第92話 ルイの歌配信♪

「いや、想像の百倍下手だ! 何でカラオケで働いてるんだ!?」


「時給が良かったから……ってかそれは別に良いだろ! 悪いか!?」


 俺の反論に正気に戻ったのか……ロビンは少し申し訳無さそうに俯いて。


「すっ、すまん言い過ぎた……だが本当に予想外だったんだ。それは分かってくれ」


「……そんなに酷かった?」


「ああ。採点入れてたら60点ぐらいだったと思うぞ」


「え、60点って結構取れてない?」


「……」


 ロビンは何も答えなかった……ここでやっと俺は、カラオケの最低点がそのぐらいに設定されているのだろうと察することが出来たのだった。そりゃ何も言えんわ。


「でだ、ルイボーイ……本気で歌枠をやろうと思ってるのか?」


 そしてロビンは俺に目を合わせ、真剣に聞いてきた。まるで『引き返すなら今のうちだぞ』でも言いたげに……多少は自覚していたが、俺の歌は思った以上に下手らしい。ここまでロビンが引き留めようとしてくるのは、彼なりの優しさなのだろうな。


 でも……それでも俺は。


「まぁ……やらなかったら大変なことになるし。それに……」


「それに?」


「……何ていうか。たまにはレイが喜ぶことしてやりたいなって。こんな形とは言え、レイが俺にお願いしてきたんだ。だからその……俺はどれだけ笑われても良いから、歌配信をやり遂げたいなって思って……」


 気付けば俺はそう答えていた。もちろん『レイといぶっきーのパンツを覗いた』ことをみんなにバラされたくないってのが、一番の理由だけど……彩花の誕生日をお祝いをしたい、喜ぶプレゼントを上げたいって気持ちも確かに本心だった。


 それで……俺の言葉を聞いたロビンはハッとした表情をした後、今日一番の笑顔を見せた。多分俺の覚悟というか、何かそういう物を感じ取ったのだろう……そのまま、ロビンは笑い声を上げて。


「フフフッ……ルイボーイはレイ嬢にぞっこんなのだな?」


「なっ……べっ、別に!? 変な勘違いすんなよ!?」


 ロビンは俺の言葉には返事をせず、ただ「フフフ」と不気味に笑い続けて……こんな提案をしてきた。


「分かった。じゃあ一曲だけ決めて、その曲をひたすら練習しようじゃないか。曲が決まったら、我が丁寧に歌い方を教えてやる」


「えっ? 一曲?」


「ああ。今のルイボーイじゃ、何曲も詰め込むのは無理だと判断した」


「……でも一曲だけの歌枠とか聞いたこと無いんだけど」


「我は知ってるが……まぁ不満ならば、知ってるアニソンでかさ増ししようか」


「かさ増し言うな」


 ……でもロビンの言う通り、今から知らない曲を覚えるってのは相当大変だ。だから既に知っている曲を歌うのは、理にかなっているのだ。……上手さは置いといてな。


「とにかくだ。知ってる曲を何個か歌ってって……そして最後に。レイ嬢に届けたい歌を歌おう。練習すればきっと想いは伝わる筈だ! ……下手でも!」


「……最後の一言いる?」


「事実なんだから仕方ないだろう。それもまぁ、ルイボーイの努力次第だがな?」


 ニヤニヤしながらロビンは言う……努力しても無駄だと決めつけないだけ、まだ優しいのか?


「ああ……それで最後の曲は何にすれば良いんだ?」


「何でも良いが……希望が無いならこれとかはどうだ?」


 そしてロビンはデンモクを操作して、とある曲を俺に見せてくるのだった──。


「…………ああ、悪くないかもな」


「だろう?」


 ──


 それから数週間、ロビンと共に練習を重ねに重ね……彩花に「明日ゲリラ配信するから見てくれ」と伝えて……そして迎えた配信日。


「あー。どもども、こんルイ。今日は趣向を変えて、突発歌配信をやろうと思うぞ」


『えっ』

『うそだろ』

『ドッキリか?』

『タイトル二度見した』

『お前あれだけ歌避けてたのに……』

『画面外で銃向けられてる?』

『脅されてるならこっそりウインクしてくれ!!!!』


 俺の言葉にコメントはざわつき始める……どんだけ俺、信用ねぇんだよ。いやまぁ確かに歌はずっと避けていたけどさ。にしてもこんなに驚かれるものか?


 とりあえずルイ民を落ち着かせる為に……渋々俺は、今回の経緯を説明することにしたんだ。


「……何か変な憶測が飛び交ったら嫌だから話すけど。誕生日にレイから歌ってくれってお願いされたんだよ。それでまぁ……ちょっとやってみようかなって」


『あ~なるほどw』

『納得だわ』

『やっぱ(レイのこと)好きなんすねぇ』

『もう結婚しろよお前ら』

『結婚式配信マダー?』

『ルイを歌わせる程度の能力』

『黒魔術で操られてるんじゃなかったんですね!』


「うっせぇぞお前ら……あとな、今回の配信は切り抜きは禁止な! アーカイブもすぐに消すから!!」


『は?』

『は?』

『は?』

『それは助からない』

『レイ:は?』

『レイちゃんも見てます』


「それじゃあオープニングに時間かけてもアレだし、早速やるぞ……マイクの音量は大丈夫だよな?」


『うん』

『いいよ』

『はやく』

『ゲリラなのに一万人来てて草』

『そりゃルイが歌うってんなら来るでしょ』


 あまり同接は気にしないようにしていたが、どうやら沢山の人が来てくれてるらしい……普段の配信なら素直に喜んでたんだけどな!! もう今更引き返せないんだ……やってやる!!


「いくぞ、一曲目は……この曲だ!」


 そしてロビンに教わった通りにパソコンを操作し、人気アニメのオープニングの音源を流して……俺は魂を込めて歌うのだった────。



『きたあああああああああああ!!!!』

『うおおおおおおおおおおおおおおお!!!』

『草』

『草』

『草」 

『へったwwwww』

『ほろびのうた』

『音程が行方不明過ぎるwwwww』

『自信満々なのは評価したい』

『これ才能だろ』

『まだ引き出しあったのかよお前wwwww』





 ──

 ──

 【お知らせ!】 

 カクヨムコン8 ラブコメ部門 特別賞を頂きました!

 これも応援してくれた皆様のおかげです!! 本当にありがとう!!!!

 更新頻度は下がっちゃうかもしれませんが、更新は続けていきたいと思っているので、これからもよろしくお願いします!!!!

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