第67話 これが職業病?

 ──


 自由行動の間、俺は本屋で時間を潰してた。一瞬、彩花を尾行してみようかとも考えたが……本人は隠したがってたみたいだし、変なことはしないでおいた。まぁ尾行がバレたらきっと大変なことになってただろうから……正しい判断したと思うよ。


「……」


 思いながら本棚を眺める。何か漫画でも揃えて、面白かった物をルイ民に紹介でも出来たら良いんだけどな……あっ、逆にルイ民からオススメ聞いたり、他ライバーからオススメの漫画をプレゼンしてもらったら、企画として成り立つんじゃ……?


「……って。本当に変わっちまったな、俺は」


 見る物全て、配信に関連付けてしまう自分に驚いてしまった。これが職業病ってやつなんだろうか? まだVTuberになってからそんなに経ってないってのに……はぁ。とりあえず今はライバーのことは忘れて、読みたい本でも探してみようかな。


「どれどれ……」


 何気なしに、近くに積まれてあった漫画を手に取った俺は、帯に見知ったキャラクターが描かれているのに気が付いたんだ……。


『厨二病VTuber、ロビン・フレイル絶賛!!!! 「こんな異能力バトル、今まで見たこと無いぞッ!!」』


 …………に、逃げ場がねぇ……!!


 ──


「あっ、類。待った?」


 それから二十分くらい経って、彩花も本屋にやって来ていた。用事はもう済んだのだろうか? 俺は本棚から彩花に視線を向けて、言葉を発す。


「いや、別に……どこ行ってたんだ?」


「んー……内緒!」


「そうか……それよりこれ見てくれよ!」


 そこで俺はさっき見つけた、ロビンの帯コメントが付いている漫画を彩花に見せつけた。手に取った彩花は、そこまで驚いた様子は見せずに……「おー」と軽い感嘆の声を上げて。


「ロビンくんだ。帯コメント書いてたなんて、全然知らなかったよー?」


「えっ、そんな反応か? もっと驚いたりするかと思ったぞ?」


「んーまぁ、私もたまにコメント書いたりするからね?」


「なっ……!?」


 一瞬思考が止まる……うっ、嘘だろ……!? 彩花にそんな大役を任して良いのかよ……!? 


「……」


 ……彩花はどんな本にコメントを書いたのか、どんなことを書いたのか、俺もそんな仕事欲しいんだけどどうしたら良いんすか……色々聞いてみたいことが溢れてきたが……ここが本屋だと思い出した俺は、冷静にこう口にしていた。


「こっ……この話は今度な?」


「あっ、そっか。人いるもんね?」


 彩花は察してくれたらしく、そう言って漫画を元の場所に戻した。続けて彩花は、次の行き先を俺に訪ねてきて。


「それで、次はどこ行く?」


「そうだな……服屋でも行こうか」


「おお、雑貨屋さんは行かないの?」


「雑貨屋はいつでも行けるし……せっかくなら、彩花に服とか選んでもらえたらなって思ってさ……いいか?」


 そんな俺の提案が面白かったのか……彩花はニヤーっと口角を上げて。


「んふふっ! 類も素直なとこあるじゃん!」


「……うるせー」


「もしかして照れてるの?」


「いいから行くぞ……」


「ああ、待ってよー!」


 ──


 ……そんなこんなでやって来ました、オシャレな服屋。彩花はペンキをぶっかけたような全身虹色の服を取って、俺に見せてくる。


「類、これとかどう?」


「いや、そんな派手な服着れないって……」


「だからだよー。もっとド派手になれば、類もイケイケになるんじゃないかなって思ってー?」


「別に俺はイケイケになりたい訳じゃなくて、ただ合った服を選んでほしいだけなんだ……」


 ため息交じりに俺は呟く……やっぱり彩花と来たのは間違いだったか? でも一人だとセンスがあるか無いかを判断する以前に、こんな服屋に入る勇気が出てこないんだよ……はぁ。何だか自分が情けなくなってきたぞ。


「そっかー。あ、このジャケットカッコいいかも! 類着てみて!」


「ああ……」


 言われるがまま、彩花が取った紺色のジャケットに袖を通してみる。それを見た彩花は手を合わせて、大げさにピョンと飛び跳ねて。


「良いじゃん良いじゃん! これに白のシャツ合わせたら……すっごい似合うよ!」


 笑顔でそう言って、そのまま俺が脱いだジャケットとシャツをカゴに詰め込んだ……いや、似合うって言ってくれるのは嬉しいけど……高くない? このカゴに入ってるものだけで、ゲーム何本か買えるぞ? 


 ……そういう計算が、オタクっぽいのだろうか?


「なぁ……彩花は、俺がこういうの着てたらどう思う?」


「ん? そりゃ嬉しいよ! だって類、磨けばカッコいいんだから!」 


「……! …………そっか。分かった、これ買うよ!」


 彩花の言葉で少しの自信を取り戻した俺は、選んでくれた物を買うことに決めた。自分でも驚くほど、単純なヤツである……で、聞いた彩花は大げさに喜んでくれて。


「おおー!! ホント!? じゃあ似合うジーンズも買っちゃおっか!」


「……」


 ……だからお金無いって、何回言えば良いんだよ。


「ふふっ! これも合うと思うし……これも! 類がちょっとでもオシャレに興味持ってくれて嬉しいなっ!」


「……」


 でも彩花、あんなに嬉しそうだし……まぁ。どうにでもなれだ……カードってまだ使えたっけ……。


「それより……彩花は何か買わなくて良いのか?」


「えっ? 私は別にいいかなーって。最近も買ったし! それとも……何か私に着てほしい洋服とかあるの?」


「……」


 え、何だ急に……着てほしい服? そりゃ無いって言ったら嘘になるけど……ここで「彩花のメイド服か水着が見たい」なんて言った日にゃ、一生軽蔑の目で見られること間違いなしだから、下手なことは言えない訳で…………。


「メイド服とか?」


「……ッ!!!?」


 分かりやすく俺は動揺を見せる。きっと彩花は勘で言ったのだろうが……顔に書いてるほど表情に出ていたのかと思ってしまって、恥ずかしくなったんだ。


「あ、当たったんだ……やっぱ類って単純……」


 そして的中したことを察した彩花も、同じ様に顔を赤くして俯いていた…………何だこれ。どういう状況? ……それで俺らは数十秒黙り込んだ後、彩花の方から口を開いてくれて。


「……ま、まぁ。勝負に負けたのは事実だし……類も配信の場だったから、過激な命令出来なかっただろうから……それくらいなら……着てもいいけど?」


「…………マジ?」


「うん……あっ、もちろんこんなことしてあげるの類だけなんだからね!?」


「……」


 彩花のこんなベタなツンデレ……初めて見た。ともかく……いつかメイド服のコスプレしてくれるみたいだぞ。やったね!!!!

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