第91話 正直に言うぞ?

 ──そんな訳で後日。俺はとある人物をカラオケの一室に呼び出していた。


「フッ、待たせたなルイボーイ……!」


 みんな大好きロビン・フレイルである。ライブで圧倒的な歌唱力を知って以降、こいつのことを少し尊敬の眼差しで見るようになった……ってのは内緒な。


「ああ、急に呼び出してゴメンなロビン……ってかお前、二人の時くらいは普通に喋ったらどうだ?」


「ほう……?」


 無地の白シャツ+ヨレヨレのジーンズ姿のロビンは、対面のソファーに座って足を組み、考える素振りを見せた……と思ったらすぐに否定してきて。


「ン断るゥ」


「何でだよ」


「我の正体は謎に包まれていたいからな……そう、謎のベールに!」


「でも俺と初対面の時、本名名乗ってなかったか?」


「ん? ああ、あの時は配信中じゃなかったし……そんなこと言ったら、ルイボーイは本名で活動してるじゃないか」


「いや、俺の場合は仕方ないんだって……ってか何でルイが本名って知ってんだ」


「レイ嬢が教えてくれた」


「マジかアイツ」


 俺は頭を抱える……誰かアイツにプライバシーって物を教えてやってくれ。まぁロビンとかライバーに知られる分には全然良いんだけどさ……というか他のライバー同士って、名前とか知ってるものなんだろうか? 


 少し気になった俺は、そのことについてロビンに尋ねてみた。


「気になったんだけどさ、ライバー同士って本名知ってるものなのか?」


「まぁ知ってる人もいるが……知らない人の方が圧倒的に多数だな。やっぱり配信で言ってしまうリスクを考えて、我から聞くことはほとんど無い」


「なるほど」


 ロビンはその辺のリスク管理はしっかりしているらしい。まぁロビンも登録者50万人はいる人気者だし、ネットの立ち回りは上手なのだろう……やっぱ表でやりたい放題やってる人ほど、裏は丁寧って本当だったんだな。今度みんなにバラしてやろ。


 そしてロビンは続けて。


「それにもっと徹底してる人は、現実世界で会ってる時は偽名で呼び合ったり、近くに居てもメッセージで会話するらしいぞ」


「それは凄いな……ってかまぁ、街中でロビンとか呼んだら一瞬でバレるか」


「だな。我がペット扱いされてると思われるぞ」


「はは、じゃあ首輪でも付けるか?」


「フン……貴様に魔獣である我、ロビベロスを飼いならせるとは思えんがな!」


 予想以上にノリの良いロビンの返事に、思わず俺は吹き出してしまった。


「あははっ! やっぱブレないなーロビンは……まぁでも、次遊ぶ時までには偽名でも考えておこうな」


「……ああ!」


 ロビンは嬉しそうに頷く。こいつも根は素直で可愛いヤツなんだよな……絶対口にはしないけど。


「じゃあ早速本題に入るけど……説明すると長くなるけど、ちょっと俺とレイの間で色々あってさ。来月までに歌配信しなきゃ、俺が社会的に死ぬことになるんだ」


「……全く話が見えてこないのだが」


「要するに脅されてると思ってくれ」


「……何したんだ?」


 ロビンは訝しげに見つめてくる……まぁレイのフィギュアをあーだこーだしたとは、いくらロビン相手でも言えるわけもなく。俺は雑に誤魔化して。


「詳しくは聞かないでくれ……でさ。ロビンって歌上手だし、歌枠もやってて慣れてると思ったから、歌配信のやり方とか教えて欲しいなーって思って。ついでにここなら歌の練習も出来るかなって……もちろん今日は俺が全部出すからさ」


「えっ? 良いのか?」


「良いって、一応俺ここでバイトしてるんだ。だから少し安くなるんだよ」


 もうみんな忘れてると思うけど、俺はカラオケ店でバイトしている。最近はライバーの活動が忙しくて、ほとんど入れてないんだけどね……そしてそれを聞いたロビンは少し驚いた表情を見せて。


「ほう……そんな仕様があるのか。じゃあ言葉に甘えるとしよう」


「ああ。ロビンは遠慮がなくて良いや」


「いやいや、レジ前では財布出す素振りは見せるぞ? ……中身は入ってないが」


「終わってんじゃねぇか」


 そしてお互いに笑い合う。こいつの素の笑い声、ちょっとカッコよくて腹立つな。


「フフ、それでだルイボーイ……歌枠をやるのなら、何を歌うかを決めなきゃならないぞ。音源の準備も必要だ……まぁもし難しいようだったら、我が協力してやってもいいがな」


「いいの?」


「ああ。いつでも我を頼ってくれ。暇だし」


「暇なんだ……」


 ロビンってコラボとか公式番組とかに沢山呼ばれてる売れっ子だから、忙しい人なのかと思ってたけど、そんなことは無いらしい……もしかして俺に気を使っているのか? そもそも仕事を仕事だと思っていないのか……まぁ多分後者だろう。


 そしてロビンはマイクとデンモクを俺に渡し、ちょっとワクワクしたように。


「まぁまぁ、とりあえず一曲歌ってみてくれたまえよ。せっかく来たんだし……ルイボーイの歌声で、どんな曲が合うかも考えられるからな!」


「ああ、分かった。でも俺、最近の曲はサビしか知らないんだよな……」


 言いながら俺はタッチパネルを操作して、カテゴリから曲を探そうとする。うーん……俺が得意なジャンルは、Jポップでもロックでも無くて……。


「あっ、アニソンなら俺分かるぞ!」


「……えっ? アニソン?」


「ここを押して……よし、いくぞ!」


 俺は曲を選んでパネルを押す。そしたら無事に予約出来たようで、画面から昔見ていたアニメの映像と共に、アップテンポな音楽が流れるのだった────


 ──


「ふぅ……どうだった?」


 スッキリと歌い終わった俺は、彼に感想を聞いてみた……。


「……」


「ロビン?」


 だがロビンは目を伏せ、無言を貫いていた。もしかしてそんなに感動してくれたのかと、もう一度聞き返すと……ロビンはゆっくり俺の方を向いて。


「あのな……ルイボーイの為を思って正直に言うぞ?」


「うん」


「…………すっげーーーー下手!!!!」


「ええー!?」

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