第100話 ファミリーなんだから!
──
クラスト・オンラインが始まってから三日目。俺がログインするなり、レイから個別のチャットが届いてきた。見ると『私の家に集合!』と一言だけ書かれていて……はぁ全く、呼び出しが雑なヤツだ。
でもちょっとだけ、何だか懐かしい気もする…………あっ、思い出した。確か小学生の時、彩花が俺の家に電話してきて『私の家に来て!』と一言伝えた後、俺の有無も聞かずに切ることが何回もあったんだ。
当時は『やれやれ、仕方ないな』とクールぶって遊びに行ってたが……本当は俺を誘ってくれるのがとっても嬉しかったんだよな。あの時から俺は素直じゃなかったってことか……。
『こんルイ』
『こんルイルイ』
『いつまでメッセ見てるんすか?』
『そっとしたれw』
『好きな子からのメールずっと見るタイプなんでしょ』
『青春してんねぇ』
『絶対ルイ、ニヤニヤしてるぞ』
……そしてやかましいコメントも目に入ってくる。俺はチャット画面を閉じつつ、軽く弁明をした。
「……ああ、お前らこんルイ。ちょっと考え事してただけだから、固まってた理由は特に無いぞ?」
『ホントにぃ?』
『今日もツンツンしてらぁ』
『昨日あんなデレ見せられたらねぇ……?』
『かわいいよルイ』
『昨日のアーカイブ何回も見たよ!!』
「はぁー……結局俺がどんな反応取ろうと、やかましいじゃねぇかお前ら」
『草』
『草』
『ごめんてw』
『デレてくれて嬉しいんだよ』
『ぶっちゃけルイレイを期待してたもん』
『俺も!』
視聴者の期待通りの流れになったのは、ちょっとだけ不服だが……ま、こうなったのも俺が本心を言ったからだしな。……とりあえずレイと合流するか。
「じゃあさっき見せた通り、レイから呼び出しされたから、向かいたいと思うぞ」
そう言って俺はレイの家へと向かった……前日にログアウトした場所から再開しているので、家にはすぐに着くことが出来た。その玄関の扉の前に仁王立ちしていたのは……まぁ当然の如く、例の青髪少女で。
「遅いよ、類!」
「お前が早いんだっての……」
「そう? ま、とりあえず入って!」
「ああ」
そして俺はレイに案内され、家の中に入った。部屋の中はアイテムを収納する木箱が何個か並んでいるくらいで、特に気になるものは見つからなかった。
「意外と殺風景だな?」
「内装までは間に合わなかったのー。でも、今日は家具とか作るのもアリかもね!」
「へぇーそんなのも出来るのか。……で、俺を呼び出した理由は?」
「作戦会議をしようと思って!」
「作戦会議?」
「そう! 何するか決めるのは大事でしょ? もうチームなんだし……あっ、拠点はこの家にしようと思ってるけど、文句は無いよね?」
それに関しては異論は無いが……。
「ああ。でも俺の探偵事務所は……」
『草』
『まだ言ってるよこの人』
『未練タラタラで草』
『つーかお前、全然作ってなかっただろw』
『昨日はずっとチーム探してたからなぁ』
そう。俺は昨日、チームを探しまくってたから、全く建築は進んでなかったのだ。それでレイはちょっと顔を傾けた後……こんな提案をしてきて。
「……よく分かんないけど、別の場所に第二の拠点を作るのもありだよ? 拠点が一つだと、遠くでアイテムゲットした時、持って帰るの大変だし!」
「なるほど」
別にもう一つ家を作るのもアリなのか。でもこの家とルイの探偵事務所建設予定地はめっちゃ近いもんな……作るとしたら、もっと離れた場所でだろうか。
「それで今日は何するんだ?」
「ふっふー。とりあえず今日はモンスターを倒してお金を貯めて、装備を整えて……仲間を探すよ!」
「仲間か……アテはあるのか?」
「全く無いよ!」
「……じゃあ新しい仲間が見つからなかったら?」
「最後まで私ら二人で過ごすことになるね!」
「マジかよ……それは避けたいな……」
『嘘つくな』
『嘘乙』
『二人っきりが良いくせにー』
『もう二人だけでいいんじゃね?』
『素直になってよー』
「まーたコメントがやかましくなってきたな。表示消そうかな……」
『は?』
『けさないで』
『ごめんって』
『ゆるして』
『みすてないで』
『ぶたないで』
どうしてこいつらは命乞いする時、ひらがなでコメントするんだろう……まぁ消すってのは冗談だけどさ。そしてレイは笑ってみせて。
「あははっ! まぁ、どれからやるかは類に任せるよ!」
「そうだな……仲間探しを優先したいけど、昨日俺が探しても見つからなかったくらいだからな。とりあえず常に仲間を探しつつ、他のことを進める感じでいこうか」
「分かった!」
「じゃあまずは装備を整えたいかな。今のところ俺、武器が石とか木の棒くらいしかないからさ」
ちなみに武器は落ちてるものを拾ったり、武器屋で買ったりすることで手に入るようになっている。運が良ければ敵モンスターが落としたりするらしいが……そもそも倒す為の武器がなければ、倒すことだってままならないのだ。
「うん、了解! 私もあまりお金は無いけど、類の分も買ったげるよ!」
「ああ、助かる……必ず埋め合わせはするよ」
「いいのいいの! チームなんだから! 私のお金もチームの物だよ!」
レイは元気にそう言った……なんだかんだ彩花って優しいよな。自分で貯めたお金も家も分けてくれて。やかましいコメントを沈めるため……じゃないけど。お礼くらいはちゃんと言っておいた方が良いよな。そう思った俺は、こう口にしていて。
「……レイ。ありがとな」
「えっ!? こ、これくらい普通だよ! 仲間の為だもん!」
「いや、お前は優しいよ。俺なんかを拾ってくれて、家まで住まわせてくれて……お前がいなかったら、俺はまだ石持ってウホウホしてたよ」
『草』
『草』
『石器時代か?』
『ぼっちの世界線のルイも見たかったなw』
『多分ぼっちだったら二日目で辞めてるぞ』
『じゃあ拾ってくれたレイちゃんに感謝だな』
多分向こうの方でも、レイを褒めるコメントが増えたのだろう。レイはちょっとだけ恥ずかしそうにして。
「だから気にしなくて良いって! 私達はチーム……いや、ファミリーなんだから! だから変に気を使ったりしなくて良いんだって…………」
「…………レイ?」
「……い、いやっ! ファミリーってのは例えで言っただけで! それに深い意味とか全然無いから! 気にしないでね!?」
「そこ焦る方が、逆に変な感じするんすけど」
『草』
『確かにw』
『止まらなかったら誰もツッコまなかったと思う』
『案外レイちゃんの方が意識してたりする?』
『やっぱりルイレイってガチなんですか?』
『そうだよ』
何を意識してんだアイツは……まぁ偶には俺も助け舟を出してやるけどさ。
「……ま、一週間限りで、ゲーム内でとは言え同じ家に住むんだ。だから家族ってのもあながち間違いじゃないんじゃないか?」
「う、うん! そうだよね!」
『一週間ファミリーってやつ』
『同棲ってことっすか!?』
『レイちゃんと同棲って……どうせいっちゅーねーんwwwwwwww』
『は?』
『は?』
『あ?』
『BAN』
『追放しろ』
ダジャレおっさんの人気ぶりに嫉妬するぜ……ま、とりあえずだ。
「じゃあ武器とか防具が売ってる場所を探しに行こうか。大体の物はメインストリートにあるんだろうけど」
「あっ、各自プレイヤーが商品を売ったりすることも出来るみたいだよ! 武器を作れるのが自分しかいないとかだったら、需要が生まれたりするんだって!」
「へぇー、商売も出来るんだな。それで稼ぐのも手か?」
「でも私達売れるの何もないよ?」
「いやいや、そんなことないだろ。お前建築上手いから、それを作ってあげたりとか……可愛い絵とか描けるから、それを売ってやったりすることも出来るだろ。お前って、すげぇ才能あるんだからさ?」
そしたらレイは途端に黙り込んで……。
「……」
「レイ?」
「……も、もう!! ほら行くよ! 武器買いに行くんでしょ!?」
そう言って俺には目もくれず、家から飛び出したんだ。
「ああおい、待てって!」
そして俺も急いで、レイの後を追うのだった……。
『照れててかわいいなぁ』
『まーた無自覚で照れさせてる……』
『やっぱ主人公の才能があるのか?』
『そういうとこやぞルイ』
『お互いに良い所、百個くらい言えそう』
『それは流石に余裕じゃね?』
『ルイレイてぇてぇなぁ』
『もうてぇてぇの次元超えてんだろこれ!!!!』
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