第84話 理想の恋人を作ろう! その2
「そう、犬光シャイニーです! 年齢は年上ってことにしたいので、16歳くらいにしておきました!」
色々とツッコミどころは尽きないが……この場合の年上ってのは、VTuberのカレン・ストーリーとしての年上ってことだろう。まぁ実際のカレンさんは、それぐらいの年齢に見えるんだけどね……そして彼女は(架空の)恋人の解説を続けて。
「シャイニーは名前の通り明るい子で、いつもほわほわーってしてるから、クラスのみんなからよしよしされて可愛がられてるんです!」
「えーと……いわゆる犬系男子ってこと?」
「そうですね! でも、あざと過ぎないって所が重要です! シャイニーはそういうの一切狙ってないんですから!」
「そこ重要なんだ……」
狙った天然キャラじゃ駄目ってことなんだろうか。そしていぶっきーは探偵のように顎に手を当てて、考える表情を見せて……。
「……シャイニーさんの身長は低め?」
「そうです!」
「感情表現が豊かで、基本は笑顔?」
「はい!!」
「……肌は少し焼けている?」
「正解です!! もしかして伊吹さん見えてますか!? シャイニーが!?」
「やばい、二人が共鳴し始めた」
いぶっきーはランプの魔人っぽい質問で、シャイニーの特徴を当てていった。そしてカレンさんが喜ぶ度に、いぶっきーも気づかれないよう微笑んでいたのが、俺には見えていたんだ……実はいぶっきーって、感情が豊かだったりするのか?
「それでですね、シャイニーはアクティブだから遊ぶ時はだいたい外なんです。そこで二人でキャッチボールやフリスビーをやるんですよ!」
「犬じゃん」
「それで遊びに疲れたら原っぱに転がって、二人で青空を眺めるんです……途中でシャイニーが『あの雲、ソフトクリームみたいじゃない?』みたいなことを言ってくるんですけど、それが全然見えなくておかしいんですよー!」
「……存在しない記憶がどんどん生み出されてる」
この企画を思いついた時は、多少グダることも予想してたが……思った以上に、カレンさんの創作力が高くて驚いたよ……というかフィクションとリアルの狭間にあるエピソード作るの上手すぎじゃない? 小説とか書いてくれよ。
「しかしカレンさん、これだけだと友達の要素しかありませんよ。恋人らしい描写も加えるべきではありませんか?」
そんないぶっきーのアドバイスに、カレンさんはハッとした表情を見せて。
「あっ、確かにそうですね! じゃあシャイニーの男らしいエピソードを追加しましょう! シャイニーはですね、えーっと…………あの、アレです! 教室に入ってきたハチとかをサッと捕まえて、素早く追い出せます!」
それを聞いた俺といぶっきーは、顔を見合わせ……同時に笑い声を上げて。
「……あはははっ!」「……ふふっ」
「ちょ、何で笑うんですか!?」
「いやいや、カッコいいとは思うよ? ただ……」
「一発目にそれが出てくるのは、天才としか言えません」
「なんでですかー!! こう、サッとパッと逃がすのカッコいいでしょ!?」
恥ずかしいのか、珍しくカレンさんは頬を赤らめて、大きな声で言った。若干、カレンさんの思う男らしい要素がズレてる気がしないでもないが……まぁ面白いからオッケー。彩花も小学生が考えたような純粋なエピソードはきっと好みだろう。
「ひとまず一人は完成しましたね」
「だね。俺らもシャイニーに続こう……いや、続いて良いのか?」
「自問自答しないでください!!」
──
「出来ました」
「おっ」
そしてシャイニーに作り方のヒントを得たのか、俺より先にいぶっきーが書き上げたみたいだ。そしてカレンさんと同じように、スケッチブックをみんなに見せて。
「名前は
そこには八頭身の丸眼鏡をかけた、イケメン男子のイラストが描かれていたんだ。
「やっぱり名前に癖があるな……ってか絵うまっ!?」
「ほほう、なるほど、そう来ましたか……」
カレンさんは真剣な表情で身を乗り出し、スケッチブックを見つめる……なんか美術館に来た人みたいになってるよ。そしていぶっきーは解説を続けて。
「隼人は穏やかな性格で、老若男女誰に対しても優しい好青年です。でも少し消極的な部分があって、人と話すのはあまり得意じゃないんですよ……まぁただ一人、私を除いてはですが」
「おおー! すっごい良いです!!」
「じゃ、つまり……いぶっきーの前では元気ってこと?」
「そういう訳でもありません。私の前でもテンションは一定ですが……好きなことや興奮することを見つけると、言葉が止まらなくなっちゃうんです。そこで途中で噛んで、照れちゃったりすることもありますね」
そこでカレンさんは、拍手をしながら椅子から立ち上がって……。
「……非常に萌えます!!!!」
「ありがとうございます。きっと隼人も喜んでますよ」
まーた通じ合ってるよ……やっぱりこの二人って、相性良かったりするのか?
「それで隼人はインドア派なので、休日はほとんど家で過ごしています。同棲しているという設定なので、私も一緒に映画を見たりすることもあります……その時は直接的に誘ってくるのではなく『コーヒーあるけど、隣どうかな?』みたいな感じで遠回しに聞いてくるんです……オシャレですよね?」
「いや、知らんけど……」
「はい! 隼人さんの大人な感じ、伊吹さんに似合っています!」
「いえいえ。そちらのシャイニーさんも素敵ですよ?」
「……これいないからね? 想像上の話だからね!?」
なんか二人の作るエピソードが上手すぎて、マジでいる錯覚がするんですけど……これ動画にする時に『この恋人は存在していません』って字幕、ずっと付けておこうかな……ワンチャン、マジで勘違いする人出てきそうだもん……。
「……で、推理ものの映画とか見てる時、途中で『犯人分かっちゃったかも』とか言ってくるんです。そこで私が言わないでって言うと、ハッっとした顔で口を閉じます……かわいいですよね?」
「……」
「それで、映画が終わった後。『自分が予想してた人物と全く違った』って笑いながら言ってくれるんです。わざわざ正直に言わなくても気づかないのに……ほんっとかわいいですよね?」
「……知らん!!」
「ふふっ! これで伊吹さんも完成ですね!」
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