第114話 いなり奪還編
そして俺はそれを見届けた所で配信を終え、ログアウトをした。きっと明日にはいなりさんから、魔王城を攻略したと言う報告が聞けるだろう……そんなことを思いながら俺は眠りにつくのだった。
──
……で、次の日。バイトから帰ってきた俺は、早速クラスト・オンラインを起動して、配信を開始させた。ログインするなり、いつものようにレイからチャットが…………あれ? チャットが……。
「……チャットが来てないぞ?」
『こんルイ』
『こんルイ』
『こん』
『やっとルイ来た』
『大変なことになってんぞ』
『そりゃ来ないだろ……』
そしてコメントも流れてきたが……いつもよりやけにテンションが低い感じがしていた。そこそこ配信はやってきたつもりだが、こんな雰囲気なのは初めてだ。何かおかしい気がする……とりあえずレイと合流しよう。そう思い、足を踏み出した所で。
「……雨だ」
ポツポツと雨が降り始めた。このゲームに天候の要素とかあったのか……でも、このタイミングで降り出すなんて……。
「何か嫌な感じだな……」
妙な胸騒ぎを抱えたまま、俺はレイの家へと急ぐのだった。
──
「レイ、いるか?」
家に到着した俺は、そう言いながら扉を開く。そこには……椅子に座って天井を見上げてるレイがいた。だけど俺が入ってきたにも関わらず、彼女はびくとも動かなかった。なんだ……離席でもしてるのか……? ひとまず、俺は呼びかけてみることにした。
「おいレイ、どうした? いないのか?」
「……いるよ」
「……!」
返事は帰ってきたが……彼女の声には全く覇気が無かった。こんな元気無さそうな声……数年ぶりに聞いたよ。
「いや、どうしたんだよ。何があったんだ?」
「……」
ここでやっとレイは、俺の方を向いて……今にも泣き出しそうな声で。
「……いなりんが捕まえられちゃった」
「……は?」
『え?』
『捕まえられた?』
『どういうことだ?』
『まさか……』
いやいや、捕まえられたってどういうことだよ……?
「どういう意味だ?」
「だから……いなりんがダウンしちゃって、魔王城に囚われちゃったの」
「え、いや、ダウンしても普通に復活するんじゃ……?」
「魔王城じゃそうはならなかったみたい」
「えっ……?」
『つまりどういうことだってばよ?』
『魔王城内でダウンすると、魔王に捕まるってことだろ』
『え、じゃあ捕まったら永遠に出れないの?』
『それは分からん』
『でも出口は無さそうだしなぁ……』
『要するに昨日のメンバーは攻略失敗したってこと?』
『多分な』
『マジか、相当やばくね!?』
コメントも読んで、なんとなく理解してきた。普通のフィールドでダウンしたら、一定時間後に復活出来るけど……魔王城でダウンすると、そこからでしか復活出来なくなってるらしい。多分ダウンした後は、檻の中とかそういう場所がリスポーン地点になっているのだろう……だったら捕まえられたことに納得がいく。
それにこの様子だと、他のメンバーも戻ってきて無さそうだし。自力で魔王城から脱出するのも厳しいってことだろう……まさかこんな鬼畜な要素を隠してたとはな。
「つまり、昨日の攻略班は全滅したってことだな……連絡は取れるのか?」
「途中まで取れてたみたいだけど、今は誰とも繋がらないみたい」
「なるほどな……」
連絡も取れないと……だいぶこれ、配信者泣かせのイベントだな。……そしてレイは思い立ったように突然、その場から立ち上がって。
「……みんなリーダー格の人がいなくなって戸惑ってるみたい。だから……私が助けに行く」
「おい待てって。俺らはまだ魔王城の敵も構造も全く知らない。このまま助けに行ったって、ミイラ取りがミイラになるだけだ」
そう言うと、レイは俺を睨みつけるようにこっちを見て。
「でも……! いなりんをほっとけって言うの!?」
「そうは言ってねぇだろ。確実に戦力を集めて、作戦を考えて、力を付けて……明日には助けに行こう」
「明日……!?」
「準備には時間が掛かる。分かるだろ?」
「……」
『明日か……』
『今すぐ行くべきじゃないか?』
『いや、ルイは冷静だよ』
『今すぐ助けたいレイちゃんの気持ちも分かる』
『でもあの最強パーティを壊滅させた城なんだぞ?』
『まぁ厳しいんじゃないか……』
『ケンカハヤメテヨー!』
『いやここは言い合うべきだろ』
俺も納得するまで話し合うべきだと思う。もちろん、レイが簡単に折れてくれるとは思えないが……。
「でも……いなりんは絶対に寂しがってる! 一人で泣いてるかもしれないよ! そんなこと思ったら、明日なんて言える訳ない……!!」
「だからそれは違う……」
「違くないっ……! 類にとって、いなりんはその程度の────」
「────ッ、馬鹿!! 俺だって……俺だって、お前が思ってるのと同じくらい、いなりさんのこと大事に思ってんだよ!!」
咄嗟に俺は、レイの腕を掴んでいた。自分がこんな行動を取ったのと同時に……ここまで熱くなっている自分に驚いてしまった。でも俺より驚いてるのは……。
「……!!」
きっとレイだろう。ここまで言い返されるとは思わなかったのか……彼女は固まったまま、目を見開いていた。俺は一旦手を離し……一呼吸置いて、また口を開いた。
「助けたい気持ちは同じだ。だからレベルも上げなきゃいけないし、作戦だって練らなきゃいけない。絶対に失敗する訳にはいかないから……」
「……」
レイは何も言わなかった。俺の考えに納得してくれたのかは分からないが……いなりさんを救出するには、どう考えてもレイの力が必要だ。だから気まずいのは承知で、俺はこんなお願いをレイにして……。
「お前に頼みたいことがある」
「……なに?」
「できるだけ戦えるプレイヤーを集めて欲しい。今はもうチームとか言ってる場合じゃない。一丸となって魔王城に乗り込まなきゃ、きっと助けられないだろうから」
「…………分かった」
そう言ってレイは外に出ていった。その後ろ姿を見送った俺は、レイといなりさんが写った写真を取り出して。見ながらこう呟くのだった……。
「……絶対に助けるから待っててな。いなりさん」
『かっこいい』
『急に主人公みたいになったな』
『映画のワンシーンか?』
『いなり奪還編来たな』
『これが売りさばく為に撮った写真じゃなかったら、もっと感動できたんだけどなぁ……』
『草』
『草』
『草』
『シリアスぶち壊しで草』
『余計なこと思い出せんなwwww』
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