第121話 これが世界を救った勇者の末路ですか?

 それでレイ達を待っている間……俺はコメントと喋っていて。


「確かに今の俺、休日のお父さんみたいだな」


『草』

『お前も服選んでやれよー』

『ルイは空気読んだんでしょ』

『じゃあレイちゃん達がどんな格好で来るか賭けしようぜ!』

『なら俺はセーラー服で』

『ここは巫女服だろう……狐もいるんだし』

『ルイはなんだと思う?』


 なんかどんな格好で来るか、予想する流れになっていたので……せっかくなので、俺も答えてみることにした。


「そうだな……いなりさんが選ぶのなら難しいけど。レイが選ぶのなら、どうせゴスロリとかじゃないか? あいつ、メルヘンチックなの好きだし」


『ん?』

『詳しいっすね』

『何で知ってるんですか?』

『へぇー……へぇー?』

『そういやレイちゃんの衣装にそんなのあったな』


 いや、アイツ王子様みたいな人が好きとか言ってたし。そう、レイに配られた衣装とか見たら分かることじゃないか……って言っても、逆に必死過ぎて変な感じになりそう。ならもう逃げ場無いじゃねぇか。


「……ってかお前ら、予想が当たったら何かくれんのか?」


『いや?』

『特に何も』

『褒めてあげる』

『よしよししてやるよ』

『俺がチューしてやんよ……ちゅぶぶぼぼっぼっぼ!!!!!』

『うわ』

『草』

『そんな簡単にスパチャ貰えると思うなよ』


「うわ怖っ、厳しっ……ってかさ。ホント今更だけど、俺の視聴者って男のヤツ多くない? 男VTuberって、女性視聴者多いって聞いたことあるんだけど」


『ギクっ』

『まぁ初回放送で大半の女性視聴者は消えてるよ』

『私、現役JKですわよ』

『わたくしもですわ。じいやにマッサージさせながら見てますわ』

『でたわね』

『無理すんなおっさん』

『んまぁ無礼ですわ!! この者を連れってって頂戴!』

『これは流石におハーブ』


 なんだかカオスになってきたので、一旦この流れを止めることにした。


「はい、終了。元に戻れお前ら……今度お嬢様系の企画やってやるから」


『草』

『草』

『うおおおおおおおおおおおお!!!!!』

『どんな企画だよ』

『ルイも脊髄で喋るの上手くなってきたな』

『ここでお嬢様の格好したレイちゃん現れそうでウケる』


 なんか俺もそんな気がしてきた……が流石にそんなことはなく。


「あっ! 見て見てー、類!」


「ゲームとは言え、この格好はちょっと恥ずかしいかもです……」


 そう言いながらレイといなりさんは俺の前に出てきた。その姿は黒のワンピースに白色のフリルが付いたエプロンを着た、メイド服姿の二人だったんだ……レイは裾を引っ張りながら、ポーズして俺に見せつけてくる。


「じゃーん! どう、可愛いでしょ?」


『!?』

『うおおおおおおおおおおお!!!!!』

『んきゃわいいいいいいいいいいい!!!』

『可愛い!!』

『メイド助かる』

『レイちゃんこれは……理解ってますね』

『ルイ興奮中! ルイ興奮中!』 


 いやまぁ……普通に可愛いとは思うけどさ。


「なんでメイド服?」


「可愛いから! あと……前に類、メイド服着て欲しいみたいなこと言ってたからさー」


「……いや、言ってねぇって!!」


 そんなこと、俺は一言も……! ……いや待て? 思い出せ……確かクリスマス前に彩花とデートした時、そんなこと言ったような気がする……。


 …………でも配信上で言う必要ねぇだろ!!!!


『そうなのかルイ?』

『マジなのか?』

『レイちゃんが適当言ってるだけかもしれん』

『いーや、これガチです』

『俺もルイにメイド服着てもらってご奉仕して欲しいにゃん!!』

『変態も見てます』


 ……で。俺の反応で、かなり追い詰められてることを察したレイは、これ以上は追求してこなくて。裾を掴んでた手をパッと離して。


「まっ、私の勘違いだったってことにしとくよ。それより感想は?」


「うんまぁ……似合ってるんじゃないっすか?」


『あっ』

『はい』

『あのさぁ……』

『いつもの』


 だからガチトーンで褒めると何か気持ち悪くなるから、あえて適当に反応している訳で……(N回目)。それでレイはちょっと呆れたように。


「最後まで類は素直じゃないねぇ……ま、いいや。いなりん、写真撮ろ!」


「う、うんっ!」


 そして二人はカメラモードを起動させ、撮影会を始めた。それで何枚か写真を撮り……それを確認したレイは、満足そうに頷いて。


「うん完璧! ……じゃあこのままお散歩に行こっか!」


「えっ、この格好でですか……!?」


「せっかくだし、みんなに見てもらおうよ! きっと可愛いって言ってくれるよ!」


「ううっ……やっぱりレイちゃんといなりは、全く違うタイプです……」


 それでいなりさんは恥ずかしそうにしながらも、レイに手を引かれ……店の外へと連れ出されるのであった。


「……アイツ自己肯定感高いな」


『草』

『かわいい』

『レイちゃんは自分に自信があっていいね』

『まぁ実際めちゃくちゃ可愛いから……』

『新衣装でメイド服欲しいねぇ』

『僕はいなりん派です』

『両手に花だな、ルイ』

 

 ──


 そして俺らはいつもの並びになって、思い出の場所を散歩していた。それで丁度、魔王城跡地周辺を歩いてる途中で……見覚えのある制服少女の姿が見えてきて。


「あっ、いぶっきー」


 俺は彼女に声を掛ける……そして俺とメイド姿の二人を見たいぶっきーは、露骨に嫌そうな声を上げて。


「うわぁ……これが世界を救った勇者の末路ですか?」


「なんか誤解してません?」


『草』

『草』

『草』

『ルイがコスプレ強要させてると思われてるwww』

『まぁメイド美少女二人横に置いてたらねぇ……』

『ルイならやりかねない』


 それでレイもいぶっきーに話しかけて。


「あれ、いぶっきー一人? チームのみんなは?」


「ああ……実はですね。最終日ってことで、カジノでチームの中で誰が一番多く稼げるかって勝負してたんですけど」


「うん」


「開始10分で私だけ無一文になったので、暇してたんですよ」


『草』

『草』

『よわい』

『だから外にいるのか……』

『いぶっきーギャンブル弱そうだしなw』


 確かにいぶっきーは真面目そうだし、そういった賭け事は得意じゃなさそうだな……思った俺は、そう口にしていて。


「まぁいぶっきーって、賭け事下手そうだよね」


「いや、ルイさんよりは絶対に上手いですよ?」


「あっ、張り合うんだ」


『草』

『ライバル視されてる?』

『まぁルイも下手そうではある』

『そういやカジノは行ったけど、プレイはしてないよな』


 そしていなりさんは、独り言を呟くようにして。


「へぇ、カジノなんてあるんですね……」


「あれ、いなりんは行ったことないんだっけ?」


「はい、始めて知りました」


「じゃあせっかくだし、私達も行ってみようよ!」


 その提案に、何故かいぶっきーも反応を示して。


「だったら私が案内しますよ。最終日だからかなり混んでますけどね」


「あっいや、別に大丈夫っすよ。カジノまでの行き方分かるし」


「……そう言われるとなんか腹立つので、私も着いていきます」


「なんですっか……そんなにレイとくっつきたいんすか?」


 その言葉を聞くなり、いぶっきーは超至近距離でロケランを構えだして……。


「……」


「冗談ですやん」


『草』

『草』

『草』

『怒らせんなwww』


 それでいぶっきーに火を付けてしまったのか知らないが……こんな提案を俺にしてきて。


「それにルイさん、カジノではプレイヤー同士が勝負できる場所もあるんですよ?」


「つまり勝負しようと? でも俺別に、所持金トップとか狙ってないんだけどな」


『勝負!?』

『カード勝負とか?』

『面白そう!』

『ルイ対いぶっきーは見てみたいな』

『でも伊吹は無一文だろwww』


 コメントを読んで気付いた俺は、それを指摘した。


「そうだ、いぶっきーもうお金無いんでしょ? だったら勝負は出来ないんじゃ……」


「ああ、その時はカレンさんからお金借ります。彼女運が凄く良くて、めちゃくちゃお金持ってるんですよ」


『草』

『借りる前提で草』

『クズで草』

『どんだけ戦いたいんだよwww』


 ……まぁ最終日ってことで、俺もお金使いたいし。いぶっきーとの勝負なんて、きっと配信も盛り上がるに違いないだろう……そう思った俺は、首を縦に振っていて。


「分かりましたよ。そこまで言うなら勝負しましょう」


「その言葉が聞きたかったです……やるなら罰ゲームとかも付けましょう。負けた方が語尾に『にゃん』を付けるとかはどうでしょうか?」


「それ、俺の方がダメージエグくないっすか?」


『草』

『草』

『いいね』

『これは熱い戦いになる』

『どっちが勝っても盛り上がるヤツ』

『おいおい、最終日にこんな面白いことしてくれんのかよ!』


「ふふっ! 面白そう! じゃあしゅっぱーつ!」


 ……ってな訳で。俺らは予定を変更して、四人でカジノへと向かうのであった。

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