第95話 クラストで暮らすドラ!

 それから時は流れて数週間後……俺の家にはでっかいヘッドセットが届いていた。もちろんこれは『クラスト・オンライン』で使うための機器である。俺は箱から取り出し、パソコンと接続など色々と設定を行った後……VRヘッドセットを装着した。


「これで俺もゲーム世界の住人になれる……!」


 ……まぁフルダイブ機能なんて搭載されてないから、キリット君のような体験は味わえないだろうけど。それでもゲームの中に入れるってことには、結構期待していた。VRゲームやるのも初めてだし。ま、ひとつ懸念点があるとするならば……。


「もう始まってるってことなんだよな」


 実は昨日からクラスト・オンラインの案件は始まっていたのだ。初日はバイトが一日中あったので、ログインすることすら出来なかったが……これから毎日プレイする時間は確保したので、最後まで楽しめるだろう。


 でもスタートダッシュ出来なかったのは、結構痛いかもな……まぁそれを嘆いても仕方ないか。とりあえず始めよう……俺は専用のコントローラーを握り『クラスト・オンラインを始める』にカーソルを合わせて、ゲームを起動させた。


「うおっ……!?」


 そしたら眼の前に表示されるは壮大なムービー。終わった後は、赤色のドラゴンのマスコットキャラクターがやって来て、世界観の説明やゲームの楽しみ方を教えてくれたんだ。内容は塩沢さんが言ってた通り、基本的に何でも出来るから色々な楽しみ方を見つけてね、とのことだった。


 ここまで自由度が高いのは、かなり期待が出来るな……!


「それじゃあオマエも、クラスト・オンラインで……暮らすとー!?」


「やかましいわ」


 そしてそのダジャレドラゴンに案内され、俺はキャラクタークリエイトの画面に飛ばされた。ぱっと見た所かなり設定できる項目が多く、丁寧に作れば余裕で何時間も掛かってしまいそうな程だった。でも今回早くプレイしたいから、簡単に作るか……と思った所で『アバターサンプル』と書かれたボタンを俺は見つけた。


「アバターサンプル……」


 押してみると数十個のサンプルアバターと……スカイサンライバーコラボとタイトルに付けられたアバターが表示された。一個一個詳細を見てみると、それはスカサンに所属しているライバー達を模したキャラクターだったんだ……。


「……って全員分あるのか!?」


 何気なく見ていったが、そのサンプルは幾つも存在していた。じゃあもしかして俺のアバターも……? 俺はコントローラーを動かし、探していった……。 


「……あった! ルイ・アスティカのサンプルアバター!」


 スクロールしていって、俺は自分のサンプルアバターを見つけることが出来た。それはかなり気合い入れて作ってくれたみたいで、オレンジの瞳やとんがり帽子などの再現度は相当高いものになっていた……まぁ服装はデフォルトの白シャツだけど、それはみんな一緒だもんな。


「じゃあありがたくこのアバターを使わせて貰って、名前を入力して……決定だ!」


 入力が終わると例のドラゴンがまた眼の前に現れて、笑顔で喋り出した。


「良い名前ドラね! じゃあ早速連れてってやるドラ!」


「急に語尾でキャラ付けしてきたな……ってうわっ!?」


 そして急に眼の前は白い光に包まれ、別地点へとワープするのだった────。


「それじゃあクラストで……暮らすドラー!?」


「それやめろ!!」


 ──


 そして徐々に白い光は収まり、視界が開けた先には。


「……凄っ!」


 一面に草原が広がっていた。前を見ても後ろを見ても緑色に染まっていて、遠くには大木や巨大な岩が見えて、風の音も聞こえて……本当にそこに立っているような感覚だったんだ。まさか誰でも勇者になれる時代が来るとはな。


 とりあえず俺はボタンを押して、メニューを開く……そこには『持ち物』『マップ』『チャット』『オプション』などと並んで『配信モード』というものがあって……あ、そっか、配信するのすっかり忘れてた。


 思い出した俺は配信モードを選択して、配信を開始させた。事前にパソコンとアカウントは連結させてたから、これだけで良いらしいが……本当に大丈夫かな。一旦外して様子を確認しようかな……と思ってた刹那、空中から『こんルイ』とコメントが下から上へと流れ出したんだ。


「おわっ!? コメントが浮いてる!?」


『こんルイ』

『こんルイ』

『草』

『草』

『新鮮やなw』

『ここまで技術は進化したんやね』

『ルイ視点で見たかったから助かる!』

『挨拶してよー』


 そしてコメントはどんどんと流れてくる……驚きつつも俺は挨拶を交わして。


「あ、ああ。こんルイ……俺も遅ればせながらクラスト・オンラインの世界にやって来たけど……これ、ちゃんと配信出来てるか? というかみんなにはどんな風に映ってるんだ?」


『うん』

『出来てるよ』

『一人称視点だね』

『ルイの見てる通りに見える』

『三人称視点も出来るらしいけどな』


「あ、そうなのか……じゃあこうやって回ったら……」


 試しに俺はコントローラーを操作して、その場で回ってみた。そしたらルイ民からはお叱りの声が届いてきて。


『うぉええええ!!!!!』

『酔った』

『吐きそうなんだが』

『最初にやることそれか?』

『もう見るの止めていい?』


「ごめんごめんって……ま、とりあえずはこの世界を探索して。誰かと会話もしてみたいから、人が居そうな場所に行ってみようかな」


『いいね』

『行こう行こう!』

『落ちてるアイテムは拾っとこう』

『マップ広いから中々会えないもんなー?』

『全体チャットでレイちゃん達の居場所聞くのもアリ』


「流石にチャットはまだ使わなくて良いかな。困ったら使うかもだけど。じゃあマップを開いて……おお、メインストリートってのがあるのか。じゃあそこを目指して走っていこうかな」


『結構遠いぞ?』

『乗り物持ってないからな』

『着くまで雑談してくれ』


「そんなに遠いのか……まぁ景色を楽しみながら、適当に雑談しながら向かっていこうか」


『やったー!』

『雑談散歩配信助かる』

『ルイさんぽ』

『ルイさんぽは定期的にやれ』

『景色眺めてるだけで時間潰せるなぁ』

『歌いながら行こう!』


「……なんか悪魔みたいなコメントが目に入ってきたな?」


『草』

『草』

『草』

『草』


 そんなコメントを眺めながら、俺は草原地帯を駆け抜けて行くのだった。

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