第80話 俺のレイを返してよ!!

「まぁ……このままじゃ終われないのは俺も分かってるよ。ちゃんと実力で、デカい景品を取らなきゃな?」


 俺は自分のアクスタを獲得した後、トップページに戻ってスカサンコラボエリアをうろついていた。そこで目に入ったのはもちろん、例のレイのフィギュアで……。


『レイのフィギュア取ってください!』

『レイちゃんのフィギュアな?』

『さっきからバナーに表示されてるだろ』

『レイ取る為の案件じゃないのか?』

『見えないふりしないでください!!』


 そこまで言われちゃ、俺も無視出来ない訳で……。


「はいはい、レイのフィギュアね……言われると思ってたよ。俺は全ッッッッ然興味ないけど、そこまでやってほしいのなら仕方なく挑戦してやるよ」


『素直じゃないなぁ』

『どうして欲しいの一言が言えないんですか?』

『恥ずかしいんでしょ』

『照れ隠しだろ』

『ルイのツンデレは見飽きたぞ』


「何とでも言え……これだな」


 そして俺はレイのフィギュアをクリックして、クレーンゲームの画面に遷移させた。そこには二本の棒の上に置かれた白い箱、そしてさっきと同じように奥にはサンプルであろう、レイのフィギュアの画像が貼られていたんだ。


 それを見た俺は思わず声が出てしまう……。


「……おお。想像以上にクオリティ高いな。不覚にも可愛いと思ってしまった」


『いつも思ってんだろ?』

『言えたじゃねぇか……』

『めちゃめちゃ可愛いやん!!』

『魔術師の服の再現度すご!!』

『愛してるって言え』


「じゃあプレイしていくぞ……で、これは橋渡しって設定だな。だからこの箱を縦にしていく縦ハメって技を使わなきゃならない。だからまずはこうやって、片方のアームで手前に持っていってだ…………あっ」


 言いながら俺はプレイしていくが……上手く爪が入ったのかアームが強かったのか分からないが、予想以上に箱が動いてしまい……箱が横向きになってしまった。


『あっ』

『あ』

『動いたな』

『動きすぎなんだよなぁ……』


「横になったな……ま、まぁまだ慌てるような時間じゃない。ここから横ハメにシフトチェンジしていけば、何も問題ないんだ……」


 自分に言い聞かせるようにそう言って、続けてプレイしていくが……更に箱は二つの棒にハマってしまい、遂には全く動かなくなってしまったんだ。


「…………えー、どうしよ。ここは角を狙って、一度浮かせてから……いや駄目だ。ここから持ち直せるビジョンが全く見えない……!」


『ま、不味くねぇかこの状況……!』

『早くなんとかしてみせろ』

『まるで成長していない……』

『がんばれがんばれ♡』

『また神の手クルー?』


 確かにこのままつぎ込んでたら、またアシストはしてくれるだろうが……流石に連続でゴッドハンドを使うのは、案件としてどうなのかって話だ。だからここは確実に自分の力だけで取る必要があるんだ……!


『レイ:必死だね~? そんなに私が欲しいんだぁ?』

『お』

『きたあああああああああああ!!!!』

『レイ!?』

『レイちゃん来た!?』

『正妻降臨』

『おいルイ、彼女来たぞ』

『そりゃあ奥さんがフィギュアになってたら取るだろ』


 突如コメント速度が倍になったのが見えたので、俺はもう一つの画面に目を向ける。どうやらコメントの反応を見る限り、レイがコメントしに来たみたいで……。


「……何? レイが来た? ……別に。別に!? お前なんか欲しくねーし!? ルイ民が取って取ってって言うから、仕方なーくやってるだけだから……変な勘違いすんなよ!!?」


『草』

『小学生か?』

『もう素直になれよお前』

『俺らのせいにされても困るンゴ』

『じゃあ取ったら俺にくれよ』


「じゃあ取ったらくれって……それはヤダ!! 取ったら俺が転売してやるんだからな……ふはははははは!!」


『はい炎上』

『どうせそれも嘘だろ?』

『嘘だぞ、絶対ケースに入れて大切にするぞ』

『もう利益出ないほどプレイしてるんだよなぁ……』

『おい、早く金入れろ』

『ポイント入れなきゃ次の人に移るぞ?』

『時間見て!!!!』


「え、なになに……時間?」


 オンクレの画面を見ると、続けてプレイするかどうかを聞いてくる画面が表示されていた。いつも俺はノータイムで続けるボタンを押していたからじっくり見たことなかったが、もしや制限時間があったのか……!?


「やべっ、喋るのに夢中でポイント入れてなかった……!」


 そんなことを言っている間にも、画面上部にあるカウントダウンは進んでいく。残り時間は……一秒。


「クッ……間に合えええッ!!!!」


 ……だがプロゲーマー顔負けの高速マウスフリックをするも、ギリギリボタンには届かず、画面の表示は消えて。次の人に手番が回っていくのだった。


「…………な、なぁぁぁああああッ!!!」


『草』

『草』

『草』

『草』


 次の人に順番が回っていったことが受け入れられず、俺はモニターに縋りつきながら必死に言葉を発して……。


「……か、返してよ!!! 俺の……俺のレイを返してよ!!!!」


『草』

『何だその最終回っぽいセリフは』

『別にお前のではない』

『まぁお前のだけどさ……』

『どっちだよ』

『その言い回しは切り抜かれそうだなw』

『ルイ落ち着け、また予約して順番が回ってくるのを待てば良い』


「そ、そうだな! 待てば良いんだ! 俺が苦戦したこの形は、流石に誰も対処出来る訳が無いんだ……!」


 ……と、分かりやすいフラグを立てた瞬間、次のプレイヤーは箱と土台の棒の間にアームをねじ込む神業を見せ、全く動かなかった箱を少し浮かせてみせたんだ。


「…………えっ?」


『え』

『あっ』

『あ』

『動いた!?』

『上手いwwww』

『ウマすぎだろ!!!??』

『GG』


 それから配信者と思えないほど無言で、俺はその画面を見続けて……そして遂に。『ゴトン』と箱の落ちる音、景品獲得の表示が出たことにより、プレイしていた台を奪われたことを実感して……俺の精神は崩壊するのだった。


「…………あ、うああああぁぁぁぁぁああああああッッ!!!!」


『草』

『草』

『草』

『草』

『かわいそう』

『どうして絶叫ってこんなに面白いんだろうな?』

『はい切り抜きです』

『レイ:なんか……ゴメンね?』

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