第75話 そうでしょ、ルイ君?

 ──


「……なるほど。それで私のことをアイドルだって誤魔化したんだね?」


「……ああ。だってお前を待ち受けにしてるのがバレたら、絶対リリィからイジられて、配信でバラされるって思ってさ……」


「あたしそんなに信用無いのか?」


 それで結局、俺は本当のことを話したんだ。彩花をスマホの壁紙に設定していたこと、そしてその正体がレイだと言うことをね……はぁ。いずれバレるのなら、変な嘘なんかつくんじゃ無かったかもな……まぁ今更後悔しても遅いんですけど。


 で、全貌を聞いた彩花は特に怒ったり照れたりする様子も見せずに……淡々と。


「……ま、別に悪い気はしないし。私は何とも思ってないけど……」


「けど?」


「類の弱みをまた一つ握っちゃったなーって思ってね?」


「お前なぁ……絶対言わないでくれよ……?」


 縋るように俺は言う。このことが漏れたら一生、視聴者からイジられる未来しか見えないからな……それで彩花はリリィの肩に手を置き、優しくお願いするように。


「だからさ、リリィちゃんも類のこと許してあげて欲しいな? きっと類、見られた時心臓バクバクで焦ってたと思うからさー?」


「いや、あたしは特に何とも思ってないけどな……あ、でもルイの嘘もすぐに信じられるぐらいレイの写真可愛かったぞ? 本当にアイドルかと思ったからな!」


 聞いた彩花は分かりやすく顔を赤らめ、身体をくねらせて……。


「え、えへっ!? そっ、そんな……いやいやいや、ほら! 七海ちゃんとかの方が絶対可愛いってば!!」


「いや、レイちゃんが一番だよ。そうでしょ、ルイ君?」


 何でここで俺にキラーパス出してくんのよ、七海さんはぁ……!!!? と、とにかく何か発さなければ……!!


「えっ、あっ、まぁ……そうなんじゃないんすか? 俺は知りませんけど」


「あ、逃げたね?」


 ──


 ライブ開始時間も近づいてきたので、リリィは配信を始めようとしていた。移動した机の上にパソコンとマイクを置き、その前に座ったリリィは元気に挨拶をする。


「こんにちは、こんばんは!! リリィ参上……ってことで、今日はみんなでスカサン年末ライブを同時視聴するぞっ!」


 そして画面上にはコメントが流れてきて。


『参上!!』

『さんじょう!!』

『いえーーーい!!』

『きたあー!!!!』

『二窓するぜ~』


「で、あたしの呼びかけで……なんと三人ものライバーが集まってくれたんだ! 紹介するぞ! なな姉とルイとレイだ!」


 リリィの合図により、並んで座っている俺らは順番に挨拶をする。


「やっほー」「ういーす」「こんばんはー!」


『カラフルな集まりだね!』

『不思議なメンバーだ~』

『レイちゃんいるじゃんー!』

『ルイのハーレム羨ましいぞ?』

『なな姉が他の人と絡むの久々じゃないか!』


 やっぱり、俺の配信とはちょっとコメントの雰囲気が違う気がするな……何でルイ民は辛辣なヤツが多いんだろうか? いや、別に嫌いでは無いけど……そういや七海さんのモデル見たことなかったけど、画面に映ってるこの子だろうか? 赤髪でコートを着たオッドアイの少女。確かにミステリアスで、七海さんの雰囲気に合ってるキャラクターだ。


「とりあえず今日は副音声みたいな感じで、ゆるゆるーっとやりたいと思ってるぞ! だから真剣に見たい人は本配信だけで見てくれよな!」


「そうだね! 主に私とリリィちゃんが騒がしくするだろうからね!」


「ああ! でもルイもなな姉も自由に喋ってくれよな!」


「はーい」「ああ」


 ……とは言っても、こんな陽キャに囲まれてちゃ俺の出番は少ないだろうな……思いながら俺は彩花が買ってきてくれたコーラを手に取り、紙コップに注いで飲もうとした……。


「あっ、類、私にもそれ注いで!」


「ああ……ちょっと待ってくれ」


「ルイ! あたしも! メロンソーダがいいな!」


「分かったよ……えーっとこれだな……」


「ルイ君。私もいいかな? ミルクティーをお願いするよ」 


「あっ、ハイ……ドリンクバーの機械って、常にこんな気持ちなのかな」


『草』

『草』

『草』

『おつかれ様やでルイ君』

『おっ、変異体か?』


 彩花とリリィは言わずもがなだけど……七海さんまでボケだしたら、結構大変なことにならない? だってミルクティーは七海さんの真ん前に置いてあるんだよ? はぁ……まぁ、頼まれたのならちゃんとお出ししますけどね。


 俺は全員分の飲み物を手際よく注いで、それを手渡していった。


「ふふっ、ありがと。じゃあ始まるまでお喋りでもしよっか?」


「いいな! ……ってルイ! これ炭酸が強すぎて口の中が痛いぞ!?」


「そんなの俺に言われても困るわい……」


「あははっ! ……ね、そういえばこれってリリィちゃんが企画したんだよね? どうしてやろうと思ったの?」


 笑いながら彩花は尋ねる……そしたらリリィは足をブラブラさせながら、ちょっとだけぼやくように。


「いやーあたしもライブすっごい出たかったけど、何かモデルが無いらしくてなー。だったら見る側として応援したいと思って、こんな提案をしてみたんだー!」


「そうだったんだね! きっと盛り上がるし、いい考えだよ!」


「そうか? ……で、まぁルイはあたしと同じ理由で出れなかったんだろうけど……二人は出なかったのに理由あるのか?」


『気になるね!』

『まぁ歌わない子もいるからねー』

『練習も大変だしな』

『お仕事が忙しかったとか?』


 確かに彩花が出なかった理由は気にはなるが……単純に忙しかったからだろうか?


「私は単に配信を優先したかったからね。レイちゃんは?」


「えっと、当時はあんまり乗り気じゃなかったっていうか……でも、もったいないことしちゃったかな。今では出てみたいって思うかも!」


「へぇー。それはどうして? 教えてよ?」


「えっ、それはまぁ……何と言うか……」


 おお、タジタジになってる彩花は新鮮だな。俺はコーラを流し込みながら、コメントに目を通してみる……。


『あんまりレイちゃんって歌系の番組は出ないよね?』

『ルイがいるから?』

『ルイと出たいんじゃないか?』

『ルイ加入前にライブオファー来てた可能性が微レ存』


 ……なーんか俺の所みたいなコメ欄になってきたな。ルイ民が遅れてやって来たのか? 


「コメントではルイが来たからって言われてるぞ!」


 ……で、よりによってそのコメント拾うんかい、リリィよ……俺はため息まじりに言葉を発す。


「別にレイはそんなこと言ってないだろ? 思うのは勝手だけど、変な願望を押し付けるのは良くないっての」


「ん、そっかー。じゃあこれ以上探るのは止めとくぞ!」


「ああ。みんなもリリィを見習ってくれよ?」


『ごめん』

『ごべーーん!!!』

『イケメンな対応だぁ』

『っぱルイよ』

『これは惚れますわ』


 まぁ弱み握られてるしな……っと言った所で、彩花はこっそりと俺の肩を叩いてきて。


「……ありがとね、類」


 と、小さな声でお礼を言ってきたんだ。俺は誰からも悟られないよう……無言で頷いた。


「……」


 そんなやりとりに唯一気づいていた七海さんは、俺と視線を合わせてきて。軽くウインクしてくるのだった……え、まさかこの展開までを読んでのあの発言だったって言うのか……!? 七海さん、思った以上に恐ろしい人なのかもしれない……。

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