第76話 七海さんケモ耳デカいのね~

 ……そしてリリィに頼まれた俺は、パソコンをプロジェクターに接続させ、ライブ映像をスクリーンに映した。そのまま俺は電気を消し、四人並んで座って本配信を見ることにしたんだ。スクリーンでは豪華なステージ上で、羽の生えた妖精の女の子と糸目でヘアピンを付けた少年がMCを務めている最中だった。


「おー。話には聞いてたけど、かなり大掛かりなライブだねぇ」


「曲が始まる前にお菓子用意しておこう! なな姉、ポテチ開けてもいいか!」


「いいよ、全部開けちゃおうか?」


「……」


 そのやり取りを見た彩花は、変な対抗意識でも出てきたのか……俺の方を向いて決心したかのように。


「……よし、私らも食べよっか! ラーメン!」


「お前が食うんかい……まぁ事前にお湯は沸かしてたけどさ」


「さっすが類だね!」


 言って彩花は、カップラーメンを片手に指を鳴らす。この暗闇に乗じて、テンションでも上がってるのだろうか……?


「……ね、変な意味で捉えないでほしいんだけど、二人の距離って近いよね?」


「えっ?」「ええっ!?」


『急にぶっこんできて草』

『まぁ周知の事実だし……』

『公式カップルだと何度言えば』

『そういやなな姉は重度のルイ民だった』


 七海さんから言われた俺は、返事に困ってしまった……彩花は幼馴染だから、距離が近いのは当然っちゃ当然なのだが。この場でそう説明するのもなぁ……。


「まぁ……前から仲は良かったし、パーソナルスペースみたいなものは狭くなってるのかもしれませんね?」


「ああ、そうなんだねー?」


『そういうことじゃないだろw』

『まだ鈍感キャラやってるのかこいつは!!』

『物理的な距離じゃないと思うにゃ……』

『諦めろ、ルイはこういうやつさ』


 ……んで、次はリリィが変な対抗意識を出してきたのか。七海さんにハグをして。


「ん、負けてられないな、なな姉! あたしらも抱きつこう!」


「ふふっ、リリは単純で可愛いね。よしよし」


『あら^~』

『キマシ』

『てぇてぇなぁ……』

『浄化される』

『脳が回復する』

『おい、ライブ見ろよ』


 デュエリストっぽい人もいますと……まぁその通りなんだけど。


「確かにそろそろ歌が始まりそうだな……ラーメン作るなら今のうちだぞ?」


「うん! 類、ポットは?」


「あっちの部屋にあるぞ」


「分かった、じゃあ類の分も入れてくるよ!」


 言って彩花は立ち上がった。ついでに俺のも作ってくれるならと、俺はうまうまとんこつ改(カップバージョン)に手を伸ばそうとする……。


「ああ。じゃあ……」


「どうせ類はとんこつでしょ? 行ってくるね!」


 その前に彩花はうまとんを手に取って、部屋から出ていくのだった。


「何でアイツ、俺が食べたいの分かったんだ? ……もしやエスパーか!?」


『草』

『草』

『天然かコイツ』

『ルイのキャラが渋滞し過ぎな件』

『今更だけどマジでルイって強キャラ感無いよなw』

『通じ合ってるってことだよ、言わせんな』


 ──


 それから数分経ってオープニングトークも終わり、曲が流れ出した。どうやらトップバッターはケモ耳を生やした三人組の美少女のようで、ポップな曲を踊りを交えて歌っていた。途中で、七海さんは軽く解説をしてくれて。


「これは私が所属する『アニマル組』のメンバーだね」


「あ、そうなんですか。でも他のみんなは、ケモ耳生えてますよ?」


「私は自由自在に耳としっぽを出し入れ出来るんだよ」


「え、そうだったの!?」


『草』

『そういやそうだったなw』

『忘れてたわ』

『七海は中々生やしてくれないからな』

『七海さんケモ耳デカいのね~』


 そんな驚きの設定を前に、残りの二人は特に反応することなく……。


「可愛いなぁ……本当にアイドルみたい……ズズッ。ズズズッ」


「レイ……せめて歌ってる時は、食べるの止めような?」


「あ、ごめん。類みたいなことしちゃった」


『草』

『草』

『草』

『草』


 俺は何も言い返せなかったので、そのまま黙ってライブを見た……で、曲も終わり。歌い終わった後は、音楽番組のようにMCがアニマル組に向かって、インタビューをしていくのだった。俺らも感想を言い合う時間に入る……。


「いやー、すっごい良かったな! なな姉も出たくなったんじゃないか?」


「そうだねー。でも、後方腕組彼氏面するのも好きだし」


「なんだそれ?」


「んー、あいつの良さを分かってるのは俺だけだろうな……みたいな。いわゆるマイナーなVTuberを推してるファンみたいな心情……」


「七海さん、それ以上は多分マズイです」


 ──


 それからもライブは続いて、ライバーはアニソンやロック、ボカロ曲やアイドルの曲を歌っていった。みんな歌と踊りが上手くて、本当にアイドルと言っても差し支えないくらいだったんだ……何でライバーってこんなハイスペックなんだ?


「次は……あ、ロビンくんだって!」


「え、マジかよ……」


 そして司会の紹介でステージ上に現れた彼は、身体3Dモデルを大きく揺らし、どこぞのキングのヌーのボーカルのような登場をカマしてくるのだった。


「おお、中々のクレイジーっぷりだね?」


「しかもソロだぞ!」


 リリィの言葉で気づいたが、今まで出場したライバーは皆ユニットで歌っていた。それがソロ出演って……やっぱりコイツ、すげぇメンタルしてるよな……そのまま定位置に付いたロビンは、身体を仰け反らせたまま挨拶をして。


『どうも、ロビーン……フッーーフーーー!! フレイルだッ!!!』


「アガってねぇかアイツ」


「なんか途中で二段ジャンプしなかった?」


『草』

『草』

『草』

『草』


 そして緊張も収まったのか、演出だったのかは分からないが……ロビンは落ち着いた口調に戻って、語りだしたんだ。


『……ふぅ。歌う前に一つ、皆に話をさせてくれ。最近我はな、配信でライバーになった理由を明かしたんだ。それはとあるライバーに出会うため……その一心でここまで来た』


 ……ああ。あの時の話か。俺の家でやったオーウェン組コラボの話……。


『だがな、その方は引退して去ってしまったんだ。我が一流のライバーとして認められたら、また会ってくれると言い残してな……その日を目指し、我は練習に練習を重ねてきた……』


 そしてロビンはやっと顔を上げて。


『今日がその日なのかは我にも分からない……だけど! この日の為に命懸けて特訓してきたんだ! だから我の魂の歌、聞いてほしい!!』


『……ロビン・フレイルのオリジナル曲……「ソラに届くまで!」』


 ──そしてハイハットから始まったその曲は、一瞬で会場の、コメントの、俺達の空気を変え……サビのロビンの歌声で、一気に場を盛り上げたんだ。


「…………!」


 その光景に俺は……最後まで鳥肌が止まらなかった。度肝を抜かれた。いつもあんなにふざけているロビンに対して……一種の畏怖の念を覚えたんだ。

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