第93話 最高の誕生日プレゼント
──そして一曲歌い終わった俺は息を切らして、みんなに感想を聞いていた。
「はぁっ……はぁ……! ……どうだった?」
すると案の定と言った所か……素直に俺を褒めてくれるコメントは、ひとつも見当たらなくて。
『草』
『やりきった感を出すな』
『エコー消せwwww』
『やっぱお前天才だよ』
『元気は出たよwwww』
『ちゃんと下手だった』
「下手だったって……うるせーなー!! 俺だって好きで下手じゃないんだよ!!」
『草』
『草』
『ごめんてw』
『でも笑わない方が難しい』
『逆に笑わない方が失礼だと思う』
何だ逆にって……逆にって付ければ、何言っても良いと思ってんだろ!!
「はぁー……このままコメント見てたら俺のメンタルが持たないから、早速次の曲に行こうと思うぞ。次は……これだ!」
そして俺は配信画面の背景に用意してるセトリの欄に次の曲を入力した。その曲も俺が子供の頃に流行ったアニメの歌で、俺ら世代の男なら絶対に盛り上がる曲だ。ただひとつ、懸念点があるとすれば……。
『おっ』
『きたああああああああああ!!!』
『なっつ』
『えっ、いけんの!?』
『不安過ぎる』
『ラップ歌えんのか!?』
そう、この歌にはラップパートが何個もあるということだ。でも……さっきの歌で緊張もほぐれたし。このアニメは毎週欠かさず見てたし……うん、今の俺なら多分いける! 完璧に歌いこなせるはずだ!
「じゃあ行くぞ!」
そんな謎の自信を抱えたまま俺は音源を流し、また全力で歌うのだった……。
『うおおおおおおおおおおおお!!』
『いくぞおおおおおおおおおおおお!!!!』
『草』
『草』
『棒読みソフトに歌わせてる?』
『口が追いついてませんよ』
『英語ごまかさないでください』
『お経になってるってwwwww』
──そんな感じで草の絶えない歌配信は続いて。いや、歌配信で草が飛び交うこと自体が意味不明なんだけど。途中のトークも挟んで、一時間ほど時間は経過した。
「ふぅー……じゃあ次が最後だ。最後に歌うのはこの曲……これはロビンのオリジナル曲だ。この歌は本当に練習してロビンにもつきっきりで教わったから、上手く歌えるかもしれない」
『もうラストか、早いな』
『大丈夫かなぁ……?』
『たすけてロビえもん』
『今までが壮大なフリだったってオチはあるのか?』
『ないです』
『ロビン:案ずるな、練習した日々を思い出せルイボーイ』
「おっ、ロビン居るのか……ありがとう。俺、こいつら見返してみるよ!」
コメント欄にロビンを発見した俺はお礼を言い、そう宣言をした。そうだよ……俺は何週間もロビンと共に、この曲を練習してきたんだ。カラオケで歌詞もリズムも音程バーも確認して、声の出し方まで教わったんだ。今までの歌とは訳が違うんだ!
「じゃあラスト……行くぞッ!!」
そして俺は音源を流し、ロビンのオリジナル曲『ソラに届くまで』を熱唱した。
最初はさっきまでと同じように『草』が飛び交っていたのだが……俺の熱意というか、本気度が伝わったのか『頑張れ』や『いいぞ』など、徐々に応援するコメント。サビに入る頃にはペンライトや拍手する絵文字が流れてきて。最終的には、俺が思い描いていた歌配信のコメント欄に変わっていたんだ。
……曲が終わった後、コメントには拍手を意味する『888888888』が大量に流れていた。俺は数十秒間黙った後……あえて一曲目が終わった時と同じ言葉を発した。
「……どうだった?」
『様にはなってた』
『気持ちは伝わったよ!』
『ちゃんとカバーになってて安心した』
『正直上手いとは言えないけど、精一杯頑張ってたのは伝わった!』
『子供の発表会見てる気持ちだった』
『ちょっとだけ感動したよ』
そしたらさっきまでの雰囲気とは打って変わって、俺を褒めてくれるコメントが多数を占めていたんだ……ああ。こいつらも俺を信じて、真剣に聴いてくれてたんだな。そんなことを思った俺は……いつの間にか笑顔に変わっていて。
「……そっか。俺の気持ちが少しでも伝わったのなら良かったよ。ちょっと遅れたけど誕生日おめでとな、レイ」
『デレた!!?!?!??!??』
『ルイが素直になるなんて……』
『言えたじゃねぇか』
『はやく愛してるって言え』
『これが切り抜き禁止ってマジ?』
そんな平穏な時間も束の間……とんでもないコメントが俺の目に入ってきて。
『レイ:今度は目の前で聴かせてね~?』
「今度は目の前でって……おい、お前それはマジでやべぇって!!」
『あ』
『あっ』
『こーれデキてます』
『実際にやりそうではある』
『まぁルイだしいいんじゃね』
『ルイとレイだしなぁ……』
『その様子を配信してくれ!!!!』
「いや配信しないから……ってかやらないから!! こんなこと言うと、何人かは信じちゃう人出てくるんだってば!!」
『草』
『みんな信じてるよ?』
『やるんやろうなぁ……』
『レイちゃん家でルイライブやれ』
『お疲れ様』
『チケット代やるよ』
『アンコールお願いします!!!』
『また歌枠やってくれ!』
そしてそろそろ俺の配信が終わるのだろうと察したのか、色付きのコメントが大量に流れてきた。スパチャを切るのを忘れていた俺は、慌てて言葉を発して。
「おわっ、スパチャとかしなくていいから!! そんなのしなくたって、またやってやるから落ち着けって!!」
『おっ』
『マジで!?』
『言質取った』
『いつやってくれますか?』
「えっ、いつってそれは……数年後な?」
『は?』
『は?』
『毎秒やれ』
『ルイの歌は唯一無二だから誇っていいぞ』
『慌ててるルイかわいいねぇ』
『最後の曲はレイちゃんの為に本当に頑張ったんやろなぁ……』
『お前って努力家だもんな』
そして今度は俺を可愛がるようなコメントが増えてきて……恥ずかしくなってしまった俺は、大きな声を上げていた。
「だぁー! もう!! 恥ずかしくなってきたし、スパチャも止まらないからもう終わることにする!! お前ら、切り抜きも歌ってたことも内緒にしててくれよ!?」
『えー』
『おk』
『しょうがねぇなぁ』
『歌枠は定期的にやれ』
『レイちゃんはニコニコなんやろうなぁ』
「じゃ、お前らありがとな! おつルイ!!」
『おつルイ』
『おつレイ!』
『おつルイレイ』
『いいライブだったよ』
『ロビンもありがとね~~』
そう言って、俺は逃げるように配信を切るのだった。
──
配信が終わるなり、彩花から電話が掛かってきた。俺は椅子に倒れ込みながら……ふにゃふにゃな声で応答する。
「もしもし……」
『もしもし! お疲れ様だよ、類!』
「ああ、ありがとな……でもマジで恥ずかしかった。やっぱ柄にもないことやるんじゃないな……」
『いや、自信満々でとっても良かったよ! コメントで言ってる人も居たけど、私も元気出たよ!』
「そっか。でも下手だったろ?」
俺が自虐っぽくそう言うと、彩花はちょっとだけ考えるような声を上げて……。
『そうだねぇ……確かに上手とは言えなかったけど。でも、類は私を含むみんなを笑顔にさせて、元気付けて、感動させた。それはとっても凄いことだと思うの!』
そう励ますように言ってくれたんだ。
「……彩花はいつも俺を褒めてくれるよな」
『ううん、類が頑張ってくれたからだよ。最高の誕生日プレゼントありがとね!』
「……どーいたしまして」
少し迷ったが、ここは素直に感謝を受け取っておくことにした。彩花が皮肉なんて言うわけないしな……そして俺の言葉を聞いた彩花は元気に笑って。
『ふふっ! じゃあ次は目の前で歌聴くの、楽しみにしてる!』
「あれ冗談じゃなかったのかよ……まぁ。俺が歌うだけでお前が元気になるのなら、いくらでも歌ってやるけどさ」
『んふふっ、ありがと! 今度は一緒にライブも出ようね、類!』
「……そ、それはもう少し上手くなってからな?」
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