第108話 どんな子が好きなの?

 そしてクエストを受注した俺らは、その採集クエストが行える森に訪れていた。聞くところによると、どうやら『クラストキノコ』という物を集めたら、お金に変えてくれるらしいが…………俺はキノコを拾いながら呟く。


「これ、退屈だな……」


 やってることは移動してキノコを拾って、また移動して……を繰り返すだけで。長い時間絵面も変わらず、単調な作業を続けているのはかなり苦であった。


『画面が全く変わんねぇ……』

『苦行か?』

『効率は良いんだろうけども……』

『口じゃなくて手を動かしなさい』

『眠くなってきたわ』


「まぁ見てる方も退屈だよなぁ……」


 そう言いながらレイの方を見ると、彼女は空を見上げていて……。


「……レイ?」


「頭がおかしくなりそう!!」


『草』

『草』

『魂の籠もった叫びだな』

『ストレス溜まってそう』


「いやいや……お前がやるって言ったんだろ?」


「そうだけど……ここまでつまらないクエストだとは思わなかったよ!」


「ハッキリ言うな」


『草』

『草』

『草』

『草』


 長時間やってるから、案件だということを忘れてそうだなコイツ……まぁこの採集クエストは、お世辞にも面白いとは言えないけどさ。それでレイはそのまま、キノコを収穫中のいなりさんに近づいてって。


「いなりんはどう? 辛くない?」


「あっ、いえ。いなりはこういった単純な作業は好きだから楽しいですよ?」


「えっ……すごっ……」


 レイは絶句していた。この作業を楽しんでいる人がいるなんてことを想像していなかったのだろう……まぁ俺も概ね同じ意見だけど。頑張ってる人のやる気を削ぐようなことは言わないようにした方が良いだろうな。


「まぁ、やると決めた以上、最後までやろうぜ。ほら、手動かせ」


「うん……じゃあお喋りしながらやろうよ! それだったら私、頑張れるかも!」


「ああ。確かに気休めにはなるかもな……」


 農作業してる人がよく歌うのは、気を紛らすためって聞いたことあるし……案外喋りながら作業することも、悪くないんじゃないかな……とか思っていた刹那。


「……ねっ、いなりんはどんな人が好き?」


 いきなりレイは、とんでもない質問をいなりさんにぶつけてきたのであった。


『草』

『出たな』

『やると思った』

『キノコ採集中に恋バナとは斬新な』


「えっ……ええっ!? いきなりですか!?」


 いなりさんは相当困惑してる様子で……そりゃ当然の反応だよな。呆れながらも俺はフォローしようと、会話に割り込んでいった。


「いきなり恋バナかよ……本当にお前それ好きだな?」


「良いでしょー。恋バナが一番盛り上がるって、相場は決まってるんだよ?」


「知らんわ……いなりさん、答えたくなかったらガン無視していいからね?」


「あっ、はい、ありがとうございます……」


 逃げ道は確保しつつも、いなりさんは手を止めて考える素振りを見せた。そして数十秒の沈黙の後……彼女は恥ずかしそうに小さな声で。


「え、えっと、考えたこと無かったですけど……強いて言うなら、優しくて穏やかな人ですかね……?」


 そう答えたんだ。それを聞いたコメントも……レイも盛り上がって。


『ほう』

『なるほど』

『良いことを聞いた』

『何でリスナーがメモってるんですかねぇ……』

『俺、すげぇ穏やかだよ!!!!!!』

『絶対に穏やかな人が書かない文章だ』


「あー、いなりんにピッタリだね! 図書館デートとか似合ってるかも!」


「い、いなりの話は広げなくて良いですよ……そっ、そういうレイちゃんはどんな人がタイプなの?」


 あまり深掘りされたくなかったのか、いなりさんは同じ質問をレイに返した。そしたら既に頭の中に答えがあったのか……レイは饒舌に語りだして。


「私はねー、王子様みたいな人! 困ったりピンチになった時、颯爽と駆けつけてくれるような、そんなヒーローみたいな人に憧れてるの!」


「わぁ、素敵だね……!」


「……」

 

 ……へー。王子様みたいな人ねぇ……。


「……お前、そんな趣味あったのか?」


「えっ、良いでしょ! 女の子はいつでもお姫様なの!」


「ふーん……でもどうせそれ『ただしイケメンに限る』ってやつだろ?」


「えっ? まぁ、イケメンに越したことはないけどね!」


「だと思ったよ……ってか、なんか前にもこんなこと言った気がするわ」


『デジャヴ』

『リリィとレイで恋バナやってた時だっけ?』

『懐かしいな』

『キュンとするシチュエーションの時の話だね』

『よく覚えてるなw』


 ああ、確かに前、恋バナ企画みたいなのやった気がするな。あの時はお便りを読む形式だったから、自分の好みのタイプとかは詳しく話さなかったけど……。


「そう言えば、類のタイプとか聞いたこと無かったっけ。どんな子が好きなの?」


「…………えっ?」


 いや、いきなり何を言い出すんだコイツは……? 何だ、俺を試してるのか? 俺がレイの……彩花の要素を含んだことを言わせようとしてるのか……? いや、配信中だし!! それにルイレイてぇてぇみたいな要素、自分から作りたくないし!!


「…………」 


 ……かと言って、二人とも真面目に答えた以上、俺だけふざけた回答する訳にもいかないしなぁ……うーん……タイプ……タイプかぁ……。


『めちゃくちゃ考えてるw』

『レイちゃんみたいな子でええやん』

『それが言えたら苦労しないんだよなぁ……』

『普通にルイのタイプは気になる』

『多分ロリコンだよ』

『凄い偏見で草』


 このまま答えなかったら変な憶測も飛び交いそうだし……うーん、何か挙げるのなら……。


「…………まぁ。一緒にいて楽しい人、かな」


「……へぇー?」


「な、なんだよ。不満か?」


「んー、別にー?」


『上手く逃げたな』

『遠回しに言ったな』

『レイちゃんには伝わってそうw』

『お前はレイちゃんといるときが一番楽しそうだよ』

『決めつけは良くないが、そう思わざるを得ない』


 ……いや、別にレイのこととか一言も言ってないんだけどなぁ……はぁ。じゃあ、もう一つ加えるのなら。


「……あと顔が可愛い人」


「うわぁー! サイテー! 面食いだー!」


「いや、お前だってイケメンの方が良いって言ってただろ!」


「別に私はイケメンがマストじゃないもん!! 類とは違って!!」


「強調すんな!!」


『夫婦喧嘩始まったな』

『いつもの』

『きたああああああああああああ』

『いいから手を動かせってお前らwww』

『ルイはイケメンだし、レイは可愛いんだけどなぁ……』

『お互い気づいてないの草』

『採集も面白い時間に変わったなw』

『いなりんニコニコで草』


「ふふっ……相性は抜群ですね……!」

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