第77話 来年もよろしくね!

 そしてロビンのソロ楽曲が終わった後は、参加していたライバーが全員ステージに出てきて。みんなで合唱曲を歌い、エンディングを迎えたんだ。その後『本日の配信は終了しました』の画面が出た後、俺らは拍手をしながら感想を言い合うのだった。


「いやー! めちゃくちゃ良かったなー!!」


「最高だったねー! 最後の曲もみんな個性が出て良かったよ!」


『888888888888』

『感動した!!!』

『ヤバすぎたな』

『これホントにタダで見て良かったんですか?』

『絶対円盤出るから焦んな……出るよね?』


 コメントは満場一致で大好評のようだった。もちろんそれは間違いないのだが……未だ俺は、放心状態のままでいたんだ。そんな俺を見かねたのか、七海さんは俺に話を振ってくれて。


「ルイ君はどうだった?」


「あ、えっと……とても良かったです。ただ、ロビンに圧倒され過ぎて……」


「あー。なるほど、確かにロビン君は頭一つ抜けている感はあったね?」


『確かにな』

『結局ロビンはあの人に会えたのか?』

『会えたか気になるよな』

『ロビンの目標が達成したら、辞めそうで怖い』

『歌手でもやってけるレベルだったもんな』


 俺もロビンがどうなったのかは気になるが……聞き出すのはきっと野暮だろう。彼から言ってくるのを待つ他ないだろうな。それでリリィは、俺の発言をフォローしてくれたみたいで。


「でも、他のみんなもとっても凄かったぞ! 次はあたしも絶対に出るからな!」


「いいねー。私もみんなが出るなら考えるかも……レイちゃん達は?」


 尋ねられた彩花は「えっと……」と一瞬だけこっちを見た後……決心したように。


「……うん。類が出るなら私も出たいな?」


『あ』

『あっ』

『こーれルイとレイのラインあります』

『人狼やってるヤツいて草』

『これで結婚してないってマジ?』

『これで逆に付き合ってない方が怖いわ』

『ルイとレイはただの同級生だぞ』

『は?それ公式が勝手に言ってるだけだから』

『無茶苦茶で草』


 一気にコメント欄が爆速になった。ホント分かりやすいヤツらだよ、お前らは……ため息を吐きながら俺は言う。


「お前らなぁ…………まぁ。前向きには考えておくよ。そもそもオファーがあるか分からないけどな?」


「じゃあ歌の練習しとかなきゃだね!」


「……まぁな」


「ふふっ!」


 俺の言葉に彩花は笑顔を見せた。はぁ。そんな顔見てしまったら……俺も頑張るしかないじゃないか。そしてリリィは俺らの顔を見合わせてきて。


「……で、これからどうするんだ? このまま年越しまで耐久配信するのかー?」


「いや、流石にそれはマズイだろ……一応事務所だしここ」


 俺らは場所を借りている立場だし、日を跨ぐまでいる訳にはいかないだろう……そのことはリリィも理解してくれたのか、次なる案を出してきて。


「じゃあこのままルイの家に直行するか!」


「確実に炎上するわ。年末に女の子三人家に連れ込んだら、もうそれは言い訳出来ないんだってば」


『草』

『ルイなら別に大丈夫だろ』

『レイちゃんいるし安心だな』

『ルイは信用できるからいいよ』

『むしろ連れ込んで配信続けてくれ!!!』

『燃えてもいいからやって♡』


「いや、お前らから妙に信用されてるのも怖いんだけどな……?」


 男女の関係に敏感な界隈であることは知ってるから……そんな信頼されると、逆に裏があるんじゃないかって怖くなってしまうよ……で、困っている所に七海さんが助け舟を出してくれたみたいで。


「リリ、ライブも終わったし今日の配信は終わっておこう。年明けてからまたみんなで集まれば良いんだしさ?」


 リリィも七海さんの言うことには、納得してくれたみたいで。


「んーそっか! じゃあこれぐらいで今日は終わっておこうか! ライブに出たみんな、本当にお疲れ様だぞ!」


『リリィちゃん達もお疲れさまやで』

『一緒に見れて楽しかったよ!』

『観覧組もお疲れー!』

『いい一日だった』

『楽しかった、ありがとね!』


「ん? あたしらは喋りながらお菓子食べてただけだぞ? でも、来てくれたみんなもありがとな! あたしもとっても楽しかったぞ! ……それじゃあお相手はリリィと!」


「七海とー?」


「レイと!」


「ルイでしたー。じゃあなー」


『乙~』

『おつリリ!』

『おつみん~』

『おつレイ!』

『おつらーめん!!!!』

『ルイ民だけ統率取れて無くて草』

『流石に今日はおつルイじゃなくておつ麺だろ』


 ──


 そして放送も終わって、俺は会議室の片付けをしていた。七海さんとリリィはパソコンを元の場所に戻しに行っていた為、会議室には俺と彩花しかいなかった。まぁ、だからと言って何かある訳じゃ無いんだけどな……。


「……ねっ、ありがとね、類。嬉しかったよ」


「え? なっ、何? 何のこと?」


 突然の感謝を素直に受け取ることも出来ず、俺はたじろいでしまった……何だろうと困惑してると、続けて彩花は口を開いて。


「私のことを待ち受けにしてくれたことも、ペンダントもこっそり付けてくれたのも。二人が居たから中々言い出せなかったけど、私嬉しかったんだよ?」


「……!」


 確かに俺の首元には、彩花から貰ったクローバーのペンダントが下げられていた。だけどそれは服の中に入れていたから、誰にも気づかれてないと思っていたんだが……やっぱりコイツの目は誤魔化せないなぁ。


「……別に。俺がしたかったからお前の写真を待ち受けにしたし、俺が付けたかったからペンダント付けただけだ。それ以上の意味は無いって」


 我ながら何とも苦しい言い訳だ。もちろん彩花は俺の照れ隠しなぞ、お見通しのようで……余裕っぽく微笑んで。


「ふふっ、それでも良いよ。それを伝えたかっただけだから」


「……」


 そのまま彩花は会議室の窓にもたれて、夜景を見ながら。


「もうすぐ年も明けるね……ホントにあっという間だったね?」


「……だな。本当に早いな」


「うん。あの初コラボから、もう半年は経ったのかー。なんだか感慨深いよ」


「ああ……」


 今でも昨日のことのように思い出すよ。ゲームで彩花をボコボコにしたことを…………あ、ダメだ。感動の回想シーンにしたかったけど、シーンがシーンなだけに、ギャグシーンにしかならないや。だって半泣きで叫んでる彩花の姿しか、俺の頭には思い浮かばないから……。


「……でも、まだまだ終わらないよ。来年はもっともっと楽しい年にするから! そのためには類の協力が不可欠だからね!」


「えっ、俺?」


「そうだよ! 類が来てくれたから、私はこの生活がもっと楽しくなったんだから! だから……来年もよろしくね、類!」


「……ああ。こちらこそだよ」


 俺はそう言って彩花の目を見た。言わずもがな、俺だって……彩花いるから、毎日がとっても楽しいんだよ。


 ……そして彩花は窓際から離れ、荷物を持って。


「よし、じゃあ帰ろっか!」


「あ、待て待て。七海さん達に挨拶してから帰ったほうが良いんじゃないのか?」


「大丈夫、片付け終わったらそのまま帰っていいって言ってたから!」


「そうなのか?」


 ひょっとして、七海さんが気でも利かせてくれたのか? 流石古参ルイ民……いや全然褒めてはないけど。でもまぁそういうことなら……。


「分かった、じゃあ帰ろうか」


「ふふっ、やったー。……ね、類」


「ん? ……わ、わぁっ!!?」


 ……と言った所で彩花が身体を寄せて、俺の手を掴んできて……その手を上着のポケットの中に入れてきた。そして中で手を絡ませて、いわゆる恋人つなぎをしてきたんだ……当然俺は混乱して、パニックになってしまう。


「ちょ、なっ、何を……!?」


 そんな俺を見た彩花は、小悪魔チックに笑顔を見せて。


「……ほら、類。騒ぐと誰かに気づかれちゃうよ?」


「お、お前……!? こんなの七海さん達に見られたら大変なことに……!?」


「じゃあ誰にも見られない内にエレベーター行こ?」


 ……無理やり振り払って、これ以上騒ぎを広げる訳には…………かくなる上は。


「……早く行くぞ!」


 そう言って俺は彩花の手を強く握り、急いで歩を進めたんだ。


「ああー! 歩くの早いってば、類ー!」


「頼むから静かにしてくれ……!!」


 …………ひとまずこれで今年の配信はおしまいだ。未来のことなんて分からないけど、来年は今年以上に楽しくて、もっと面白い配信が出来そうな気がする。全然根拠は無いけれど、それは自信を持って言える気がするよ……そんなことを思いながら俺は、事務所を後にするのだった……。


 ──


「…………なっ、なんだかスゴイものを見ちゃった気がするぞ!!?」


「ふふっ、リリ。こういう時は、見なかったことにするのが大人なんだよ?」




 ──

 ──


 キリが良いのでこれにて2章完結ですー。物語はまだまだ続きますが、新作というか外伝っぽいものも書いてみたくなったので、ちょっとだけ更新ペースが遅くなるかもしれません。ご了承ください~。

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