第118話 全員で生きて帰るんだよ!!!

『草』

『良い叫びだ』

『城が崩壊するのはお約束だもんなw』

『帰るまでがラスボスやぞ』

『ここまでやんのか運営はwww』

『さぁ脱出パートだ!』


 そして俺が叫んだ所で更に大きな爆発音が鳴り、徐々に建物は傾き始めた……いや、やべぇってこれ!! 魔王を討伐したとは言え、こんな所でダウンしたら大変なことになる……流石にドロップアイテムを失うのは勘弁だ……!


「だっ……脱出しましょう! 僕ができるだけドラゴンを召喚します! 背中に乗って逃げてください!」


 それでいち早くこの状況を理解した安藤先生は、ロケランで開いた壁の付近に巨大なドラゴンを召喚していった。そして開放されたカレンさんやもちは、慌てながらもそのドラゴンに飛び乗り、なんとか脱出していった。


「我もパラシュートを用意している! 受け取った者は素早く脱出してくれ!」


 ロビンも避難誘導を始め、開放された攻略組にパラシュートを渡して、脱出を促していた。そんな中……いなりさんは俺に近づいて来て。


「ルイさん!! ご無事ですか!?」


「ああ、俺は大丈夫だけど……いなりさん、羽はある?」


「なっ、無いです! ダウンした時に持ってかれました!」


「じゃあロビンからパラシュートを貰って逃げてくれ!」


「えっ、でも……!」


 いなりさんは何か言いたそうにしていたが……この場に留まる方が危険だと判断した俺は、彼女の背中を押してロビンの元へと向かわせた。


「早く!」


「はっ、はい!」


『俺に構わず先に行け!!』

『フラグかな?』

『本当はドロップアイテム持ってるルイが、真っ先に脱出するべきなんだけどにゃ』

『そんなこと考えてる暇なんて無いだろ!』

『ルイはお人好しだから、みんなを見捨てて逃げるなんてことしないよ』

『でも今にも崩れそうでヒヤヒヤするなぁ……』


 そして下の階から、足止めしてくれていた後衛の三人も最上階に上がってきて……リリィは慌てふためきながら俺に尋ねてくる。


「るっ、ルイ!! どうなってんだこれ!!??」


「ボス倒したら爆発した!!」


「そっか!!」


『草』

『草』

『草』

『この同期組よ……w』

『理解早くて草』

『何だかんだ通じ合ってる二人』


 それを聞いた七海さんは、茶色のほうきを取り出して……。


「じゃあ逃げろってことだねー。リリ、後ろ乗っていいよ」


「ええっ!? それ飛べるのか!?」


「うん。でもたまに落ちるから気を付けてね?」


『草』

『空飛ぶほうききたああああああ!!!』

『そんなアイテムあったのか……』

『魔女っぽい七海には似合ってる』

『羽より魔法使いっぽいアイテムで草』


 そう言って七海さんはほうきに跨る……その後ろにリリィは飛び乗ると、ほうきはふわりと浮くのだった。


「あははっ! スゴイぞこれっ! この飛んだ状態で、弾き語りしたらとっても気持ちいいだろうなぁ……!」


「ん、行くよー」


「……わっ、んぎゃあわぁぁぁあああーーっ!!!」


 そして七海さんはほうきを急発進させ、落っこちそうなリリィを乗せたまま、この場から離脱するのだった。


『草』

『草』

『なんでこんな時でも面白いんだよwww』

『身体すげぇ曲がってて草』

『どこまでも芸人だなぁ……』


 そして残された来夢さんは、追いかけるように穴の方へと歩き……。


「じゃあウチも行くよ」


「えっ?」


 そのままジャンプして、大空へと飛び出した。


「ちょ、ちょっと!? 来夢さん!?」


 慌てて姿を目で追うと……彼女は風を感じるように手を大の字に広げて……途中でパラセールを開き、悠々と大空を飛んでいくのだった。


「……どこの英傑だよアンタは」


『草』

『草』

『かっこいい』

『英傑ライム』

『トレイラームービーで見たってこのシーン!!』

『これは狙っただろww』


 ……それで囚われていた人達の避難も終わったらしく、もうこの場には前衛の四人しか残っていなかった。


「……よし、これで全員出れたみたいだな。我は離脱するぞ!」


「僕も行きます。ルイ君達も急いで逃げてくださいね?」


 そう言ってロビンはグライダー、安藤先生はドラゴンの背に乗って、この場から離脱するのだった。そしてここに残されたのは俺とレイだけ……もうこの場に残る意味も無い。俺は彼女に呼びかけた。


「レイ、俺らも羽で逃げるぞ!」


「…………」


「レイ?」


 だけどレイは何も言わず、しゃがみ込んだままだった。そういやずっと喋ってなかったけどコイツ……何かあったのか? 


「どうしたんだ? 早く逃げるぞ!」


 するとレイは諦めたように、笑いながら……。


「あはは、えっとね……さっきので負傷しちゃって、足が動かないんだよね。回復してるけど間に合いそうにないし、羽も使えなくなってるみたい」


『えええええええ!!!?』

『ウソだろ……?』

『レイちゃん負傷してたのか……!!』

『おいおいどうすんだよ!!』

『やべぇ崩れてる!!』


 さっきのって……魔王に斬り飛ばされた時のだよな……? ……ってか瓦礫もどんどん崩れてきてるし、もうこの場所は時間の問題だろう。だから……俺は。


「私は脱出するの無理だからさ! 類だけでも……」


「……」


 俺はその場で屈んだ。そしてレイに背を向けたまま口を開いて……。


「……乗れ」


「えっ?」


「良いから、俺の背中に乗れ!! 一緒に飛んで逃げるぞ!!!」


『きたああああああああああああ!!!!』

『うおおおおおおおおおおおおお!!!』

『それでこそお前だよ、ルイ』

『見捨てる訳ねぇよなぁ!』

『カッコいい……!』

『これは俺でも惚れる』

『やべぇ何か泣きそうだわ』


「えっ、でも……!」


「時間がねぇんだよ! お前が乗ってくれないなら……」


 それならと俺はレイのお腹部分を抱きかかえるようにして持ち、そのまま全速力で走り出して……。


「わっ、わぁあぁぁあああーーっ!!!」


「行くぞっ!!」


 翼を広げて大空へと飛び立った──その瞬間、後ろでは魔王城が爆発し、ガラガラと城が崩壊する音が聞こえてきた。


『アクション映画みたいで草』

『カッコ良すぎる』

『俺は今伝説を見ている』

『うおおおおおおおおおお!!!!!!』

『でもおっせえwwww』

『沈んでない?』

『れ、レイは重い女だから……』


 …………だが、羽は二人分の重量に耐えきれなかったのか、普段飛んでいるスピードは全く出ず……むしろ高度はどんどん下がっていた。そのことは、流石にレイも気付いていたみたいで……。


「ね、ねぇ! 徐々に落下してるよ! 私のことは落としていいから、類だけでも逃げてって!」


「馬鹿言うな……!! 全員で生きて帰るんだよ!!!!」


「…………類……!」


『トゥンク……』

『落ちたな(確信)』

『恋に?』

『いや、物理的に』

『両方でしょ』

『なんなら物理的に落ちてる方が深刻だぞ』

『このまま緩やかに落ちれば生きて帰れるはず……』


 それでもなんとか俺はレイを抱えたまま、飛び続けていると……突然、羽の動きが悪くなって。そのまま羽は羽ばたきを止め……俺らは宙に浮くことすら、ままならなくなって……。


「…………あ。燃料切れた」


「えっ」


『あ』

『あ』

『え』

『あっ』

『ウソだろ』

『やばい!!!!』

『まぁ良いヤツだったよ……』

『GG』


「うわぁぁぁぁあああああっ!!!!!」

「きゃぁぁぁああああああっ!!!!!」


 そのまま俺らは叫びながら、地上へと落下するのだった………………。


「…………!!?」


 ……だけど数秒経っても俺はダウンすることなく……一気に視界は、水色の世界へと変わっていった。これは……水? 水中にいるのか?


 慌てて俺は上昇して、水面から顔を出す。見ると後ろには完全に崩壊した魔王城の姿があった。じゃあここは…………魔王城を取り囲んでいた、毒沼? でもめちゃくちゃ透き通ってるほど綺麗になってるし……。


「…………ぶはあっ!」


 そしてこのタイミングで、レイも水中から上がってきた。そのまま俺を見付けたレイは……とてもテンションを上げて。


「……あははっ! ねぇねぇ、類! 毒沼じゃなくて、綺麗な湖になってるよ!」


「あ、ああ……魔王が討伐されて浄化されたのか……? でもそれよりもなんで、俺ら生きているんだ……?」


「きっと水の上に落ちたからだよ!」


「……!」


 ……実際はそんな上手いこといかないだろうけど……この世界はゲームだ。だから水に落ちたことで、落下ダメージが無効化されたってことだろう…………つまり。俺達は無傷で逃げ切れたってことだ。 


「そっか……助かったんだ! 勝ったんだ、俺ら!!」


「うん! 私達の完全勝利だよ!!」


『うおおおおおおおおおおおお!!!!』

『全員脱出成功だぁーー!!!』

『完璧だ!!!』

『最高や!! 最強や!!』

『よくやったよお前ら』

『俺は感動しているぞ!!』


「……あははっ!」


「んふふっ! やったね、類!」


「……ああ!」


 そして俺らは水面で…………ハグをした。後から思い返した時に、絶対に恥ずかしくなることは分かっていたけど……それでもこの興奮を、喜びを、眼の前のコイツと分かち合わずにはいられなかったんだ。


『良い』

『凄く……良いな』

『上手く言葉に出来ねぇよ』

『エモい!!!! てぇてぇ!!!』

『エッッッッモ』

『友人や恋人を超える瞬間を俺は見た』

『やっぱりこの二人が最強なんですわ!!!』

『俺、画面の前で拍手してるよ』

『映画一本見終わった気分だ』

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