第60話 ルイ軍の反撃はこれからだ────

「いやっ、そんなの無茶だろ!? ライムを無視して戦うなんて……メッシをフリーにするようなモノだ! 点を取ってくれって言ってるのと同じだろ!?」


 大きな声でリリィは反論してくる。その例えが合ってるかはともかく……これはサッカーじゃなくて、シュプラというゲームだってことを忘れてはならない。


「無茶かもしれないが、無謀な訳じゃない。さっきから俺らは来夢さんを狙って、倒しに行った。だけど返り討ちにされて、デスの回数が増えて俺らは負けた……だから! 今回は来夢さんじゃないあの三人を集中的に狙うんだ!」


「ええ、悪くないかもしれません。スナイパー一人じゃ塗りも強くありませんし……私らが他メンバーをキルし続けたら、彼女も動かざるを得ませんからね」


 いぶっきーは俺の考えを理解してくれているのか、俺の言いたいことを全部言ってくれた。流石いぶっきー、頼りになる。


「その通りだ! まずは三人を倒して人数不利を狙う……そしてたまらず来夢さんが出てきた時は、スペシャル技でぶっ潰すんだ! どうだ、良い作戦だろ!!」


『上手くいくのか……?』

『机上の空論ってやつ』

『そんなので勝てるのか?』

『でもこのゲームはキルしてるだけじゃ勝てないからな』

『結局は無視してなくて草』


 『結局は無視してなくて草』……まぁ確かにそうだが、俺が伝えたかったのは『自分から無理に来夢さんを倒しに行かない』ってことだ。スナイパーの照準が見えたら鬱陶しくなるのは分かるが、そこで正面から突っ込んで行くのが一番駄目なんだよ。こっちのブキは全員短射程だし……それで、リリィも何とか納得してくれたみたいで。


「んん……分かったよ、ルイ。つまりはレイ達三人を素早くキルするのが、勝つための絶対条件ってことだろ?」


「ああ、そういうことだ。来夢さんに撃ち抜かれるのはもう仕方ないと割り切るが……レイ、ロビン、カレンさんの対面は絶対に負けられない。負けても、位置やダメージ報告は確実に頼んだぞ」


 俺の言葉にいぶっきーとリリィは返事をする。後は……。


「もちも大丈夫か?」


「あーうん……分かったけど、ルイルイに相談というか、やりたいことがあってさ」


「何だ?」


「ブキ変えても良い?」


『え』

『なにっ!?』

『このタイミングで!?』

『いや、悪くないかも』

『もう相手のブキも分かりきってるし、良いかもしれない』

『アリよりのアリ』

『でも立ち回り変わるんじゃないか?』


 ここでブキ変更か……確かに別のブキを持ったら、練習通りの動きが出来なくなる可能性があるが……。


「いいよ!!」


 面白そうだから許可しよう。俺だってこの作戦が本気で上手くいくだなんて思ってない……一種の博打みたいな所もあるから、どうせなら後悔しない方を選んで欲しいんだ。それで……俺から許可を貰ったもちは嬉しそうに笑って。


「ふふー、やったね。もちの切り札見せてあげるよ?」


「ちなみにもちさんは、何のブキを使うつもりですか?」


「シュプシュだね」


「言いにくっ」


(シュプシュ……スタンダードな攻撃寄りのブキ。塗りや機動力も標準以上ある)


 確かにシュプシュは扱いやすいから、初心者向きでもあるが……さっきまでもちが使っていた『かえでシューター』よりも弾がまっすぐ飛ぶため、キル性能は上がるがサポート性能が下がる。つまり彼女自身もキルをして、チームに貢献する必要があるのだ。


「なるほど。頼んだぞ、もち」


「ふふっ、今日は主役になっちゃうよー?」


 もちがそう言った後、ゲーム画面ではもちのキャラクターの持ちブキが変わるのだった……あ、いや、これダジャレじゃないからな?


「相手、準備出来たみたいです」


「よし、これがホントの最終決戦だ……勝とうな、みんな!」


「うん。ルイルイの為にも勝ちたいね?」


「焼肉のこと忘れてないからな、ルイ!」


「…………ああ!」


「何だその間は」


 ──


 そして今にも試合が開始されようとしていた。ルールは『マジエリア』固定で、ステージはランダム。スナイパーが強いステージが選ばれたら、かなり厳しい戦いになると思ったのだが……選ばれたのは。


「あっ『フエフキ市場』ですね」


「懐かしいな……あたしらが初勝利を収めたステージだ!」


「懐かしいってか3日前の話だけどな……」


 言いながら俺は思考する……このステージは縦長だが、スナイパーの強いポジションは限られているし、裏取りのルートもある。だから、勝てる可能性は十分にある!


「スタートだ!」


 始まりの合図に出遅れることなく、四人は一斉に飛び出す。そして地面を塗りながら全員で、中央のエリアに向かっていった。


「うわ、もう高台に来夢ちゃんいるね?」


「後方だからこっちから狙わなくて良い……遮蔽物に隠れて他の敵をおびき寄せるんだ!」


「了解です」


「でもエリア取られちゃうぞ!」


 リリィの言う通り、迂闊に前線に上がれない俺達に対して、相手はどんどん押し込んで来ようとする。このままだとエリアを取られるのは時間の問題だが……。


「取られて良い! 更に上がってきた所を全員で叩くんだ!」


「分かった!」


「正面、ロビンさんいます」


「おっけ、フォーカスしよう!」


『声掛けがガチだ』

『本気で勝ちに来てるな』

『大会並の緊張感』

『今んとこ指示は悪くない』

『流石にロビン上がりすぎだろ』

『弓使ってると気持ちよくなるからな』


 そう。弓は塗りが強い半面、戦闘能力は低い。乱戦状態なら尚更……!


「……やった! 弓やったよ!」


 珍しく感情を全面に出した、もちのキル報告が俺の耳に入る。


「ナイス!」


「スペシャル溜まりました。ミサイル行きます」


「ロックオン、左に潜伏二人だな!」


「おっけ、一緒に叩くぞリリィ!」


「うん!」


 俺らはミサイルの飛んでいった方に急いで移動する……そこには、回避に気を取られている二人のキャラクターがいて……。


「いけるッ!」


「だりゃああああぁぁっ!!」


 俺らは同時に弾を放った。それは見事連続して当たって……!


「「『レイ』『カレン』やった!!」」


 キル報告が綺麗にハモった。


『ナイス』

『強すぎぃ!!!!』

『エイム練習の成果出たな』

『いぶっきーのサポートあってだけど、それでも上手い』

『ハモったなww』

『いけるのか……!?』


「ナイスです、お二人」 


「いける、いけるよルイルイ!」


 完璧だ……! このまま全員で上がって、エリアを取り返して……それを時間まで守りきれば絶対に勝てる!! 俺ら、ルイ軍の反撃はこれからだ────


『ドッパァン!!』


「ん、んなああぁぁぁああああっ!!!?」


「…………ッ!!??」


 なっ、何が──!!? リリィがやられたのか……!? でもあの高台からは、ここは射程外な筈……どっ、どうして……!?


「るっ、ルイルイ!! 前!!」


「前……?」


 急いで俺は正面に向き直り、そっちに視点を合わせる……そこには。


「……!!」


 ────長物を構えた悪魔ライムさんが、エリアど真ん中に立っていたんだ。

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