第103話 仲間が増えた!

「わあ! いなりんじゃん! いたの!?」


「あっ、やっぱりレイちゃんでした……! 誰か気づくかなって思って、ずーっと更衣室に隠れてたんです……2時間くらい」


「ええっ!? 長っ!?」


『草』

『草』

『長すぎる』

『ずっと隠れてたの!?』

『ルイ達来てからずっと息潜めてたのか……』

『はじっこぐらし』


 2時間も隠れていたのは驚きだ……クラオンには様々な楽しみ方があるとは言ってたが、流石に更衣室に閉じこもるのは運営も想定していなかっただろう。そしてレイは俺がいなりさんと面識無いことを察したのか、俺を紹介してくれたんだ。


「あっ、こっちは類! 新人ライバー……って言っても、もう入ってから半年は経ってるっけ?」


「だな……どうも、ルイです。初めまして」


 そして俺は一歩踏み出して、正面のいなりさんに挨拶をした。そしたら実際の挙動が想像出来るほど、彼女は視線を動かして……なんとか挨拶を返してくれた。


「はっ、初めまして……こっ、狐野いなりと申します……!」


 声もちょっと震えてるな。そんなに緊張しなくてもいいのに。


「大丈夫っすよ、そんな怯えなくても」


「…………」


「……ん、あれ、回線悪いのかな?」


「あっ、きっ、聞こえてはいます……!」


「あっ」


『あ』

『あっ』

『草』

『気まずいw』

『まぁルイの見た目だけは強キャラだし……』

『事前情報無かったらちょっと怖いのも分かるかも』

『俺らはルイのこと知ってるから、こんなにイジれるもんなw』


 確かにコメントの言う通り、ルイの見た目はクール系だし、冷たい感じに思われちゃうのも分かる。一応、最初は俺もクール系のキャラを目指してたんだけどな……それで、すかさずレイがフォローするように言葉を挟んでくれて。


「いなりんはちょっとだけ人見知りさんなんだよ。でも、とっても良い子だから!」


「ああ、そうなのか。すんませんね、気が利かなくて……」


『ノンデリルイ』

『ノン・デリカシ出たな』

『ここでも鈍感系になるのか……』

『ちょっとだけって言ってくれるの、レイちゃん優しいね』

『いなりんもレイちゃんも優しい子だよ!』

『ルイは?』

『ノーコメもありや』


「すっ、すみません……!」


 そしていなりさんは深々と頭を下げる……ライバーでここまで人見知りなのは珍しいかもな。でもきっと彼女にも人を惹きつける力があるんだろう……レイが言うんだから間違い無いよ。


「そっ、それで……! レイちゃんが買ってくれるなら、安くしますよ!」


 そしていなりさんは更衣室から抜け出し、シュタタっとマネキンの前に移動して、その服の売値を1ゴールドへと変換させた。それを見たレイは目を輝かせて。


「わあっ、安い! 買う買う!」


「おいおい……きっといなりさんは時間を掛けて作ったんだから、そんなお金で買っちゃ駄目だって。ちゃんと貯めてから、また買いに来よう」


「うー。それもそうだね……」


「ごめんなさいね、いなりさん。またお金持って来ますから……」


 俺はそう言って、レイを連れ帰ろうとしたら……いなりさんは震えた声で俺らを呼び止めてきて。


「で、でもっ! 服屋に来て、いなりの服を褒めてくれたのはレイちゃんが最初なんです! だっ、だから……レイちゃんに貰って欲しいなって思って……!」


「ああ、なるほど……」


 どうしようか。そういうことなら好意に甘えてタダ同然で買うか、それとも取り置きでもしてもらうか…………あ、そうだ! いい案を思いついた俺は、いなりさんに質問をしてみて。


「いなりさんって、どこかチーム入ってますか?」


「えっ? ひ、一人ですけど……」


「なら丁度良かった。いなりさん、ウチのチーム来ません?」


「えっ、ええっ!?」


「おおー! いいアイデアだね!」


『おお!?』

『ここでスカウト!?』

『ルイから誘うのは珍しい』

『確かにここならいなりんゆっくり出来るかも』

『元々ぼっちだったルイレイなら安心かもなw』


「俺らのチームになれば、俺らが集めたアイテムはいなりさんに渡すし。逆にいなりさんが作ったアイテムも、俺らに分けてくれたら嬉しいなーって思って。丁度俺ら仲間を探してたし、いなりさんが来てくれたら助かるんだ」


 俺はそう伝える。そしたらいなりさんはちょっと怯えたように……。


「でっ、でも……良いんですか? いなりなんかを仲間にして……」


「ああ、仲間が増えるのは大歓迎だよ。な、レイ?」


 聞いたレイは大きく頷いてくれて。


「うんっ! いなりんが来てくれたら私、とっても嬉しいよ!」


「あっ、そっ、そうじゃなくて……いなりなんかが、ルイさんとレイちゃんの間に入るような真似をしたら、大変なことになるんじゃないかって……」


『草』

『草』

『草』

『考え過ぎだってばw』

『だからあまり乗り気じゃなかったのか?』

『大丈夫! いなりんが来てくれた方がきっと面白くなるよ!!』


 そんな百合に挟まる男じゃないんだから……でもまぁルイレイって結構言われてるし、俺らのチームに入るのはかなり勇気がいることなのかもしれないな。とりあえず俺は、安心させるためにこう口にしていて。


「いや、そんなのは全く気にしなくていいから……本当に。むしろ二人でずっと気まずかったからさ」


「ん? うんうん、そうそう! 女の子が増えるなら私も嬉しいよ!」


「ほっ、本当に良いんですか……? いなりはなんにも出来ませんよ……?」


 そこでレイはいなりさんの肩を掴むように、手を伸ばして。


「いなりんっ!」


「わっ……!」


「私は二日間家を建ててただけだし、類に至っては出遅れたくせにずっとウロウロしてただけ! だから全然心配する必要ないよ!!」


『草』

『草』

『草』

『草』


「それ聞いたら逆に心配すんだろ……まぁでも。本当に俺らはゆるく自由にやってるから……無理にとは言わないけど、来てくれたら嬉しいなとは思うよ」


「うんうん! テキトーにやろうよ!」


「……!」


 でも、そんな俺らのチームの適当さが逆に安心出来たのか……決心したようにいなりさんはゆっくりと頷いて。


「…………わ、分かりました。いっ……いなりも……チームに入りたいですっ!」


「ふふっ、やったー!」


「良かった。よろしくです、いなりさん」


「よっ、よよっ、よろしくお願いますっ!」


『かわいい』

『かわいい』

『いなりが仲間になった!』

『まさかこんな所で仲間が見つかるとはな』

『いなりんがチームに入るとは思わなかった』

『この二人ならいなりんの心の扉を開けるかも……?』

『こいつは面白くなってきたな!!!』

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