4章 

第94話 聞こえてるよ、いぶっきー!!

 寒さも過ぎ去って、穏やかな陽気に包まれる3月上旬。なにやらスカサン内で大きな企画をやるみたいで、ライバー全員参加のWEB会議が開かれようとしていた。まぁ今日は話を聞くだけで良いらしいけど……一体何をやるんだろうな? 


 思いながら俺は送られてきたミーティングに参加して、パソコン前で待機してると……会議の部屋に続々とライバー達が入室してきた。レイや安藤先生など比較的真面目と言われてる人は、時間の10分前には集合していて。七海さんやカレンさんなど比較的マイペースと言われてる人は、開始時間ギリギリに駆け込んできて。


 ……そしてそのマイペースすらも超越するロビンやもちなんかは、開始時刻を過ぎてから部屋に入ってくるのだった……お前らは一回ちゃんと怒られるべきだ。


 そんな人らの集合を確認した後、塩沢社長は俺らに挨拶をして……画面共有をし、とあるゲームのタイトルロゴを表示させたんだ。


『……はーい、じゃあ早速本題に入るけど。今年の夏頃だね、新製品のVRゲーム「クラスト・オンライン」ってのが発売されます。それで最初にスカサンとコラボするってことで、その案件をお願いされました。発売前にプレイしてもらうから、まぁ言ってしまえばベータテスターみたいな感じだね』


 へぇ、新作ゲームをさせてもらえるのか。それは面白そうだな……。


『どんなゲームかは後ほど資料を見てもらうけど、モンスターやプレイヤー同士で戦ったり、建築したり、乗り物に乗ったり、テーブルゲームをしたり、農業をしたり……基本的に何でも出来るらしいよ。本格派というよりは、結構カジュアル寄りのゲームだね。あとアニメ調だし、世界観は君らに合ってると思うよ』


 そして塩沢さんは案件先に貰っていた、スクリーンショットやプレイ映像を俺らに見せていった。それはVRゲームと思えないほど高画質で、サクサク動いていて……最近のゲームってこんなにも進化してるんだな。めちゃくちゃすげぇや……。


『それで今回、このゲームは希望者全員にやってもらおうと思っているんだ』


「全員!?」


 思わず俺は声を上げていた。いや、ミュートにしてるから流石に会議には流れてないけど。全員って流石にやり過ぎなんじゃ……? ……と、そんな俺の疑問が塩沢さんに通じたのか、続けて説明してくれて。


『オンラインゲームだし、人数が必要らしいんだよね。ウチにお願いされたのも、在籍してるライバーが多いからってのもあるみたいだし』


 ああ、なるほど……確かにプレイヤーが全員同じ箱に所属してるライバーなら、みんな知り合いみたいな感じだし。気軽に出来るから、ゲームが苦手な人でも参加はしやすいだろう。それを見て、初心者の人も買うかもしれない……って意外と考えられてるんだなぁ。


『そして期間は一週間で、今回は専用のマップを使って行われるよ。その光景を個人や定点カメラで配信してもらうつもりだね』


 えっ、一週間!? 1日2日くらいかと思ってたけど、そんなにやるのか……でも何日も掛けたほうが宣伝にもなるし、難易度調整やデバッグも兼ねてってことなんだろうか? 


 まぁ……やるなら全日程やりたいんだけど、春休みシーズンも近づいてくるし。バイトもあまり休み貰えないんだよなぁ……どうしよっかな。


『それじゃあ後ほど資料を送付するので、見てやりたいと思った人はぜひ申請してねー。それじゃあ以上だよ』


 塩沢さんはそう言って、会議は30分も経たない内に終わってしまった。うーん……他の人はどうするんだろう……と、思った瞬間、彩花からグループ通話に誘ってくるメッセージが届いてきた。メンバーを内訳を見ると、そこにはオーウェン組の三人……そしていぶっきーも参加していた。


 ……これだけ揃ってりゃ、無視するわけにもいかないか。思った俺は通話に参加して、挨拶をしたんだ。


「どうも、お疲れ様でーす」


 すると俺の声にみんなは反応を示して。


『お疲れ様です!』『お疲れだ!』


『あっ、類来たね! もちろん類もやるでしょ?』


「ああ……そのことなんだけど。俺忙しくてあまり出来ないかもしれないんだよ。だから、ちょっとだけやるくらいなら、最初からやらない方が良いかもって……」


 そこで俺の言葉を遮るように、彩花は大きな声を発して。


『ええー! それでも良いじゃん! やろうよー!』


 続けてオーウェン組の二人も俺を誘ってきて。


『やりましょうよ! きっと楽しいですよ!』


『やるぞッ、ルイボーイ……ライバルが居なくては張り合いが無いからな!』


「俺らってライバルだったの?」 


 そして最後にいぶっきー……。


『ゲーム内でルイさんをぶん殴ってみたいので、やってくれなきゃ困ります』


「ヤバい人居るって」


 そんな俺、いぶっきーに嫌われるようなことした? それともいぶっきーが、俺のことをイジっても良い存在だと認識するようになったのか……それなら光栄だけど、彼女は淡々と話すから冗談がマジに聞こえる時あるんだよなぁ……。 


『あははっ! まぁ、そんな訳で類が来ないと寂しい人が沢山居るからさ! ちょっとだけでも良いからやろうよ!』


 そして彩花は笑いながら再度、俺を誘ってきたんだ……まぁみんなが期待してくれてるなら、それには応えたいよな。


「……分かったよ。じゃあ俺もやるからさ、色々サポートしてくれよ?」


『ふふっ、うん! ありがとね、類!』


 ……そこでいぶっきーがボソッと。


『……レイの言う事は全部聞くって噂、本当だったんですね』


「ちょっと!? 聞こえてるよ、いぶっきー!!」

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