第90話 騙したなお前ーーーッ!!!!!

 更にあの配信から二日経って……本日は彩花の誕生日。今日も彩花は俺の家に遊びに来ていた。俺はラッピングされたお菓子を彼女に手渡し、いつかのロビンが置いていった『本日の主役』たすきを彩花に掛けて、お祝いの言葉を発した。


「彩花、誕生日おめでとう」


「ふふっ、ありがとう! こうやって類が誕生日祝ってくれるのっていつ以来だっけ? パッとは思い出せないや!」


「あっ…………ごめんな?」


 長いことお祝いしていなかった時期のことを思い出し、俺は自責の念に苛まれてしまう……だけどそんな俺を見た彩花は、すぐにフォローしてくれて。


「ああ、いやいや! そんなつもりで言ったんじゃないってば! 全然気にしてないし! それに……またこんな風に祝ってくれて、私本当に嬉しいの!」


「……そっか。なら良かった。でも……せっかくの誕生日に、本当に俺だけで良かったのか? 別にカレンさんとか呼ぶことだって出来たのに……」


「いいの! 凸待ちで来てくれたし! それに……今日はレイじゃなくて私の誕生日だから! 類だけが良いんだよ!」


 そう言って彩花は顔をほころばせる。そんな真っ直ぐな彩花の言葉に照れてしまいそうになるが……俺は茶化すこと無く、その言葉を正面から受け止めた。


「ああ、分かった。……それでさ、誕生日ケーキとかは用意したんだけど。どうしてもプレゼントが間に合わなくて……」


「いいよいいよ! こうやって祝ってくれるだけでも嬉しいもん!」


 俺が言い終わる前に彩花は言葉を遮って、俺の肩を掴んできた。本当にコイツは優しいよな……と思ったのも束の間、そのまま肩をグワングワン揺らしてきた。俺は揺らされながらも……何とか喋り続けて。


「まぁ……ぶっちゃけそう言ってくれると思ってたんだけど。それでもクリスマスの時に高価なペンダント貰って、それで誕生日にお菓子だけってのは、俺の気が済まないから……」


 ここで俺は、揺らされていた彩花の手を払い。ちゃんと視線を合わせて。


「だから欲しい物があったら何でも言ってくれよ。後日渡すからさ」


 そしたら彩花はちょっとだけ困ったように……。


「えっ? でも欲しい物があったら自分で買うし……それに誕生日配信でスパチャ貰ったから、多分ガッポガポだよ?」


「お前……人前であんまそういうこと言うなよ?」


「あははっ、冗談だって。類以外の前では絶対言わないよ。でもプレゼントかー。だったらそうだなー……」


 そこで彩花は俺の方を向いて、ニヤーっと。


「類の歌ってみたが聴きたいな?」


「ええ……? 痛い目見たから、当分動画は上げるつもり無かったんだけど……」


「でもそのお願いを叶えられるのは類だけだし。それに歌をプレゼントなんて、とってもロマンチックじゃない?」


「そら、俺が歌うまバンドマンだったら感動モノだろうけどよ……」


 別に俺は歌が上手い訳でも、ましてやオリジナル曲を持っている訳でもない。だからそんなお願いをしてくること自体、意味が分からないのだが……。


「でもー、さっき何でもって言ってたし。類は可愛い彼女のお願い聞いてくれないの?」


「本当に可愛い子は、自分で可愛いとか言わねぇよ……」


「んー……じゃあ歌配信はどう? 歌枠取るの!」


「余計にハードル上がってない?」


 それじゃドア・イン・ザ・フェイスにすらなってないんだって……でも、配信ならアーカイブ消せばダメージは減るかもしれない。それにゲリラ配信すれば、視聴者も少ないからそこまで緊張もしないかも……って、何で俺はやる方向で考えてるんだ?


「ねぇ類、聞いてる?」


「ああ……じゃあ気が向いたらな?」


「うわっ、それ絶対にやらないやつだ!」


「やるって……何年後かに」


 そんな感じで先延ばしにしていたら、いつか忘れてくれるだろう……と思っていたのだが、それが逆に彩花の逆鱗に触れたようで……。


「あー! じゃあ来月までにやってくれなかったら、類がいぶっきーのフィギュアのパンツ覗いてたことみんなにバラすもーん!」


「いや止めろって!!!! それ一生軽蔑されるやつ……ってかお前が最初にやりだしただろ!? 俺覚えてるからな!?」


 確かに初デートの時、ディスプレイのフィギュアを下から覗こうとしたくだりはあったが……最初にしゃがんだのは、絶対に彩花が先だった。命賭けても良い。だが、彩花はあくまでもしらを切るようで。


「知らなーい! それにどうせ私のパンツも覗いてるんでしょ! このヘンタイ!」


「見てねぇって!! お前、言い掛かりもいい加減に……!」


「…………えっ。私のは見てないんだ。それはそれで……ちょっとショックだな」


「……えっ?」


 彩花は急に落ち込んだように、声のトーンを下げる……えっ、いや、何でこのタイミングで落ち込むんだよ!? 分からねぇ……女心が全く分からねぇって!!


「……」 


 えっ……そ、それでどうする……? ここは正直に言うのが正解なんだろうか……? ちゃんと言葉で伝えたら彩花のことが……レイのことが魅力的に見えるって、そうやって伝わるのだろうか……? ……ああクソ、もうどうにでもなれだ!!


 もう完全に吹っ切れた俺は、たどたどしい言葉で事実を伝えようとした……。


「やっ、あの……ち、ちゃんと見たぞ? お前のフィギュアが届いた初日に……」


「……!」


 それを聞いた彩花は、途端に口角を上げ……人を小馬鹿にするような表情に変わって。高らかに笑い声を上げて……。


「ふふっ……ははっ! あははははっ! ……嘘だよ! 類のドヘンタイ!!」


「なっ…………!? だっ、騙したなお前ーーーッ!!!!!」

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