第63話 見知った顔の美少女

 それから数日が経って……12月後半。俺は彩花とのデートのため、巨大なショッピングモールへと訪れていた。ここは映画館や劇場、飲食店やゲーセンなど楽しめる施設が多くあるため、デートには最適な場所だと思ったのだが……。


「……ミスったか?」


 どうも辺りには家族連れや女子高生の集まりなんかが多く、男女のカップルで来てそうな人は中々見かけなかった。まぁいるにはいるんだろうけど……そういう人らはもっとおしゃれなスポットに出かけてるのかなぁ。


 ……いやでも俺、デートスポットとか知らないし。遊園地とか行くお金もないし。彩花は俺に全部任せるって言ってたから、ここになったのは仕方ないんだよ! ……まぁ相手は彩花だし。中学生みたいなデートが、俺らには丁度いいのかもしれないな……。


「…………わっ!」


「うわあぁあっ!!?」


 突然背後から聞こえた声に俺は驚き、身体を跳ねさせながら後ろを振り向く。そこには……。


「あははっ! 驚き過ぎだよ、類!」


 ベージュのニットカーディガンに赤色のロングスカート、頭には白のキャスケットを被った彩花の姿があった。体勢を整えながら、俺は言葉を発す。


「あ、彩花……お前、俺じゃなかったらどうしてたんだよ?」


「えー? 類なんてどれだけ離れてても、一瞬で分かるよ?」


「えっ……そんなにダサいか、俺?」


「類は卑屈だねぇ……」


 ため息交じりにそう言われるが……正直、彩花と比べるのもおこがましいほど、俺の服装はイケていなかった。彩花だって腰にパーカー巻いて、髪に大きなリボンのカチューシャ付けてた時期もあったのに……今じゃすっかりおしゃれになってるもんなぁ。あの時から時間が止まってるのは、俺だけなんだろうか? というかセンスって今からでも磨けるものなんだろうか……。


「……それよりさ、類。何か私に言うことない?」


「えっ? えっと……ごめんな?」


「いや、何で謝るの! ほら! もっと私を見てよ?」


 ん? ……ああ。もしかして服装を褒めてほしいのだろうか。案外、彩花も可愛い所あるもんだな。


「ああ……良く似合ってると思うぞ?」


「……」


 すると無言の上目遣いで訴えてきた。これは『もう一声』の目だ……はぁ。俺も段々と彩花のことが分かってきたなぁ……。


「……とっても可愛いぞ、彩花」


「えー、えへへっ、そーかなー?」


 そしたら露骨に機嫌が良くなって、照れたように笑顔を見せてきた。ホント単純で助かるよコイツは……そしてそのまま、彩花は俺の手を握ってきて。


「ふふっ、それじゃあ早速行こっか! 類が勝ったんだから、今日は類が行き先決めてよね!」


「え、ああ。勝ったのは俺だけど……良いのか? お前が行きたい場所とかあったら、全然そっち行ってもいいんだけど」


「いいの! 類が行きたい場所連れてって! じゃないと勝負した意味も無いじゃん!」


「あ、そう……分かったよ」


 そこまで勝敗にこだわる意味もよく分からないが、彩花がそうしてほしいのなら俺がリードしてやろう……そう思いながら俺は彩花の手を引いて、とある場所へと向かうのであった。


 ──


「……すっごいうるさいね!」


「まぁ、そういう場所だしな」


 ……で、やって来ましたゲームセンター。学生の頃によく一人でゲーセンに通っていたため、この騒音もあまり苦には感じない。むしろ筐体から放たれる光や音に興奮して、若干テンションが上がっている気すらする。


 それでゲーセン内を歩きながら、彩花は俺に話しかけてきた。


「でも初っ端からゲーセン連れて来るのは、流石類って感じだね?」


「どういう意味だ?」


「だってー、もしも大きいぬいぐるみとか取ったら、それをずっと持って動かないといけなくなるし。逆に何も取れなかったら、テンション下がったまま一日過ごすことになるし……」


「……」


 ああ……全く考えてなかった。そっかぁ、世の男性はそういうことを考えた上で、色々とルートを構築しているんだなぁ……勉強になるよ。


「……じゃあ別の場所から行くか?」


「いいよ、全部類に任せるって言ったし。それにその方が予想外で面白そうだもん?」


「あ、そう……じゃあさっきの言葉は、言わなくて良かったんじゃないか?」


「デート初心者の類に、わざわざ教えてあげたんだよ?」


「……」


 なんか言い方腹立つなぁ……って、え? 初心者って……。 


「じゃあお前は初心者じゃないのか?」


「違うよ? だって調べたもん!」


「……調べた?」


「うん! だってあのシュプラ勝負、私が絶対勝つと思ったから! だから事前に色々なデートスポットとかプランとか、やっちゃ駄目な行動とか調べてたんだよ! だから絶対、類よりデートには詳しいよ!」


 …………調べてたって。それ……それッ……!!


「……お前も初心者じゃねーかっ!!」


「えっ?」


「いやえっ、じゃなくて……じゃあお前、誰かとデートしたことあるのかよ?」


「んー……」


 彩花はしばらく考える素振りを見せた後……ポツリと。


「……無いかも」


「やっぱないんかい」


「あっ、でもお家で一緒に遊んだり、一緒に寝たりしたことならあるけど……」


「は、はぁっ!? 誰だよそいつ……!?」


「類だよ?」


「俺かいっ」


 思わず漫画みたいな転び方しそうになった。漫才やってるんじゃねーんだぞ。


「はぁ……まぁとにかく。かさばるのが嫌なら、クレーンゲーム以外の遊びだってあるし。ほら、あそこのホッケーとかやるのも悪くないんじゃ──」


「あっ!!! ねぇ、類あれ見てよ!!」


 突如、彩花の大きな声に言葉が遮られる。その彩花の指差した先には、クレーンゲームの筐体があって……。


「えっ? クレーンゲームはやらないんじゃなかったのか?」


「いいから!! 景品見てよ!!」


「景品?」


 首を傾げながら俺はそれに近づいてみる。そしてその中を覗いてみると……の美少女キャラクターが見えてきて──。


「なっ……いぶっきー!?」


「だよね!? いぶっきーだよねこれ!?」


 黒髪で二つ結びの制服少女……我らがスカイサンライバーの大先輩、基山伊吹さんのフィギュアがそこには置かれていたのであった。

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