第111話 空を飛ぶってロマンじゃないですか
そして俺らは店の外に出て、羽を使ってみることにした。メニューを開き、いつの間にか増えていた『飛行モード』というものを選択してみると、背中の羽は徐々に羽ばたきを見せて……。
「おっ……おおっ……!」
『飛べるのか?』
『無理だろ』
『人が飛ぶわけ無いだろ?』
『まさかwww飛ぶわけwwww』
『飛ばないのがオチだよ』
俺の身体は上空へと浮かぶのだった。
「わっ、おわあーーっ!」
『飛んだああああああああああああああ』
『飛んだああああああああああ!!!!』
『とんだああああああああ!!!!』
『うおおおおおおおおおおおおお!!!』
『草』
『これがやりたかっただけだろ』
『また変なテンプレ出来てて草』
どっかで見たことのある流れは置いといて……なんとか俺はバランスを取り、両手を広げて飛行の体勢を取ることに成功した。そして同じようにレイといなりさんも飛行モードに入って、俺の所まで飛んで来たのだった。
「わぁーっ……空を飛べるなんて凄いです!」
「あははっ! 楽しいねー! 鳥になったみたい!」
少し落ち着いた所で下を見ると、歩いているNPCも服屋も武器屋もミニチュアみたいに見えてきて……俺らはこの世界で、一番の自由を手にしたように思えたんだ。
「おお……凄い眺めだな!」
「ホントだー! とっても綺麗だね!」
『良い景色だ』
『きれー!!!』
『これが普段鳥が見てる景色か』
『すごいもの見れたな』
『これは買って良かったな!』
「じゃあ、このまま広場に向かおうか」
「うんっ! せっかくなら競争でもしようよ!」
「あっ、それ良いですね……」
いなりさんが言い切る前に、レイは滑空をして。
「それじゃあ、お先ー!」
「あっ、おい待て! ズルいぞ!」
「わっ、置いてかないでください……!」
そのまま俺らはレイを追うようにして、広場の方へと飛ぶのだった────
──
……5分後。俺らはシナシナになった羽で、広場の地面に転がっていた。
「思ったよりもスピード出ないねこれ……」
「高度にも限界があるしな……」
「飛べる時間にも制限がありますし……ちょっと不便ですね……」
『草』
『草』
『そんな万能アイテムじゃなかったかw』
『そりゃずっと飛べたらチートだよ』
『知ってた』
『まっすぐ飛ぶのすら難しそうだった』
……そう。俺らは羽を使って競争をしてたのだが……風に煽られて思わぬ方向へ飛んでいったり、飛べる距離に限界があって途中で着地したり、高さやスピードを思ったように調節出来なかったりで……後半はもう勝負どころじゃ無かったのだ。
そして俺は横になったまま、力無く呟く……。
「……ってかさ、飛んでる時に見たけどヘリみたいなのに乗ってる人いなかった? あっちの方が絶対に早いって」
「……ヘリ買うなら、もっとお金必要だよ、類」
「ああ……そっか。そうだよな……」
『草』
『草』
『草』
『悲しいなぁ……』
『ひょっとして羽買ったのミスだったのでは……?』
羽買ったのはミスじゃないかって……思いたくないけど、薄々みんなそう思っている感じはしていた。でもそれを口にしてしまったら、あの虚無のキノコ狩りの時間が無駄だったことになるから……どうにか正当化しようとしてる訳で。
「い、いや、空を飛ぶってロマンじゃないですか……!」
「そ、そうだよ! 人類の夢じゃん! それを味わえただけでも、買った価値はあったんだよ!」
「……そっか。そうだよな……?」
『正当化ってこうされるんすね……』
『認知的不協和ってやつ?』
『心理学も学べる配信です』
『勉強になります』
『ためになるなぁ』
そしていなりさんは続けて。
「それに……どうしてもヘリが欲しかったら、またキノコ採集をやれば良いんですよ?」
その言葉に、俺とレイは無言で目を合わせる……。
「……」「……」
『あっ』
『もうあれ見たくないよおおおおお!!!』
『悪魔の二時間』
『レイちゃんが本当に壊れてしまう』
『キノコ採集……うっ、頭が……』
『キ、ノコ』
流石にもう一度キノコを取るのは勘弁だ……多分レイも同じ気持ちだろう。でもキノコ採集よりも楽かつ安全に素早く稼ぐ方法は、もうこれぐらいしか残って無くて……。
「……最悪、誰かに売ればお金は戻ってくるから。最近入ってきたプレイヤーに高値で売りつけよう」
「ルイさんが闇落ちしてます……」
『草』
『草』
『クズ』
『カス』
『クズルイ出たな』
そしてレイは呆れたように。
「類……本気なの?」
「いやまぁ、流石に冗談だけどさ…………あ」
……ここでとある『金策』を思い付いた俺は、レイに尋ねていて。
「……そういや、さっきの写真を貼るために、この広場まで来たんだよな?」
「うん、そうだよ?」
「なら……せっかくだしもう何枚か撮ろうぜ? 俺が撮るから二人とも並んでくれよ」
そしたらレイは意外そうに頷いて。
「うん、良いよー? でも珍しいね? 類からそんなこと言ってくれるなんて」
「まぁ、なんとなくな。いなりさんも良いかな?」
「あっ、はい! いなりも大丈夫ですよ!」
そして納得してくれたレイといなりさんは、広場の噴水を背景に並んでポーズを取ってくれた。手持ちカメラモードを起動させた俺は、カメラを片手に指示を出していって……。
「……おお、良い感じ! ……はい、いなりさんも笑って笑って!」
『草』
『草』
『テンション上がってて草』
『どうした急に』
『カメラマンに転職したの?』
『お前ラーメン屋はどうした……?』
『これが最強魔道士と呼ばれた男の姿です』
見えるコメントはガン無視して、プライドを捨て……ただ二人の機嫌を取るだけの機械へと、俺は成り下がった。続けて俺は指示を出していく。
「もっと寄って……はいレイ、抱きついて!」
「うん! ぎゅーっ!」
「ひゃっ……!? あっ、あわわっ……!?」
レイがいなりさんに抱きついた瞬間も逃さず、シャッターを切る。撮った写真を見ると……そこには無邪気に抱きついてるレイと、恥ずかしそうに耳と尻尾を尖らせてるいなりさんの姿があったんだ……よし、完璧だ。
『あら^~』
『キマシ』
『てぇてぇなぁ!!!!』
『かわいい!!!!』
『天使じゃん!!!』
『うおおおおおおおおおおおおおおお』
「うん、良い写真だ」
「ねぇ、見せて見せて!」
そしてレイはこっちに寄って来る。このカメラは即座に、かつ何枚でも現像出来るという特徴があるから……こんな商売も出来る訳で。
「はい、これがさっき撮った写真な。いなりさんと見てて良いぞ。俺は掲示板にも貼ってくるから」
「うん! ありがと!」
俺は現像された写真をレイに手渡す。そして掲示板の前まで来た俺は、こう書き込むのだった……。
「『レイといなりさんのイチャイチャ写真売ります。値段は要相談、ご連絡はルイまで』……っと。よし、これで俺も大金持ちだな!」
『おい』
『草』
『よしじゃない』
『売るのか……』
『これが狙いだったのかwww』
『天才か?』
『まぁぶっちゃけ欲しい』
『これは売れる』
『需要を理解してるルイ』
『こいつ、新たなビジネスを作り出しやがった……!?』
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