第82話 動画投稿してみたら?
──
案件から一週間後。俺の家に遊びに来てた彩花は、机に飾っていたルイのアクスタとレイのフィギュアを見つけるなり、嬉しそうな声を上げて机の方へと駆けていった。
「おおーっ! 飾ってくれてたんだー!」
「まぁな……つい昨日、案件で取ったやつが届いたんだ」
俺が説明をしている間にも、彩花はルイのアクスタを持ち上げ、まじまじと観察をしていた。レイのフィギュアにはあまり関心を示してないから……もしかしてこいつ、フィギュアの方は事前に貰っていたりするんだろうか?
「そうだったんだ! ……ね、類。これつぶやいたーに上げないの?」
「上げない」
「えっ、どうして?」
「だって恥ずかしいし」
そんな写真上げたら、またルイ民にイジられるし……あと、すぐに上げたらなんか届くの楽しみにしてたみたいに思われるじゃんか。いや、実際ちょっと楽しみだったけど……で、俺の言葉を聞いた彩花は、ちょっと不満そうに。
「えーいいじゃん! それだったら代わりに私が撮って……」
「それは駄目だって!」
俺は急いで彩花の言葉を遮った……何を言い出すんだコイツは。完全に俺の家だってこと忘れてるだろ。そんなもの彩花が上げたら、匂わせだの何だの言われて、大変なことになるんだって。……でも彩花なら、止めててもやりかねないし……それにコメントでも届いたら教えろって言われてたからなぁ……。
ここはリスク回避の為にも、自分で上げるべきだろうか……?
「……分かったよ。自分でやるって」
俺がそう言うと、彩花は分かりやすく嬉しそうな顔を見せて。
「ふふっ、良かった! ……あ、そうだ! 前に類、いぶっきーのフィギュアも取ったでしょ? アレも並べて写真撮ろうよ!」
そして彩花は別の所に飾っていた、いぶっきーのフィギュアを持ってきて、机に並べて飾るのだった。
「うん、いい感じ!」
「……」
センターにアクリルスタンドの俺がいて、その両脇にフィギュアのレイといぶっきーが立っているのは、非常にシュールな画であった。そのまま俺はスマホで写真を撮って……それをつぶやいたーにアップしようとした。
「ね、なんてコメント付けるの?」
「そうだな……『早く俺も立体的になりたい!』とかはどうだ?」
「……あはは、面白い」
「本気で思ってるなら、もっと感情込めて言ってくれ……」
──
今更だが彩花は、週に一回くらいのペースで俺の家に遊びに来ている。もちろんそれはライバーとしてではなく、友達……というかまぁ……恋人としてな。だからこうやって会ってる時は、あまり配信とかの話はしないのだが……それでも、たまーにすることはあって。
「……ね、類も動画投稿してみたら?」
不意に、スマホ片手に転がっていた彩花がそんなことを言ってきた。
「動画? どうして?」
「いやほら、リリィちゃんの『電流流しながらギター弾いてみた!!』って動画が凄い伸びてたからさ!」
「身体張りすぎだろ……」
何、そんな動画出してたのリリィのヤツ……でもタイトルだけでめっちゃ面白そう。後で彩花に動画のリンクでも送ってもらおうかな。
「だから、類もこのブームに乗って動画出してみたらどうかなって思って。たまには面白いかもよ!」
「んーまぁ……確かに配信ばかりだったし。動画に手を出してみるのも悪くないかもな」
「でしょでしょ!」
彩花は嬉しそうに言う……今気づいたけどコイツ、単に俺の動画が見たいだけじゃないのか? まぁ別にそれでも嫌な気持ちはしないけど……でもアイディアがなぁ。動画ってやっぱり企画とかが大事だし……ちょっと聞いてみるか。
「彩花って動画は上げたことあるのか?」
「うん、たくさんあるよ!」
「どんなの?」
「うーんとね、流行りの曲を歌ったり、モデル使って踊ってみたりだね! 企画とかはあまりやらないから、やってる人凄いなーって思うよ! ……ほら、こんなの!」
そして彩花はスマホで『レイ・アズリル』の動画一覧が映し出された画面を見せてくれた。スマホを受け取った俺はスクロールし、一通りサムネとタイトルを眺めていった。そこにはインターネット天使系の歌や、可愛すぎてサーセン的な歌ってみた動画が並んでいたんだ。俺は感心したように呟く……。
「おお、凄い女子女子してる……流石にこれは真似出来ないな」
「えー? 類がやったほうが絶対伸びるのにー」
「やらんわ」
そう言って、俺は彩花に軽くチョップした……確かに歌とかは伸びやすいかもしれないけど、まだ俺にはそういうのを上げる自信が無いんだよな……なら俺は企画力の方で勝負するしかないか。俺はスマホを返しながら、彩花に尋ねてみる。
「じゃあ彩花、最近の配信ってどんなことしてる?」
「配信? まぁゲームとか雑談配信とか……あ、もう少しでバレンタインだから、それに沿った配信はやりたいなーって思ってるけど」
「……また恋バナでもすんの?」
「ああいや、今回は趣向を変えてね、みんなが楽しめるように『架空の恋人とのエピソード聞かせて!』配信でもやろうかなって思って!」
「……なにそれ?」
なんかとんでもないワードが聞こえてきた気がしたんだけど。何……架空の恋人?
「だから頭の中で理想の恋人を作って、その妄想のエピソードを語り合って、みんなで『いいねー!』って言い合う回!」
「じゃあ……実際にはいないってこと?」
「うん! これだったら恋人がいない人でも楽しめるでしょ?」
「……レイガール達、訓練されすぎじゃない?」
確かにそれだったら非リアでも楽しめるかもしれないけど、レベルが高すぎるというか何というか……。
……あ。そうだ。この彩花の配信を使えば、俺の動画のネタに出来るんじゃないか? 相手が彩花なら、許可は動画アップ直前に取ればいいし……うん、それなら行けるかもしれない!
「まぁネタが無かったら、リスナーの力を借りるのも一つの手だよ……あ、類も配信来る?」
「遠慮しとく……でも。彩花のお陰で面白そうなアイディアは浮かんできたよ」
「ホント!? なら良かった!」
彩花は嬉しそうに手を叩く。そんな彼女を横目に、俺はスマホを手に取って、早速動画へ出て欲しい人物へとメッセージを送るのだった……。
──
一週間後。
「……えー。じゃあ。第一回!『レイの配信でお便り採用された人が勝ち選手権!』の撮影を始めたいと思いまーす」
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