第89話 レイちゃんのお誕生日配信!

 そんでもって本日、レイの誕生日。俺はパソコンでレイの配信をずっと見ていた。誕生日凸待ち配信ということで、レイの配信には多くのライバー、更には他事務所のVTuberや人気ストリーマー等、様々な人物がレイに凸していた。


「……アイツ、色んな人から好かれてんだなぁ……」


 笑顔で楽しそうに会話をしているレイを見て、思わず呟いていた。俺は彩花のことはそれなりに知っているつもりでいるが……レイのことは知らないことだらけなんじゃないかって思ってしまった。何かちょっと変な感じだ……。


 ……ああいや、嫉妬とかそんなんは全然無いからな? ホントに。うん。いや、マジで。


『ふぅー。数えてなかったけど、さっきのリリィちゃんを足したら20人くらいになるかな? 来てくれた人、本当にありがとね!』


 ……おっ、そろそろ締めに入りそうだ。流石に動かなければ……思った俺は少し急いでスマホを開き、レイが募集しているサーバーに入って通話を掛けてみた。そしたら少しのラグの後、配信画面のレイは反応を示して。


『おっ、駆け込みの凸が来たね! それじゃあこの方を最後にして、今日の配信はおしまいにしよっか!』


『おっ?』

『誰だー?』

『wkwk』

『もしかして……!』

『まぁアイツだろうなwww』

『主役は遅れてくるもの』


 期待でレイのコメ欄は爆速になる……おい、ハードル上げるなっての。変に緊張したくなかった俺は、コメントを見えないように配信画面をスクロールさせて……彼女の応答を待ったんだ。そしたら耳元からレイの声が聞こえてきて。


『もしもーし! お名前をお願いしまーす!』


「どうも、ルイ・アスティカです」


『……あー! はい、類が来てくれましたー!』


 ……ん? 何ださっきの間は。まぁ指摘する程でも無いが……そしてレイも特にその間に触れることなく、会話を進めていって。


『いやーよく来てくれたね! ワンチャン来ないんじゃないかって思ってたよ!』


「まぁ……お祝いするだけなら良いかなって。あと、行かなかったことで後からグチグチ言われてもヤダなって」


『もー。私の誕生日くらい素直になればいいのに?』


「……うっせー」


 レイは俺の言葉に笑い声を上げる……何か良いように操られてる気がするな。俺は視聴者の期待してる『てぇてぇ』なぞ、応えるつもりは全く無いというのに……。


『ふふっ! ちなみにだけどー類、どうしてギリギリに掛けてきたの?』


「えっ? えっと……忘れてたってか、知らなかったって言うか……」


『あー、じゃあ私の配信とか見てなかった訳だ?』


「ああ、そうだよ。俺だって忙しいんだって」


 本当は最初から配信見てたけど、そんなキモいこと言えるわけもなく……俺は適当に嘘をついて誤魔化した。だが、レイは何か引っかかることでもあったのか……更に探ってきて。


『じゃあさっきまで何してたの?』


「えっ? まぁ寝てたけど……」


『どれくらい?』


「ちょっと仮眠してただけだって……何でそんなこと聞いてくるんだよ?」


『……』


「レイ?」


 そしたら堪えきれなくなったのか、またレイは笑い声を上げて……。


『……ふふっ、あははっ! ね、類。ネタバラシしてあげるとね、さっきから私の配信の音が通話から聞こえて来てたんだ!』


「…………えっ?」


 慌てて俺は確認するが、確かにレイの配信は流したままだった……もちろんミュートにしてる訳もなく、よりにもよってスピーカーで流したままで。


「……」


 ……えーっと、要するに。俺が裏で流したままにしていた音声が、通話にも流れてたってことは。もちろんレイの配信にもその音声が流れてたってことで……つまり。俺が嘘をついてたことは、最初から視聴者含め全員にバレていた訳で。


『類、ずっと私の配信見てたでしょ? なのに「見てなかった」なんて嘘ついちゃって……カワイイとこあるね?』


「……ッ!!!!!?」


 俺は反射的に通話を切っていた。


 ……やべぇ。やっべぇ……!! またルイレイを盛り上げるような火種を自分から生み出してしまったぁ……!! バカぁ!! 配信付けっぱで通話するなんて、バカすぎだろ俺!!! それでも配信者か!?


 急いで俺は、付けっぱなしにしてたレイの配信を閉じるが、後の祭りで……上手い言い訳も思いつかず頭を抱えていると、今度はレイの方から電話が掛かってきた。ここで無視したらもう完全に逃げたと思われるので……俺は平静を装って応答したんだ。


「……もしもし?」


 そしたら案の定と言った所か、少し怒ったような口調のレイが出てきて。


『ちょっとー! 類! どうして切るの! まだ何も聞いてないじゃんか!』


「聞いてないって……何を?」


『お誕生日おめでとうの言葉をだよ!』


「……」


 ……ああ。そっか。すっかり忘れてた。今日はレイの誕生日だ。俺がどれだけ恥をかこうと……彼女に祝福の言葉を届けることは『ルイ』としての義務だ。だって彩花がレイじゃなかったら……俺はこの場に存在していないのだから。


「ああ…………誕生日おめでとう。これからも頑張れよ」


『うんっ! ありがと! ……ってもういないし!?』


 ……まぁ。俺のメンタルが持つかどうかはまた別の話な訳で。俺は言いたいことを言った後、すぐに通話を切ったのだった。






 ──後日、彩花から「あのシーンが一番コメント盛り上がってたよ!」と配信画面のスクショ付きでメッセージが届いていた。要らんわ、そんな報告。

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