第87話 こういった感じの子好きだなー!

 ──放送はまだ続いていて、レイはお便り読みを続けている。二人はレイに採用されたことで余裕が出てきたのか、緩みきった笑顔で配信を楽しんでいた。


「ふふっ! 後はルイさんだけですね!」


「でも来そうに無いですね……やはりパンチが足りなかったのでしょうか?」


「……」


 確かにいぶっきーの言う通り、俺のキャラクターが来そうな気配は全く無かった。でも二人が採用されただけでも凄いことだし……もう撮れ高としては十分と言って良いほど、映像が撮れているのには違いないんだけどな。


「……まぁ二人が採用されたのが凄いから! これだけで企画は大成功だから!」


「でもルイさん、悔しそうです……」


「もしかして泣いてます?」


「泣いてないから!! そんなレイに選ばれなかったから泣くなんて人いる!?」


 言うと、二人は真剣な顔に変わって……。


「います」「いるんじゃないですか?」


「……」


 二人に聞いたのが間違いだったかもしれない。今この場にいるのは、俺が頼れる先輩ライバーなんかではなく……ただのレイガール二人だ。


『じゃあ次のお便りは、べっきーさんからです! ……あっ、さっきもこの人いたね! 欲張りさんだ!』


「えっ?」「え?」


 画面の中のレイは、聞き覚えのあるペンネームを読み上げる……ここで俺とカレンさんは同時に、いぶっきーに視線を向けた。そしたら彼女は今日初めて見せる、ニヤっと口角を上げた悪い顔をしていて。


「……ふふっ。実はこっそりもう一通出していたんですよ。読まれなかったら黙ってるつもりだったんですけど……その必要もありませんでしたね?」


「えっ、そんなことを……!?」


 もちろんそのことは全く聞いてなかったし、カレンさんも俺と同じように驚いてるから、本当に知らなかったみたいだ。こんな隠し玉まで持っていたなんて、流石いぶっきーだ……そしてレイは続けて。


『えーと、彼の名前は太宰龍之介!』


「何でコナソみたいな命名なの?」


「家の本棚から決めました」


「マジだった」


 いぶっきーの家に文学小説置いてあるのは、解釈一致だけど……いや、そんなことよりも。俺はレイの言葉に耳を澄ました……。


『龍之介は照れ屋で本音を伝えるのが上手じゃないんです。でも誰よりも自分のことを思っていて、風邪を引いたら家に来てフルーツを置いていったり。借した漫画を曲げたらすごく謝って、同じヤツ買ってこようとするし。こっそり同じゲームを買って、先に攻略して自慢してくる可愛らしいところもあります』


「…………んっ?」 


 この話、どこかで聞いたことあるような……それに何だ? この得も言われぬ、ゾワゾワとした感覚は……?


「ふふっ、気づきました?」


「えっ、どういうことですか?」


 疑問の表情を浮かべたカレンさんは、いぶっきーに尋ねる。そしたら彼女は待ってましたと言わんばかりに、俺に視線を合わせて。


「実はこれ、ルイさんとレイのガチエピソードなんです」


「えっ!?」「なっ……!?」


 ……そう、そうだ!! 確かにこれらは、俺が彩花に対してやったことだ!! でも、これは小学生や中学時代の話だぞ!? どうしていぶっきーが知ってる……!?


「だよね!? えっ、何で知ってるの!?」


「昔、レイから聞きました。あと配信で話していたヤツもかき集めて……もちろんバレないように、私が考えたフェイクのエピソードもあります」


「…………はっ、ははっ。あははっ!」


 俺は感嘆の笑い声を上げながら、椅子から崩れ落ちた……なるほど。これはやられた。いぶっきーが熱狂的なレイガールであること……そして。俺を一泡吹かせたいと思わなけりゃ出来ない芸当だ。そんなことを顔色変えずに、短時間でやってのけた彼女は……天才的な変態だ。


「それをまんまとレイは採用した訳か……やっべぇ。何か凄い恥ずかしいんだけど」


 そしてレイの口から俺らのエピソードが語られる度に、俺は顔から火が出るほど恥ずかしくなってしまう。そんな俺を見たいぶっきーは、どこか誇らしげに笑って。


「ふふ、やりました。悶え苦しむが良いです」


「二つも採用されるなんて大成功ですね! 優勝は伊吹さんで間違いないです!」


「いや、企画とか関係なしにもうこれ、お蔵入りにしたいくらい恥ずかしいんすけど……」


「ダメです、私が許しません」


「はい……」


 先輩に言われちゃ反論出来ない訳で……そして画面のレイは感想を語っていって。


『……なるほどー。不器用でそっけない態度取りがちだけど、本当はとっても優しい人なんだね! 私、こういった感じの子好きだなー!』


「おいもう止めろってマジで!!!! 早く黙ってくれってレイ!!!!!」


 冷静じゃいられなくなった俺は頭を振り回しながら、声をかき消すように叫びまくる。そんな光景を見ていた二人は、見たことのないくらい大爆笑していた。


 ……そして数十分後。レイの配信も終わり、俺らも動画の締めに入ろうとしていた。


「じゃあルイさん、結果を発表してください!!」


「……えー。優勝は。二通もお便りを採用された、いぶっきーです!!」


「ふふーふ、やりました。……これ賞金とか無いんですか?」


「無い!!!!」


 ──


 そしてその後……俺は彩花にレイの配信を企画として使っていたことをチャットで伝え、動画を公開してもいいかの旨を聞いた。そしたら『そんなことしてたんだwwww!?』とめちゃくちゃ草を生やしてオッケーしてくれたので、動画を公開した。


 そしたら予想以上に動画は伸びて、なんかよく分かんないけど急上昇ってヤツに乗ったらしい。もちろんそれは嬉しいが……内容が内容なだけに、恥ずかしい気持ちの方が勝っていた。


 ちなみに動画を見た彩花からの感想は『もっとSEとか使ったら見やすくなるよ?』とマジなアドバイスだった。内容には一切触れてないから……あいつも恥ずかしかったんだろうか? 


 まぁ何にせよみんなの協力で、動画は大成功に終わったのだった……。


「……次の動画は一年後ぐらいかなぁ……」

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