第99話 よろしくな、レイ

 ──それから俺は色々なエリアを回ったが、チームメンバーを募集している人には会うことが出来ず……ゲーム内でも夜になって。俺はとぼとぼと、家を作っていた場所へと戻っていた。そしたらそこには……例の青髪少女が寝転がっていて。


「……ん?」


『あ』

『えっ!?』

『レイちゃん!?』

『寝てるのか?』

『どうしてここに……?』

『待ち伏せしてたのか!?』

『ルイが帰ってくるの待ってたんでしょ』

『忠犬かな?』

『レイちゃんはかわいいなぁ』


「……あっ!」


 そして彼女は俺に気づくなり、身体を起こしながら話しかけてきた。


「類! 帰ってきたんだね!」


「お前……何してんだ?」


「え? 天体観測! 星が綺麗で、ずっと見れるんだー!」


「天体観測……?」


 言われて俺も空を見上げてみる…………確かに青紫色の空には星が光っていて、とても幻想的な風景が広がっていた。まるで現実世界と遜色ないな……と思った所で、俺はこう口にしていて。


「確かに綺麗だけど……ここで見る必要なくない?」


「えっ?」


 そう。ここはレイの家ではなく、ルイの探偵事務所建設予定地なのだ。だからこんな所で見るくらいなら、彩花が作ってる家の屋上とかで見た方がよく見えると思うんだけど……で。それを聞いたレイは、焦ったように俺から目を逸らして……。


「ま、まぁなんとなくだよ! ……別に待ち伏せしてた訳じゃないんだからね?」


「えっ、やっぱり待ち伏せしてたの?」


「……だから違うって言ってるでしょ!?」


「うわっ!?」


 そしてレイからパンチされて、俺の視界は揺れる。もちろんゲームなので痛みなんかは感じないが……ちゃんと俺のHPは減っていた。


「いってぇ……お前なぁ。俺はまだ回復薬すら貴重なアイテムなんだぞ?」


「あ、ごめん……これ使って?」


 そしてレイはポイッと回復薬を落とした。それを使えば、パンチ一発分以上回復するのでありがたいが……渡すくらいなら最初から殴らないでよ、と思った俺は心が狭いのだろうか? まぁ謝ってくれたのなら、これ以上何も言わないけど。


「じゃあ貰っとくよ」


「うん……それでさ! やっと家完成したから類に見て欲しいって思って!」


「ああ、完成したのか。じゃあ見に行こう」


「うん! 付いてきて!」


 そしてレイに案内されるがまま歩いていくと……そこには。


「……おおー!? 凄い出来じゃないか!」


『おおっ!?』

『すご!!!』

『クオリティたけぇー!』

『普通にプロレベルだわ』

『こんな短時間で作れるのか!?』

『看板カワイイ!』

『外壁も塗装したのか!?』


 小さなお城みたいな、立派な二階建ての白い家が建っていた。外壁には彩花が描いたであろう、レイのイラストも飾られていて。一目で誰の家か分かるような、個性的で面白い家だったんだ……そしてそんな俺を見たレイは、得意げに笑ってみせて。


「えへへっ、でしょ? 明るい時間なら、もっと綺麗に見えるんだけどね!」


「これ、ずっと作ってたのか?」


「えっ? ずっとじゃないけど……まぁ結構やってたよ!」


「だよなぁ……」


 こういった建築系のゲームはあまりやったことないから、詳しいことは分からないけど……このクオリティを一日二日で、しかも一人で素材も集めて、組み立ててってやったのは相当凄いことだと思う。めっちゃ時間掛かっただろうなぁ……。


 それで俺が感心したように家を見てると……背後からレイが話しかけてきて。


「類はチーム見つかった?」


「……いや、見つからなかった。レイが言ってた通り、ほとんどの人はもうチームに入っていたよ」


「そっか……ね、やっぱり私とチーム組むのは嫌?」


「えっ?」


 不意な言葉に俺は驚いて、言葉に詰まってしまう……もしかして俺が必死にチームを探していたことを知ったのだろうか?


「い、いや、そういう訳じゃないんだけど……なんて言ったら良いか。お前といつも絡んでると、視聴者も飽きてくるんじゃないかって思ってさ……」


『飽きてないよ!!』

『俺らのことは気にすんなって』

『自由にやれ』

『好きにやってるルイが見てぇんだよこっちは!!』

『自分に正直になれよ』

『お前はどうしたい?』


「……類はどうしたいの?」


「えっ?」


「類がどうしても他の人とやりたいって言うなら、私も素直に引くけど。それだったらちゃんと言って欲しいなって思って」


「……」


 まさかレイからそんなことを言われるなんてな…………俺。俺の本心はどうなんだ? 視聴者のことも配信のことも全部忘れて。俺が、このゲームを本気で楽しもうと思った時。どんな行動を取るかなんて……そんなの、決まってる。


「俺は…………正直。このまま一人で続けるよりは、誰かとやった方が絶対に面白いとは思ってる」


「うん」


「もちろん誰か新しい人と絡んだり、色んな要素を楽しむのも大事だと思うけれど…………気心知れた人と馬鹿みたいに遊ぶのが、一番面白いと思うんだ」


『おっ』

『つまり……!?』

『要するにだ』

『もう答えは決まってんだろ?』

『がんばれ』

『勇気を出せ、ルイ』


「……だ、だから、その…………俺は。お前とやりたいよ」


『うおおおおおおおおおおおおおおおおおお』

『きたあああああああああ!!!!』

『よっしゃああああああ!!!!』

『よう言うた!』 

『言えたじゃねぇか……』

『やっとデレた!!』

『デレるまで長かったな……』

『ルイ君がデレるまで丸一日掛かりました』


 コメントは今日一番のスピードで、めちゃくちゃ流れてくる。そしてそれを聞いたレイは……可愛らしい笑い声を上げて、ちょっとだけ調子に乗ったように。


「ふふっ! もーしょうがないなぁ! 類がそこまで言うなら、私が仲間になってあげても良いよ!」


「……あ、チャットでロビンがチーム募集してんじゃん。やっぱあっち行くわ……」


「あーっ! ごめんってばぁ!! 行かないでよー!!」


『草』

『草』

『草』

『草』

『可愛いw』

『こいつら可愛すぎるだろ』

『っぱルイレイなんだよなぁ……』

『一生やり取り見れる』

『最高や』


「はぁ……冗談だって」


 そして俺はメニューを開いて、眼の前にいるレイにチーム招待を送るのだった。


「……!」


「とりあえずよろしくな、レイ」


「うんっ!」

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