第119話 王子様みたいに見えたんだよ?

 ──


 ……そして夜。全員無事に助け出せたということで、みんなは広場に集まってパーティを行っていた。そこでは歌が上手な人は歌い、楽器が弾ける人はアイテムを使って音を奏でて……まるで小さなお祭りが行われているような雰囲気だった。


 そんな中……端っこの物陰に潜んでいる、ケモ耳少女が一人。俺は彼女に近づいて声を掛けてみた。


「いなりさん。こんなとこで何してるの?」


 俺に気付いたいなりさんは、少し身体を仰け反らせて驚いたように。


「あっ、ルイさん……いなり、騒がしい場所はちょっと苦手でして……」


「そっか」


 そう言って、俺は隣に腰を下ろす。ここからだと広場のステージで、ロビンとリリィが即興で漫才やっている姿がよく見えていた……どっちがツッコミなのかは、全く分からなかったけど。


『さり気なく隣座るのキザだな』

『ここからでもロビン達の声が聞こえるの草』

『何やってんだアイツら……』

『ホント文化祭みたいだなw』

『ロビンとリリィは教室のみんなの視線集めて一発芸してるタイプ』

『わかる』


 そんな漫才の様子を眺めていると……いなりさんは少し俯いて、小さな声で。 


「……ルイさんは今回みんなを助け出した英雄じゃないですか。こんな所じゃなくて、みんなが称えてくれる中心に行くべきですよ」


 そうやって言ったんだ。ひょっとして……まだ魔王に捕まったことを気にしているのだろうか? もう終わったことだし、全然気にしなくても良いのに。


「いや、俺もあんまり騒がしいのは得意じゃないし。それに助けることが出来たのは、安藤先生やロビン……みんなのサポートがあってだからさ。俺は美味しい所を持ってっただけなんだよ。英雄なんて大げさだって」


「そ、それでも……」


 ……と、ここで更に見知った顔も合流して。


「あっ、いたいた! 二人とも、こんな所で何してるの?」


「おお、レイか。俺らはひっそりと祭りを楽しんでたんだ」


 そんな俺の言葉に、レイは疑うような素振りを見せて……。


「えー、ホントかなぁ? ひょっとして類、いなりん口説いてたり……」


「してねーよ!!」


『草』

『草』

『おっ、浮気か?』

『レイちゃんやきもち中!!』

『さっき抱き合ったのになぁ……』


 さっき抱き合ったのにって……うるせぇ、コメントしたやつブロックすんぞ。……そしてレイは笑いながら、俺の肩に触れて。


「冗談だって、類にそんな度胸無いもんね?」


「マジで一言が多い奴だな……殴っていいか?」


「そしたら私の𝓓𝓪𝓻𝓴 𝓐𝓻𝓻𝓸𝔀が炸裂するよ!」


「発音ムカつくな」


『草』

『草』

『草』

『草』


「えへへー」


 俺の返答にレイはまた笑って、いなりさんの隣に座るのだった。それを見たいなりさんは、ちょっと気まずそうにして……。


「れ、レイちゃんも……? レイちゃんだってすっごく活躍したんだから、こんな所いないで、もっとみんなに称えてもらうべきですよ」


「えっ? もう沢山褒められたし……ってか、いなりん。もしかして私達が気を遣ってるからここに来たと思ってる?」


「えっ、そうじゃないんですか──」


 そこまで言った所で、レイは立ち上がって……。


「違うよ……全然違う! みんなから褒められるよりも、あそこでやってる意味わかんない漫才見るよりも……私はただ、いなりんと過ごしたいだけだよ!」


『草』

『ロビン達流れ弾食らってて草』

『「意味わかんない漫才」』

『それはそう』

『冷静に考えて即興で漫才が出来る訳ないだろ!』


 そしてそのまま……レイはいなりさんに一歩近づいて。


「……寂しかった!! すぐに助けに行けなくてごめんね、いなりん……!!」


 そう言って、彼女を抱きしめた。そんなレイに感化されたのか……いなりさんもレイを抱きしめ返して。涙声で心情を吐露するのだった。


「いっ……いなりも寂しかったです……!!! ずっと囚われて、孤独で、このままレイちゃん達に会えずに、ゲームが終わるんじゃないかって思って……とっても怖かったですぅっ……!!」


『;;』

『なかないで』

『まぁ、あの仕様は鬼畜だとは思うわ』

『ルイが失敗してたらと思うとゾッとするな……』

『流石に製品版では修正されるでしょ』

『そういやこれベータ版だった』


 ……で、更にいなりさんに感化されたレイも気持ちが高ぶってしまい……遂には二人して、泣き出してしまうのであった。


「びえーーーん!!」「うえーーーん!!」


「……何だこの状況」


『草』

『草』

『感動の再会やぞ!!』

『いいシーンだからどっか行っててルイ』

『早くお前も泣くんだよ』


 ──


 ……そして二人が落ち着いた所で、俺らはまた座ってお喋りをしていた。途中、レイはこんなことを俺に尋ねてきて。


「そういえば類、ドロップアイテムって何だったの?」


「ああ……バタバタし過ぎて確認してなかった」


 魔王を倒してドロップアイテムは拾ったはずだが……あの後は爆破やらなんやらがあって、確認する時間が無かったのだ。俺はアイテム欄を開きながら呟く……。


「……ってかさ。ドロップアイテムのこと、誰にも聞かれてないし。これ……俺貰っちゃっても良いのかな?」


「良いんじゃない? 多分みんな忘れてるだろうし」


「ルイさんが撃破してたの見てましたし、貰う価値ありますよ!」


『貰っちゃえ!』

『まぁルイが貰っても誰も文句は言わないだろ』

『そもそもみんなを助けに行っただけだしなー』

『ドロップアイテムはオマケみたいなもんよ』

『早く見せてー!』


 そしてアイテム欄からそれっぽい物を見つけ出した俺は、それを選択して……手の平に召喚してみた。


「これは……『神秘の指輪』か。装備すると経験値、攻撃力、防御、魔力増加……って、確かに強いけど。今更装備してもって感じだな?」


『まぁな』

『ラスボスも倒しちゃったし』

『せっかくだし装備しよう!』

『いや、ここはレイちゃんにプレゼントしよう』

『いいねそれ!!!』

『一応魔法使いだし……面白いことになりそうだしw』


 ここでチラッとコメントを見て、良い案があったのでそれを採用することにした。


「確かに……これはレイが持ってた方が良いかもな。これやるよ」


 言いながら俺はそのシルバーの指輪を、レイの指にはめて装備させた。そしたらレイといなりさんは無言で、バッと俺の顔を見てきて……。


「……!!」「……!!!」


『あ』

『あ』

『あっ』

『うおおおおおおおおおお!!!!!』

『やりやがった!!!』

『流石ルイ! おれたちに出来ないことを平然とやってのけるッ!』

『女性陣の反応は流石だなwww』

『でもルイ君は鈍感系主人公だから……』


「……ん、どうした?」


 その固まった状態のレイを疑問に思った俺はそう言う……そしたらレイは噛み噛みでお礼を言って。


「あっ、う、うん! ありがと! もっ、貰っとくね!」


「良いよ全然。それ使ってバンバン魔法使ってくれ」


「う、うん……!」


「よ……良かったね、レイちゃん! い、いなりはちょっとお手洗いに行ってきますね!」


「はいよー」


 そしていなりさんは離席中を示すアイコンを表示させて、一旦俺らは二人きりになるのだった……レイは薬指に装備した指輪を見ながら、小さく呟いて。


「…………ね、類。あの時は助けてくれてありがとね」


「良いって。あそこで置いてったら、きっと後悔すると思ったし」


 魔王城が崩壊している時、レイを置いていくなんて選択肢は俺の中に無かった。多分どれだけ反発されても、噛みつかれても俺は連れ出していたと思う。だって、幾らゲームとは言えレイを……彩花を見捨てるなんて真似は、絶対に出来なかったんだ。


 続けてレイは語って。


「……あの時、置いていけって言ったけど。ホントはとっても怖くて。一緒に逃げたいって思ってた。でも動けないし、絶対に迷惑も掛かると思ったから言えなくて……でも。類は全く悩む素振りも見せずに、おんぶしようとして。最終的には私を抱きかかえて、飛んでくれて」


 そしてレイは優しく笑ってみせて。


「ふふっ……ちょっと頼りなくて、ボロボロだったけど。でも、あの時の類は本当に王子様みたいに見えたんだよ?」


「王子様……?」


 王子様って……そういやキノコ狩りしてた時に、レイがそんなこと言ってた気がする。あの時って確か、好みのタイプを話してたんだっけ……?


『あ』

『うおおおおおおおおおお!!!!??』

『伏線回収!?』

『ラブコメの波動を感じる』

『これもう告白だろ』

『いつになくルイレイがガチなんですけど……!?』

『やっぱり公式カップリングじゃないか(歓喜)』

『俺らは祝福するぞ!!!』


 更にレイは続けて……。


「…………ね、類。私に指輪付けた意味って……何かあったりするの?」


「えっ?」


 意味? 意味って……?


『ガッツリきたあああああ!!!!』

『男が女に指輪を渡す意味を考えろ』

『指輪をプレゼントする意味 検索🔍』

『約束、契約、永遠、などがヒットしました』

『ずっと一緒にいようってことだろ?』

『今更だけど神秘の指輪、めちゃくちゃ婚約指輪っぽくて草』


 そんなコメント見た俺は…………スーっと血の気が引いてきて。


「…………あっ、あーあー!!!! そういうことか!! いや、そんな深い意味無いから!! なんとなく渡しただけだから、みんな怒らないで!!! 燃やさないで!!!!」


「……だ、だよねー!? 類がそんなこと考える訳ないもんねー!?」


『草』

『草』

『草』

『草』

『マジで無意識だったのか……』

『めちゃくちゃ焦ってて草』

『今更ルイレイがガチだったとて、怒るやつなんかいないよ』

『なんなら早くくっつけ』

『まだくっついてなかったのか?』

『お互いが好き同士なのバレバレなんだよなぁ……w』

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