第96話 もう運命だろこれ
数分歩いて、俺はメインストリートにやって来た。ここはさっきの草原とは打って変わって、多くの店や広場などが集うひとつの街のような場所になっていた。
そんな場所だから人通りも多く、NPCに紛れてプレイヤーも見つかる訳で……。
「……ん、あれは……?」
『おっ』
『あの髪色はまさか……!』
『見知った顔が見えるねぇ』
『第一村人発見!!』
『もちろん話しかけに行くよな?』
噴水広場前に紫髪の少女が突っ立っているのを俺は見つけた。近づいてみると、聞き覚えのあるダウナーな独り言も聞こえてきて。
「……それで武器のカスタム出来るくらいには、今日中にレベリングして…………あ、ルイ君だ。やほ」
「あっ、やっほーです、来夢さん」
その正体は来夢さんだった。来夢さんもサンプルアバターを使っているようで、少しボーッとした感じの彼女の顔も上手く再現されていた。眼の前に居るから、実際に会ってるみたいだな。現実世界でVTuberと会える日が来るのも、そう遠くないのかもしれない……で、気になるのが。
「その、手に持っているのは?」
「これはクロスボウだよ。昨日モンスターを倒して設計図を手に入れたんだー」
そう言って来夢さんはそのクロスボウを構えて、射撃のポーズを取る……来夢さんが本気を出せば、俺の頭なんて簡単に撃ち抜かれてしまいそうだ。
「へぇー、もう強そうな武器手に入れてるなんて凄いっすね!」
『来夢は昨日からずっとログインしてるからなw』
『やりこみ型のゲーマーだからねぇ』
『多分ライムが一番文明進んでる』
『一番敵に回しちゃ駄目な人だ』
『#来夢は早く寝ろ』
コメントを見る限り、来夢さんは二日目にして相当やり込んでいるらしい。そして来夢さんは「んふふ」と読み上げるように笑って。
「まぁ、ウチはスナイパーライフルが欲しいんだけど……ってかルイ君、見た所来たばかりって感じだね」
「あ、そうなんですよ。さっき来たばかりで……序盤って何したら良いですかね?」
そんなやりこみ型の来夢さんに序盤の立ち回りを聞いてみた。そしたら「んー」と考えた後、コメントから良い案を見つけたのか……それを教えてくれて。
「そうだねー、まずはお家を建てるべきかも。拠点を作るとアイテム溜め込みやすいし」
「なるほど……家って?」
「木材を集めて建てるんだよ。材料があったらオートで作ってくれるけど、自分で建てることも出来るよ」
ああ、建築要素もあるのか。それは面白そうだな。
「そうなんすね、早速やってみます! ありがとうございました!」
そう言って俺はその場から去ろうとしたら……来夢さんから引き止められて。
「あ、待って。……はい。木材」
アイテム化された木材を地面に落としたんだ。
「えっ、くれるんですか!?」
「うん、余ってたし。売ってもあんまりお金にならないからあげるよー」
「ホントですか! ありがとうございます! いつかお礼しますから!」
言いながら俺は落ちてた木材を拾い上げた……そしたら来夢さんは即答で。
「じゃあ。スナイパー持ってる人見かけたら、すぐにチャットして欲しいな?」
「……奪ったりしませんよね?」
『草』
『草』
『草』
『こわい』
『奪うんやろなぁ……』
──
そして俺は家を建てようとメインストリート近くをうろついたが……どうやら既に他プレイヤーが建てていたらしく、空いてる場所がほとんど見つからなかった。あったとしてもスペースが狭くて、自分が満足出来そうな家は作れそうになかったんだ。
そんな訳で結局、俺はスタート地点の草原付近に戻ってきていた。
「……まぁメインストリート付近はもう飽和状態だし、もうこの辺で良いかな」
『ここ?』
『辺鄙な場所だな』
『こんな場所じゃ誰も遊びに来ないぞ?』
『何ならモンスターの方が寄ってきそう』
「誰も来ないって、逆に隠れ家みたいな感じで良いだろ? よし、作るぞ……」
俺はバッグを開き、来夢さんから貰った木材を選択して、土台から作っていく。
『どんな家作るの?』
「どんな家作るの……うーん、やっぱり二階建ての家が良いよな。一階が喫茶店で、二階が……探偵事務所」
『コナソ』
『コナソだよね』
『コナソですか?』
『パクるな』
「別にパクってねぇって! 俺の理想の家なんだよ。俺が気だるげな探偵で……夕方頃コーヒーを飲むために一階に降りて、マスターに奢ってもらって……それを見ていたバイトの女の子に『ルイさんっていつも暇そうですよねー?』とか言われちゃったりして。でも本当の俺は超絶賢い名探偵で、一人の依頼人をきっかけに日本中を巻き込む事件が起きたりして……! もちろんこの話は劇場版な!」
『アイタタタタ』
『痛い痛い痛い』
『想像力が中学生』
『何で自作小説のあらすじ聞かされてるんですか?』
『正直俺はすこ』
『ぶっちゃけ分かる』
「ほら、分かる人多いじゃん! 男ならやっぱり探偵に憧れる時期ってあるんだよ! それが俺は今なんだよ!」
『そうなの?』
『そんな時期とかある?』
『ある』
『ないよ』
『なる』
『どっちだよ』
『いっその事地下室も作ろう』
「ああ、地下に何か作るのもアリだな。それこそ一階の喫茶店で秘密の注文した人だけが行けるエリアみたいな……」
『ハンタ試験?』
『ハンタハンタですよね』
『弱火でじっくり……』
『あれって偶然奥の部屋通された人とかおるんかな?』
「だいぶ話逸れてきたな……って、なんか向こうで家建ててる人いない?」
ここで俺は数百メートルは離れた草原の向こうで、家を建てる作業をしている人を見つけたんだ。
「こんな所に建てるなんて気が合いそうだ……ちょっと挨拶行ってみるか?」
『いいね』
『いこういこう!』
『お隣さんか?』
『じゃあルイとセンスが一緒ってこと?』
『ちょっと……不名誉かもな』
「何が不名誉だ……俺とセンスが一緒って、誇っていいんだぞ?」
『?』
『ん?』
『え?』
『は?』
『ちょっと何言ってるか分かんない……』
「……」
俺はコメントをガン無視して、その組立てている最中の家へと近づいた。どうやらその人は几帳面らしく、丁寧に対称的に大きな家を作っていた。そしてその作成している人は、どうやら屋根の上にいるらしい。
俺は上を向いて挨拶をした。
「どうも、こんにちはー」
そしたら俺に気づいたようで、その人物は屋根からピョンと地面に飛び降りて……俺に挨拶を返してくるのだった────
「あっ、はい! こんにちは…………って、ええっ!!? 類!?」
「えっ!!? おまっ、レイかよ!?」
『草』
『草』
『草』
『草』
『もう運命だろこれ』
『お隣さんレイで草』
『幼馴染か?』
『どこまで繋がってんだお前らwww』
『いつもの』
『ここでもルイレイの絡みが見れるのか(歓喜)』
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