始めていきたいと思うドラ! 受賞したライバーには、オイラのぬいぐるみ『クラドラぬいぐるみ』をプレゼントする予定だドラよ!」


 ああ、賞取った人は豪華景品貰えるって言ってたけど、ぬいぐるみのことだったんだな……いや、別にショボいとか思ってないけど。


 そして受賞者の発表が行われるということで、プレイヤーの多くは中央のステージ前に群がっていった。でも逆に俺は中央から離れ、端っこの方で発表を見ることにした……特に理由は無いけど。強いて言うなら、人混みが嫌いだからかな。


 俺が端っこに移動しようとすると、同じようにレイといなりさんも着いてきた。多分いなりさんも人混みが得意じゃないのだろうな……まぁレイは、何も考えずに着いてきただけだろうけど。


 定位置に付いた俺らは特に何も話すことなく、その授賞式の光景を眺めていった。


「まずはログイン時間トップ賞を発表するドラ! 一番長く遊んでくれたのは……蓮見来夢さんだドラ!」


『おおー』

『やっぱりライムかww』

『いつ見ても来夢は配信やってたからな』

『多分来夢はアンドロイドだよ』

『前任者は破壊されました』


「さて、次はトップレベル賞の発表ドラ……なんとこちらも、蓮見来夢さんの受賞だドラ! 早くも二冠達成だドラ!?」


『うおおおおおおおおおおお』

『草』

『来夢ゲーじゃねぇかww』

『配信モンスターにゃ勝てんよ』

『ランキングならルイも頑張ってると思うけどな?』


「……やっぱ来夢さんってすげーんだな」


「そうだねー。来夢ちゃんは平気で24時間配信やるもんねぇ」


「に、24時間って……」


「ふふっ。この調子だと、いなり達は呼ばれなさそうですねー」


 ──そんな感じで表彰式は進んでいった。ちなみに所持金トップ賞は安藤先生、ギャンブル賞はカレンさん、ショッピング賞はいぶっきーが受賞していた。いぶっきーに関しては意外だったけど、多分ロケラン買いまくったからだろうなぁ……。


「受賞したライバーのみんな、おめでとうドラ! ぬいぐるみのプレゼントを楽しみにしてて欲しいドラ!」


 そして授賞式は終わる流れ……かに見えたが。クラドラはそのままモニターを叩いて、次の画面を表示させた。そこには三文字『MVP』と書かれていて。


「……で、最後にもう一つ、賞を発表したいと思うドラ。それは……MVP賞。クラスト・オンラインが始まってから、今日まで最も目立った、活躍した人物に与えられる賞だドラ!」


「MVP……?」


「そしてこの賞は……ここにいるみんなに決めてもらおうと思ってるドラッ!」


 その言葉と同時に、着信音が一斉に鳴り出した。もれなく俺にもメッセージは届いていて……差出人はクラドラくんだった。本文には『MVPに相応しいと思う人物を書いて送るドラ!』と書かれていた。


 なるほど、MVP賞はプレイヤーの投票で決まるのか。でも明確な判断基準が無い以上、選ぶのが難しいな……?


「投票受付時間は5分。特に思いつかなかったら自分でも、好きな人の名前でも書いて良いドラよ?」


 自分も良いのかよ。でも流石にそれは恥ずかしくて出来ないけどな……ひとまずレイに相談してみよう。俺は隣で文字を打ち込んでるレイに話しかけてみた。


「なぁ、レイは誰に投票する?」


 するとレイは一歩後ろに下がり、打ち込んでる画面が俺から見えないようにして。


「……ナイショ」


「えっ……じゃあいなりさんは?」


「レイちゃんが言わないなら、いなりも内緒にしておきます」


「え、ええっ……?」


『あっ』

『ヒミツ♡』

『これは……』

『一体誰に入れるんやろなぁ……?』

『そらもうアイツよ』

『でも俺らのルイは察しつかないから!!』


 いや、別に隠すようなことじゃないだろ……? でもこれ以上聞いても、簡単には教えてくれなさそうだし。どうしようか……みんな同じくらい活躍してたし……うーん。やっぱり真剣に考えると難しいから、フィーリングで決めるべきなんだろうか?


「……」


 やっぱり……レイからチーム誘われてから、色々物語が動き出した感じはするし。そういった意味では、レイがMVPに相応しいのかな……?


 時間も迫っていたので、特にこれ以上俺は考えることはせず。レイの名前を入力して、彼女に投票したのだった。


「……よし」


『あっ』

『知ってた』

『いつもの』

『そりゃそうでしょうよ』

『予想通り過ぎてニッコリしちゃった』

『だって好きな人だもんなw』


 あのドラゴン、余計なこと言いやがって……でもここで弁明する訳にもいかねぇか。レイに投票したってバレるからな……。


「はい、時間になったドラ! じゃあ今から集計するから……その間はこの映像を見て待ってて欲しいドラ!」


 そしてクラドラの合図で、スクリーンに映像が流れ始めた。それはこのクラスト・オンラインのダイジェスト映像のようで、各ライバーの配信から切り取った映像や、定点カメラに映ってた映像なんかが使われていた。


 ……その映像の途中、俺がレイに『神秘の指輪』を渡しているシーンも流れて。その瞬間にどよめきと歓声が上がった話は……別にしなくても良いよね?

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