第125話 またしても何も知らないルイ・アスティカさん(16)

 俺の勝利により、カジノ内は割れんばかりのルイコールが鳴り響く。俺は両手を広げてその歓声に応えた……いやぁ、こんなに歓声を浴びるのって気持ち良いんだな。初めて知ったよ。今までこんなに目立ったこと無かったから……。


 それでいぶっきーはしばらく呆然としていたが……俺に負けたことを認めたのか。椅子から立ち上がって、少し笑いながら俺に話しかけてきた。


「……私の完敗ですよ、ルイさん。一体どんなトリックを使ったんですか?」


「……」


 だけど、俺はあえて無視をした。その理由はもちろん……。


「ルイさん?」


「いや、語尾に『にゃん』が付いてないなって思って」


「…………」


『あ』

『あっ』

『草』

『ちゃんと覚えてて草』

『お前さぁwww』

『やーっと打ち解けたと思ったらこれだよ』

『まぁいぶっきーから仕掛けてきたし……』

『ルイも背負ってたしなw』


 とりあえず約束は約束なので、この要求はしても良いだろう……で。いぶっきーは自分の中の何かと戦っているのか、しばらく黙って俯いた後……全く覇気のない声を出してきて。


「……どんなトリックを使ったんですか、にゃーん」


『あっ』

『草』

『かわいいいいいいいいいいい』

『きtらあああああああああああああ!!!』

『いぶっきーかわいいねぇ!』

『猫堕ちきたああああああああ!!』

『伊吹はもうこの路線でやっていこう』

『こーれ猫耳ファンアート大量発生します』


 凄い棒読みなのは気になるが……まぁちゃんと言ってくれたので、俺は質問に答えることにした。


「トリックは使ってないよ」


「えっ?」


「俺の手札がいぶっきーに筒抜けであることは分かっていた。でもどうやって、誰が伝えているかは分からなかったから……俺は手札を見ないようにして、誰にも俺の手が分からないようにしたんだ」


「そこまでは分かりますが……にゃん」


「それでやっと対等な勝負……でも俺は交換もパスしている状況で、不利なのには変わりなかった。だから俺はとにかくハッタリを掛けて、勝負から引きずり降ろそうとした訳だ。自分より何か凄いイカサマをしてるんじゃないか……って、思わせてね」


「流石に思いましたよ」


「語尾、忘れてる」


「…………」


『草』

『草』

『おい』

『うぜぇwwww』

『一発殴られろお前www』

『これはキレていい』


 確実にいぶっきーは拳を握るモーションは見せたが……ギリギリで踏みとどまってくれたようで。吐き捨てるように俺に向かって。


「思いましたにゃん……まぁここまで分かったにゃん。一番の問題は、私がルイさんのハッタリを見抜いて勝負に挑んだというのに、どうして負けたってことだにゃん」


「それは……たまたま」


「……は?」


「いや、だって俺の想定では、あそこでいぶっきーが勝負に降りてるはずだったんだよ。まさか勝負してくるとは思わなかった」


 聞いたいぶっきーは、引きつったような声を上げて。


「えっ、じゃあ……キングが揃ったのは、本当に偶然ってことだにゃん?」


「そう言うこと……あそこで俺が負けてても面白かったけど、今回は神が味方してくれたね」


『マジで運だったのか……』

『運だけのルイ』

『ポーカーなんて手札が強けりゃ勝つからな』

『これはいぶっきーの運が悪かったとしか言いようが無い』

『お前本当に勝って良かったなw』

『結局、羽とか写真とかの下りは何だったんだ……?』

『原作再現でしょ(適当)』


 それで……全貌を知ったいぶっきーは、呆れたようにため息を吐き出して……。


「はぁ、結局運だけだったってことですか……ルイさんらしいですにゃん?」


「何とでも言うが良いよ……さて。イカサマした上に負けて、ASMR配信が決定してしまったいぶっきーにも、種明かししてもらいましょうか……」


「……」


 俺がそう言うなり、いぶっきーは俺から背を向けて……爆速でカジノ内を駆けて行くのだった。


「あっ、逃げた! みんな、追えーっ!!」


「伊吹さん、お金返してくださいー!!」


「フッーハッハッハ! 伊吹嬢、ASMR配信する日時を教えるが良い!」


 ──

 ──

 

 ──レイ視点── 


『おつかれーー!』

『上手くいったね!! すごすぎだよ!』

『誰にもバレてないの流石だよ』

『レイちゃんは影のヒーローだねぇ』

『ルイには感謝してもらいたいものだなw』


 類といぶっきーのポーカー勝負に決着が付いた後、私は大きな柱の裏に隠れてコメントを読んでいた。類がギャラリーの注目を集めているから、きっと私がいなくなったことは、すぐには気付かれないだろう……。


「……ふぅ」


 小さく息を吐きつつ、手に握っている五枚のカードを眺める。そのカードは数字もマークもバラバラだった。ポーカーの役は全部知ってる訳じゃないけど、この組み合わせは何の役にも該当しないのは何となく分かっていた。


 やっぱり、私の行動は無駄じゃなかった──


「レイちゃん、レイちゃん」


「わっ……!」


 突然私を呼ぶ声に驚いて、小さな声が出てしまった。私の名を呼んだ正体は……同じフリフリのメイド服を着た、ケモミミ少女のいなりんだった。


「なんだー、いなりんか! びっくりしたよー!」


 言いながら私は手を後ろに回し、カードを隠し持つ。いくら味方のいなりん相手とは言え、このことは誰にも気付かれたくなかったのだ。……でもいなりんは既に気付いているのか、確信めいたように私に尋ねてきて。


「あの、レイちゃんがキングのカードを揃えたんですよね?」


「えっ……? な、何のことかな……?」


「じゃあその手に隠してるカードはなんですか?」


「…………」


『あ』

『あら』

『バレテーラ』

『バレてたか~』

『よく気付いたな』

『いなりんだしセーフだよ』

『いなりんの嗅覚は凄いね~』

『一応獣だもんねw』

『いなりフレンズ』


 言い訳も思いつかなかった私は、気まずそうに黙っていなりんの方を向くことしか出来なかった。それで、いなりんは色々と察してくれたのか……気付いた理由を教えてくれて。


「実はいなり、レイちゃんが時を止める魔法を覚えてたの知ってたんです。だからあのラグみたいな時間も、きっとレイちゃんが魔法を使ったんだなって思ってました」


「……そっか。知ってたんだー」


 知ってたのなら隠せる訳無いか。私は笑いながらカードを見せて、いなりんにネタバラシをすることにした。


「指輪を装備してる私なら、カード変えられるんじゃないかってことに気付いてね。時を止める魔法は、魔力沢山使うから今までまともに発動出来たこと無かったんだけど……指輪のお陰で数十秒間は動けて。その間に急いでカードを揃えて、伏せてたカード達と交換したの」


「凄いじゃないですか。私が同じ状況でも、絶対に出来ませんよ」


「でも、本当に変えて良かったのか分からないけどね……」


「良いんですよ。伊吹さんは何でもありって言ってましたし。……でも気付いてからすぐにじゃなくて、最後の勝負だけ手伝ったのは何か理由があるんですか?」


 ……うーん。やるかどうか迷ってたってのもあったけど。やっぱり一番の理由は。


「それは……やっぱり。類に勝ってほしくなっちゃったからかな……?」


『あっ』

『かわいい』

『照れてる?』

『愛してるからな』

『レイちゃんは優しいなぁ』

『ルイは運だと思ってるけどなw』


 それで私の答えを聞いたいなりんは、満足そうに微笑んで。


「ふふっ。このことって、ルイさんには……」


「言わない。絶対に」


「ええー、どうしてですか?」


 別に類に恩を着せたいから、助けた訳じゃないし。それに……。


「……類には。バカでいて欲しいから」


「えっ?」


「俺は持ってる! ツイてる男だ! ……って勘違いしたままでいてほしいの。その光景を後ろからニヤニヤして見る方が楽しいでしょ?」


『草』

『確かになw』

『気持ちよさそうに歓声浴びてるルイ滑稽だったぞ』

『まぁ普通は気付かないだろうからなぁww』

『でもルイに知ってほしいけどなぁ……』

『レイちゃんが言わないなら俺らも黙っておこうぜ』

『そうだな』


 それでコメントも、いなりんも私の考えが分かってくれたみたいで。いなりんはコクリと頷いて。


「そうですか。レイちゃんがそうしたいなら、いなりも黙っておきます……このことは、視聴者の皆さんも秘密ですよ?」


『はーい』

『あーい』

『いなりんの言う事なら何でも聞くワン!』

『犬もいます』

『いなりんも喋るの上手になったなぁ』

『オドオドしてた頃ともう見違えてるな』

『レイちゃん相手だからでしょ』

『それでも凄いことだよ!』


 私もこの一週間で、いなりんはとっても成長したと思うよ……未だに敬語で話す癖が治らないのも、可愛い所だけどね。


「じゃあそろそろ、いなり達もルイさんの元に向かいましょうか。勝者を称える必要がありますからね!」


「……うん! そうだね。行こ、いなりん!」


『良いなぁ……』

『やっぱりこのコンビ好きだわ』

『こんなに仲良くなるとはな』

『仲間に誘ったルイにも感謝だ』

『ルイのお陰で魔法も使えたようなもんだしな』

『まぁ当の本人は何も知らないんですがw』

『またしても何も知らないルイ・アスティカさん(16)』

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