第120話 だってもう親友でしょ!
それから俺らはちょっと気まずくなったまま、お祭りの様子を眺めていって……祭りが終わる頃に、俺らもログアウトしたのだった。
──
そして迎えたクラスト・オンライン最終日。ログインするなり、いつものようにレイからチャットが届いてきた。俺はそれを読み上げる……。
「『はやくいえきてー』……だってさ」
『こんルイ』
『今日のログボ』
『彼女とのやり取りみたいで草』
『レイちゃんのメッセージ見れるのも今日で最後かぁ』
『最終日って嘘だろ……?』
『悲しいよー!!』
『えっ、今日で終わりなの!?』
「ああ、今日が最終日だ」
そう言って俺は、広場の周りを眺める……遠くの方では、チームであろう数人のライバーが、円になってお別れ会のようなものを開いていたのが見えた。
「なんか……生活の一部になってたから、終わるのちょっと寂しいな」
『だな』
『俺もだよ』
『明日から何を生きがいにすればいいんだ?』
『魔王城とか色々あったけど楽しかったわ』
『今日はルイ達もお疲れ会やるの?』
「そうだな……最終日だし。今日はレイ達とのんびり過ごすのも悪くないかもな」
『いつもの』
『いつも通りってことね』
『日常パート助かる』
『エンディング後のCパートきちゃあああああ』
『すみません、昨日の指輪の件について触れましたか?』
『レイちゃん今日も指輪付けてたよ!』
コメント欄が不穏な流れになってきたので……俺はなんとか軌道修正させる。
「だから……指輪はただの装備品として、レイに渡しただけだっての。マジで他意は無い……あと今後、指輪について触れてきたヤツはブロックするからな」
『あ』
『こわ』
『丁度ドロップアイテムが指輪だったのが悪かったよなぁw』
『でも昨日のレイちゃん、完全に女の子の顔してたよ』
『あのままくっつけば良かったのになぁ……』
『ホント、ルイはもったいないことしたよ』
「……」
……リアルではちゃんとくっついてるよ、なんて死んでも言える訳なかったけど。
……そして歩いて家まで辿り着いた俺は、扉を開けて家の中に入った。そこではレイといなりさんが、ティーセットの置かれたテーブルを挟んで座っていた。俺に気付いたレイは、顔をこっちに向けて話しかけてくる。
「類、遅いよー!」
「ああ、悪い……何かやってたのか?」
「いや、特に何もー。いなりんとまったり喋ってたんだー」
「そうか」
言って俺も余っていた椅子に座る……この家の景色を見れるのも、今日が最後だ。
「今日で終わりだな」
「うん、そだねー……」
「寂しいですね…………あ、あの。いなり……このチームに入れて本当に良かったです。拾ってくれなかったらいなり、ずっと一人でしたもん……!」
いなりさんが涙声に変わっていくのに気付いた俺は、慌てて言葉を遮った。
「ああ! まだ終わってないから! しんみりした話は最後にやろう!」
「そっ、そうだよいなりん! せっかくだし最後まで笑顔で楽しもうよ! ほら、余ったお金とかも全部使いきっちゃお!」
『レイママ優しくてすこ』
『いなりん本当に楽しかったんやろうなぁ……』
『お金使うって何に使うんだ?』
『ギャンブルでしょ』
『そういや表彰とかもあるんだっけ』
ああ……表彰のこととかすっかり忘れてた。でも今更所持金トップを狙えるとは思えないし、レイもギャンブルで増やそうとは考えてないだろう。じゃあ何に使うつもりなんだろうか……聞いてみよう。
「レイ、どこで散財するつもりなんだ?」
「ふふん、それはもちろん……!」
──
……そして俺らはレイの提案で、服屋に訪れていた。いつの間にか服の種類が増えた店内を見渡しながら、俺は呟く……。
「まさか最終日にも来ることになるとはな」
「ふふっ! ここで、いなりんと出会ったんだよね!」
『もう懐かしいな』
『運命的な出会いだったもんな』
『何だっけ……デートで服屋来たんだっけ?』
『そんな気がする』
『ストーカー用の静音性に優れた服を買いに来てたんだぞ』
『コスプレしてもらう用の衣装選びに来てたんだよ』
……なんか存在しない記憶が捏造されてる気がするけど、一旦置いといて……いなりさんは更衣室の方を眺めながら、しんみりと言葉を発した。
「懐かしいですね……いなり、誰とも絡む勇気が出なかったから、ここでずっと隠れてお絵かきしてたんですよ」
「なんでいなりん、こんな所に隠れてたの?」
「それは……人と絡む勇気が無かったからですよ。他のライバーさんと会っても、気まずくなるのが目に見えていましたから……」
『;;』
『いなりんは消極的だねぇ』
『でも気持ち分かるなぁ……』
『陰キャにはVC垂れ流しのゲームはキツイよ』
『でも話せばみんな優しくしてくれると思うんだけどなー?』
『頭では分かってても、難しいことはあるんだよ』
それは俺も分かる……そしていなりさんは、視線を俺らの方に向けて。
「……で、でも。レイちゃんがいなりの服に気付いてくれたから、いなりはこうしてお二人と会えて、チームに入れて……仲良くなれて。本当に良かったです……! ……やっぱり終わるの寂しいですぅ……!!」
「あー! いなりん泣かないでー!!」
『泣いちゃったァ……』
『ちょっと男子ー』
『ルイのせいになってて草』
『いなりん実は泣き虫?』
『すっかり泣き虫キャラ定着したなw』
『それだけ楽しかったってことでしょ』
そうだよな……楽しかったから、終わるのが泣いちゃうくらい悲しい訳で。それなら、また集まれば良いだけの話だ。
「ならこのゲームが終わっても、また三人で集まって遊ぼう。良いよな、レイ?」
「うん! また恋バナやろう!」
「お前はコラボって言ったら、恋バナしか無いのか……?」
『草』
『そうだよ』
『レイちゃん恋バナ大好きだもんね?』
『理想の恋人を募集するくらいだから……』
それで、聞いたいなりさんは驚いたように。
「えっ、良いんですか……? いなりを呼んでくれるんですか……!?」
「もちろんだよ! だってもう私達、親友でしょ!」
「……れ、レイちゃん……!!」
そしてまた感情が溢れてしまったのか……いなりさんはレイにハグをした。
「ふふっ……いなりんからこんなことしてくれるようになったの、私嬉しいな!」
そう言ってレイは、優しくいなりさんを抱きしめ返すのだった。
『あら~』
『レイは言動がイケメンなんだよな』
『またレイガールが増えてしまったのか』
『今思ったけど、レイってめっちゃ同性に好かれてない?』
『確かに』
『いぶっきーだろ、カレン、いなりん……』
『なぁルイ、ライバル多くないか?』
なんで俺も競うことになってんだよ……まぁでも、レイが好かれやすいってのは同意するよ。だって普通に良いやつだもん…………口にはしないけど。
そしてそのまま、レイはいなりさんと肩を組んで……。
「よーし! じゃあ早速、お洋服買いまくっちゃおー! もう性能とか気にしないで、見た目だけで選べるから良いねー!」
「あっ、レイちゃん……! 良かったら……またお洋服、お揃いにしない?」
「うん良いよー!! 一緒に可愛いやつ着て、写真撮ろっ!」
「うんっ……!」
『ああ……浄化される』
『空気うめぇ……』
『やっぱ時代はレイいななんだよなぁ……』
『ルイ、お前も選んでやれよ』
いや……ここは変に俺も参加するより、二人で仲睦まじく選んだ方が良いだろう。そう思った俺は、二人にこう言っていて。
「ああ……じゃあ俺は座ってるから、終わったら呼んでな?」
『草』
『草』
『おい』
『お前も何か買えやww』
『ショッピングモールのお父さんで草』
『じゃあ父さん駐車場で待ってるから……』
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