第68話 イルミネーションとプレゼント

 ──


 ……そして帰り道。俺の両手には、大量の紙袋が握られていた。


「いっぱい買ったね!」


「ああ、お陰様でな……」


 結局俺は、彩花が選んでくれた服のほぼ全てを買っていた。もちろん財布にお金は入ってなかったから、カードを使ってな……ううっ、支払日が恐ろしいぜ……。そんなちょっと後悔して落ち込んでいる俺とは反対に、彩花は嬉しそうに微笑んで。


「でも、服を買ってくれて本当に良かったよ! だって類、昔から全くオシャレに興味無かったからさー?」


「まぁな……服なんて、着れりゃ何でも良いって思ってたからな」


 ぶっちゃけ今も考えはほとんど変わってないけど……でも、彩花の彼氏? になった以上は身だしなみくらいキチンとしないとなぁ、と思い始めていたのも事実である。まぁ……これも良い機会だったのかなぁ。


「ふふっ、それも類らしいけどね?」


「そうか……って彩花、駅はそっちじゃないぞ?」


 彩花が駅とは反対の方向に進んでいるのに気づいた俺は、慌てて彼女を引き止めようとしたが……。


「良いんだよ! こっち来て!」


 逆に彩花は俺を連れてこようと、袖を引っ張ってきたんだ。


「え、おいおい……!」


「いいからいいから!」


 言われるがまま引っ張られ、足を進めていくと……徐々に人が増えていることに気がついたんだ。何だ? 何かイベントでもやっているのか……?


「類、前見て!」


「えっ? あっ……!」


 そこには。


「これを見せたかったの! この時間ライトアップされてるって知ってたから!」


「…………わぁ」


 木や柵、クリスマスツリーに付けられた電飾が、青や緑に光っていて……幻想的な風景を生み出していたんだ。ああ、これがイルミネーションってやつか……こんな間近で見たのは初めてかもしれない。


「すげぇな……」


「でしょ!」


 ……正直、イルミネーションの良さってのはよく分かっていなかった。見ることも無かったし、見に行こうと思ったことも無かったから。『光るだけで何が面白いんだ』って。『光に集まるなんて虫と同じだろ』って、どっかで聞いたことあるような煽りを真に受けていたから。


 ……だけど。


「ホントに綺麗だね! 別世界みたい……!」


「……ああ」


 お前をこんな表情にさせるイルミネーションは、きっと素晴らしい物なんだろう。今日、俺はそれを確信したよ。


 ……そして一通りイルミネーションを眺めた後、彩花は俺の方に振り返って。


「よーし類、写真撮ろっか!」


「ああ……それは良いんだが。今更だけど、VTuberって現実世界の写真をつぶやいたーに上げても良いのか? イルミネーションもそうだし、コラボカフェでも散々撮ってたけど……」


「上げないよ?」


「えっ?」


「これは類との思い出のために撮った写真だもん。誰にも見せないよ?」


「……!」


 不意の彩花の言葉に胸がドキッっとしてしまう。や、やべぇ……何で照れてるんだよ、俺は!! しっかりしろ!!


「そ、そうか……」


「あっ、せっかくだし私達も撮ってもらおうよ! イルミネーションをバックにしてさ!」


「え、私達って……?」


 俺が言い終わる前に彩花は小走りで若いカップルに近づき、声を掛けていた。そしてすぐに両手で丸のジェスチャーをしながら戻ってきて……。


「撮ってくれるって!」


「え、ええ……?」


 困惑しながら向こうを見ると、そのカップルの女性は彩花のスマホを手にしていた。え、撮ってもらうってそういうことかよ……!? そして女性はカメラを向けて「撮りますよー」と声を掛けてきて……。


「ほらほら類、笑って!」


「え、あっ、ぴ、ピース……」


 俺はあからさまな作り笑顔でピースをした。色々急展開過ぎて……脳が追いついていなかったのだ。……そして何枚か撮った後、彩花はそのカップルと会話をして。


「良かったら私も撮りますよ!」


「本当? 助かるよー!」


「いえいえ! あっ、アプリはこれで良いですか?」


「うん!」


 ……な、何だこのコミュ力お化けは……! 俺、何も喋れないんですけど……。


「いきますよー!」


「はーい!」


 そして彩花は、俺らと同じようにカップルの写真を撮って。スマホを返し、彩花達は笑顔で別れるのであった。二人に手を振っている彩花に対して、俺は呟く……。


「いや、すげぇなお前……」


「え? これくらい普通だよー? 助け合いの精神、ってやつ!」


「そ、そっか……普通なのか……」


 平然と言ってのける彩花に驚いてしまう……俺だったら絶対に声掛けれねぇよ。知らない人に頼むくらいなら、自分で三脚を用意する方を選ぶもの……そして彩花は撮ってもらった写真を確認しながら、満足そうに。


「おおー良い感じに撮れてる! 後で類にも写真送っとくね!」


「ああ、ありがとな……じゃあもう寒いし、そろそろ帰るとしようか」


 俺は彩花にそう言って、駅へ足を進めようとした……だけど。


「あっ…………待って!」


「えっ?」


 彩花の言葉に足を止めざるを得なかったんだ。振り返ると、彼女はいつの間にか真剣な面持ちに変わっていて……。


「……渡したい物があるの!」


「渡したい物?」


「うん」


 そう言って彩花は、ポケットから白い四角の箱を取り出した。それが何なのか、俺には皆目検討がつかなかったんだ……指を差して俺は尋ねてみる。


「それは……?」


「……」


 聞いても彩花は答えないまま、それを俺に差し出してきて……ちょっと顔を赤くして、視線を逸しながら……こうやって発したんだ。









「クリスマスプレゼントだよ、類。受け取って……欲しいな?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る