第113話 いなり、覚醒?
──
それから俺らはチャットや掲示板を使用して、魔王城が出現したことをプレイヤーのみんなに報告した。そして『いつ、誰が魔王城を攻略するのか』を話し合うため、広場で会議が行われることになったんだ。
会議の人数が多くなると、会話がごちゃごちゃするのが予想されたため、チームの代表者一人が集まることになった。それで俺らのチームからは、リーダーのいなりさんが行くことになったんだけど……。
「いなりん大丈夫かな。ちゃんと喋れてるかな……?」
「ちょっと心配だよな……」
家でお留守番していた俺とレイは、少しだけ心配していた。いなりさんと何日か過ごして、彼女の性格もなんとなく理解してきたから……こういった大人数での話し合いは、あまり得意じゃないってことは分かっていたのだ。
『二人とも心配してるね』
『本当に子供を思う親みたいだなw』
『めちゃくちゃいい親じゃないか』
『夫婦になったらマジでこんな感じなんやろうなぁ……』
「でも……いなりんもリーダーらしいことやりたいって言ってたし。私達を気を遣わせないように、率先して行ってくれたんじゃないかな?」
「そっか。本当に優しい子だな、あの子は」
『泣けるぜ……』
『緊張してるのは丸分かりだったよ』
『いなリスだけど、二人に出会ってからいなりんはめちゃくちゃ成長してるよ!』
『お前らだから頑張ったんだろ?』
『会議に行っただけなんだけどねw』
『いなりんが大人数の場に自ら行くってのがすげぇんだよ』
そうそう。自分にとってはなんてこと無いことでも、人によっては難しいって感じることもあるんだ。その逆もまた然りで……だから何でも自分の価値観だけで判断するのは良くないんだよ。
……で、レイは眠そうに伸びをしながら。
「んんー……それで、いなりんが帰って来るまで何しよっか?」
「まぁ、数分か数十分で帰って来るだろうから、テキトーにのんびりしておこうぜ」
「分かったー……ってあれ? なんかノックの音聞こえない?」
「えっ?」
……と、ここで俺にも『コンコン』と扉を叩く音が聞こえてきた。いなりさんが帰ってきたのかと一瞬思ったが、それだとノックする意味が分からなかった。じゃあ誰が来たんだ……と考えてる内に、レイはその扉を開けて。
「出てみるね! ……はーい!」
「どうも」
そこに現れたのは……ロケットランチャー背中に装備した、制服姿のいぶっきーだった。そして何故か頭には、黒色のバンダナが巻かれていた。
『あ』
『あっ』
『草』
『草』
『草』
『格好が面白すぎる』
『マジでロケラン持ってたのか……』
『怖すぎるwwww』
『これが女子高生ってマジ?』
そんな伝説の傭兵みたいな格好が見えていないのか、気にしていないのか知らないが……レイは全く見た目に触れることなく、嬉しそうに彼女に話しかけて。
「わっ、いぶっきーじゃん! 遊びに来てくれたの?」
「いえ、ちょっとルイさんに用事があってですね」
「え、類に?」
そして彼女はスッと家の中に入ってきて……俺の目の前に立った後、小声で。
「お金、持ってきました。例の物と交換してください」
「ああ、はいはい……例の物ね……」
『草』
『マジで買いにきたああああああ!!!』
『レイの物?』
『レイの物で草』
『確かにレイの物ではある』
『誰がうまいこと言えと』
レイに気付かれないよう俺は持ち物を開き、量産したレイといなりさんの写真を選択しながら、軽い雑談をする……。
「というか……よく俺らの場所分かりましたね?」
「ああ私、近くにプレイヤーがいたら反応するスキルを取得したんですよ。いわゆる祠センサーみたいな物です」
「うーん、なんとも絶妙な例え」
『草』
『草』
『草』
そして彼女の頭に視線を向けながら、俺は口を開いて。
「……あと触れて良いのか分かんないんですけど、そのバンダナは?」
「オシャレです」
「…………ホントに?」
「冗談です。これ装備するとロケランの威力が上がるんですよ」
「いや、どういう仕組みなんだ……」
ツッコミながらも俺は彼女に写真を手渡す。受け取ったいぶっきーは、即座にそれを確認した後……3万ゴールドを俺に握らせて。
「……はい」
「ヘヘッ……お買い上げありがとうごぜぇやす」
『きたああああああああ』
『うおおおおおおおおおおおお』
『一気に三万プラスやあああああああ』
『完全に闇取引』
『だから笑い方よ』
『お金見ると口調変わるのやめろwww』
で、そのやり取りの一部始終を見られていたのか……レイは驚いたような声を上げて。
「ええっ! 何してるのいぶっきー?」
「ルイさんがレアなアイテムを売ってくれるって言ってたので、それを買ったんですよ。私にはギャンブルで稼いだお金があるので、このくらいの出費は痛くないんです」
「あー、そうだったんだ! そんなアイテムを集めてたなんて、やるねー類!」
「あっ、ああ……だろ?」
お前がいれば無限に量産出来るんだよなぁ……とは口が裂けても言えなかったけど。そして事が済んだいぶっきーは、扉の方に向かってって。
「それでは失礼しますね」
「うん! また遊びに来てね!」
「……はい。もちろんです」
「じゃあねー!」
ここから去っていったのだった……とりあえず売った物がバレなくて安堵した俺は、こう呟いていて。
「……お前は気づいてないかもしれないけど、レイと話す時が一番感情出るんだよなあの人」
「えっ、ホントに?」
「ホントホント……」
……と、このタイミングでまた扉が開かれて。次に現れたのは、我らのリーダー、いなりさんであった。
「あ、いなりんおかえり!」
「あっ、ただいまです。あの、丁度ここから伊吹さん出てきたの見えたんですけど……」
「ああ、彼女はちょっと取引をしに来てて……それでどうだった?」
俺が会議の内容を尋ねると、いなりさんは分かりやすく説明をしてくれて。
「あ、はい。会議の結果、ひとつのチームでの攻略は厳しそうだし、かといって全員で行ってもグチャグチャになるだろうから……ってことで、チームの代表者が一人ずつ集まって、その集まった精鋭グループで攻略していこうってことになりました」
『なるほど』
『それだったら全チーム見せ場が作れるね!』
『ガチパ集めるってことか!』
『共闘ってことだな』
『この三人で行ってほしかったけどな~』
「なるほど……その代表者は誰でも良いの?」
「はい。でもなるべく強い人を選んで欲しいらしいです」
「それはそうか」
確かに各チームから代表者が集まるのは、オールスターみたいでかなり熱い展開にはなるだろう……まぁ即席のチームだから、連携が取れるのかとか心配な点はあるけれど。強いやつが集まれば、多分問題はないだろうな。
「それで……どちらが行かれますか?」
「えっ? どちらって言われても……」
「いや、それは私達じゃなくて……」
同時に俺とレイの視線は、いなりさんの方へと向けられる……それに気づいたいなりさんは、自分を指しながら大きく驚いたように。
「……えっ、ええっ!? いなりですか!? いなりが行くんですか!?」
「だってこの中では、断トツで一番強いし……」
「それに私達のリーダーだもんね!」
『確かに』
『それはそう』
『めちゃくちゃ強いの知ってるもん』
『いなりんが行かなかったら誰が行くんだよ?』
『ルイレイが行くくらいならいなりんだよな』
『多分世界最強のアーチャーやぞ』
コメントも当然いなりさんだろうという流れになっていて……唯一それを否定しているのが、いなりさん自身という不思議な状態になっていた。そして彼女は不安そうな声を上げて……。
「ほ、ホントにいなりで良いんですか? 役に立たないかもしれません……それどころか、他の方の足を引っ張っちゃうかもしれませんよ……?」
「……」
……ここで「だったらやめておこうか」と言うのも、ひとつの優しさかもしれないが……それでも俺はこう言って。
「それでも俺はいなりさんに行って欲しいかな。背負わせることになっちゃうかもだけど……俺より強いのは間違いないし。もう少しだけ自信付けられたら、きっと大きく成長出来ると思うからさ!」
「うん! いなりんならきっと大丈夫だよ!」
そう言って、レイはいなりさんの手を掴んだ。ゲームだから実際の体温なんかは感じなかっただろうけど……それでも、レイの熱い想いは感じ取ってくれたと思う。
「…………」
そして自分の中で大きな決断をしたのか、うんと大きく頷いた後に正面を向いて。
「わっ……分かりました……! いなり、お二人の言葉を信じてみます!」
そう言ってくれたんだ。
『うおおおおおおおお!!!!』
『よう言うた!!』
『いなり覚醒イベントきたあああああああ』
『覚醒いなり🤘🦊』
『本当に強い子だよ、いなりんは』
『頑張って!!』
『もう俺完全にいなりんのファンだよ』
「ありがとう。俺らの分まで頼んだよ、リーダー」
「頑張ってね、いなリーダー!」
「はっ、はいっ! がっ、がんばりましゅっ……!!」
『かわいい』
『かわいい』
『かわいい』
『かわいい』
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