第109話 翼の生えた魔法使い

 そんなこんなで、キノコ採集すること二時間弱……荷物がいっぱいになった俺らは、換金場所のクエストカウンターまで移動していた。


「ああ……マジで長かった……」


「ううっ……もうキノコなんか見たくないよ……」


「一体どれくらいの値段になるんでしょう?」


『完全に疲れ切ってて草』

『後半の方は完全に言い合いしてただけだからなw』

『元気なのいなりんだけだよ』

『これで金額低かったら発狂しそう』

『それはそれで見てみたい』


「よし……あのNPCに話しかければ売れるらしい。じゃあ俺から行ってくるぞ」


 言って俺は、受付の所に立っている女性NPCに話しかける。クエストを達成したことを伝えて手持ちのキノコを全部渡すと……俺の所持金は一気にプラスされて。


「なっ……!? 9500ゴールドも貰えたぞ!?」


『え!?』

『うおおおおおおおおおお!!!!!』

『きたあああああああああ』

『キノコ取りまくった甲斐があったな!!』

『これで金持ちじゃー!!』

『キノコOPだろこれ』


「ええっ!? つ、次は私行くね!」


 俺の発言を聞いたレイは、急いでNPCの元へと駆けて行って……驚いたように。


「ホントだ……すごい増えた!!」


「それじゃあいなりも……」


 同じようにいなりさんも交換して。


「わぁっ、一気に増えました……!」


「よ、よし! 一旦、作戦会議だ!」


 そして俺らは端っこに集まり、円陣になって話をする……。


「みんな荷物満タンになるまで取ったから、貰えた金額は同じくらいだよな……?」


「うん」「はい」


「じゃあ約3万ゴールドは稼げた訳だ……これで羽だけじゃなくて、服も追加のアイテムを買う余裕も出るな!」


 聞いたレイは両手を上げて喜んで。


「やったー! 類と言い合いしたあの時間は、無駄じゃなかったんだね……!」


「いや、お前から吹っ掛けてきたんだけどな……?」


「えっ?」


『あっ』

『まずい』

『この流れは始まってしまう』

『まーた夫婦喧嘩か?』

『乗るな、レイ! 立ち止まれ!』


 そこでまた言い合いが始まることを察したのか……いなりさんは俺達にこんな提案をしてくれて。


「せ、せっかくお金が貯まったことですし、今から服屋に行きませんか? 早く装備出来るなら、それに越したことはありませんから……」


「あー、良いね! 羽を手に入れたら、移動もきっと便利になるし!」


「ああ。じゃあこのまま向かおうか……なんか今日は歩いてばっかりだな?」


「それももうすぐでおさらばだよ! 数分後の私には翼が生えてるんだからね……!」


「そんな見た目まで変わるもんなのか……?」


『ウキウキレイちゃんかわいい』

『いなりんに助けられたなw』

『四日目にして目標達成か』

『羽の生えたいなりん見たいなぁ』

『属性がてんこ盛りになってしまう』


 そんな会話をしながら、俺らはいつもの並びで服屋に向かうのだった。


 ──


 服屋。以前に来た時と配置は変わっておらず、目星を付けていた魔法使いの服も、空飛ぶ羽もまだ店にはあった。まぁ多分、売り切れとかも無さそうだしな。


「よし。まずは服を買おうか……」


「うん! 魔法使いの服はローブだから、いなりんの服着たままでも着れるね!」


「あっ……別に魔法使いのコーデに合わせるなら、お洋服を変えても良いんだよ?」


 そんないなりさんの言葉にレイは首を横に振って。


「ううん、気に入ってるしこのまま着るよ! ……あっ、でも下はスカートにしたいかも! いなりん、一緒に選ぼうよ!」


「あっ、うん……!」


『良いなぁ……』

『レイいなてぇてぇ……』

『チームに女の子いてレイちゃん嬉しそう!』

『日常系アニメ見てる気分になるな』

『一方ルイ』


「まぁ俺は適当に全身黒コーデでいきますかね……」


 言いながら俺は黒のローブ、黒のとんがり帽子、黒のズボン、黒の靴を購入して装備した。これで再現度はかなり高くなっただろう……。


「……よし。こんなもんだな」


『黒過ぎる』

『中学生みたい』

『これでカッコいいのが腹立つな』

『あとは魔法が使えたら完璧なんだけどね』

『今持ってるスキルが覗きと盗聴なんだよなぁ……』

『最強魔道士さんの設定はとうの昔に消えたよ』


 なんか好き放題言われてる気がする……でもこの世界においては、俺よりも遥かにいなりさんの戦力が上なんだよなぁ……そんなことを思ってると、後ろからレイの声が聞こえてきて。


「あー! 類も着替えたんだね!」


 振り返るとそこには、紺色のローブを纏ったレイ、緑色のローブを纏ったいなりさんの姿があった。そして二人とも下は茶色のプリーツスカートに変わっていた。


『かわいい』

『かわいい!!』

『二人ともかわいい!!!!!』

『やっぱり似合ってるなぁ』

『センスがある』

『いなりん耳生えてるからエルフみたいになってるww』


「ああ。そっちも着替えたんだな」


「そうだよ! ……ね、類、どうかな?」


「どうって?」


「だーかーらー……似合ってるかってこと!」


「あーうん、似合ってる似合ってる」


『あ』

『おい』

『あのさぁ』

『はぁ~~……』

『ほんまコイツは……』

『テキトーに言うんじゃない』


 いやいや……ここでガチトーンで「可愛い」なんて言う方が気持ち悪いだろ? 空気が凍らない為に、あえて俺はこんな反応をしている訳で……でもまぁ当然のこと、レイはそんなこと気付く訳もなく、ちょっと機嫌を悪くして。


「もー……じゃあもういなりんだけで良いや。いなりん、写真取ろ!」


「あっ、うん!」


 そしてレイはカメラモードを起動して、写真を取ろうとする……そんな彼女らに向かって、俺は口を開いて。


「おいおい、あと一つ装備を忘れてないか?」


「あっ、それってもしかして……」


「空飛ぶ羽だよ。俺は先に買っておくぞ」


 言って俺はショーケースの方へと足を運ぶ……それで羽を忘れていることに気付いた二人は、俺の後を追ってくるのだった。


「何だ、写真は良いのか?」


「やっぱり羽を生やしてから撮りたいなって!」


「あ、そう……」


 そして俺らは、羽の入ったショーケースを囲むような陣形を取った。


「じゃあ買うよ……いなりん、準備は良い?」


「う、うんっ!」


「別に同時に買う必要も無いんだけどな……?」


『良いじゃん』

『これも思い出だよ』

『高い買い物は緊張するからな』

『早く買おう!』


 俺は目の前の羽を選択し、購入画面に進む。そして購入確定ボタンを押すと、俺の所持金が一気に減る代わりに『エンジェルウイング』と言う名のアイテムが、俺のバッグに入るのだった。


「よし、買ったぞ」


「かっ、買いました!」


「私も買ったよ! 早速装備してみるね!」


 ウキウキでレイは言う。流石に見た目までは変化ないだろ……とか思っていた瞬間。


「……なっ!?」「えっ……!?」


「わーっ! カッコいいー!」


 バサッと、レイの背中から1メートルは超える白い翼が現れたのだった。

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